「箕島-星稜」から40年 星稜が智弁和歌山と3回戦で激突!
夏の甲子園では3回戦までの対戦は、再抽選なしのトーナメントになる。3日の抽選会で強豪が集中したブロックがあった。優勝候補に挙げられる星稜(石川)と智弁和歌山が、ともに2勝すれば3回戦で当たるヤマに入ったのだ。そして両校とも、苦闘を勝ち抜いて、3回戦で激突することになった。40年前の3回戦では、星稜が同じ和歌山の箕島と、延長18回の死闘を演じている。
星稜・奥川は1回戦で完封
星稜は、大会ナンバーワン右腕で、「高校ビッグ4」で唯一、今夏の甲子園出場を果たした奥川恭伸(3年)が、ずば抜けた完成度の高さを披露し、2試合11回1/3を5安打12三振無失点。立命館宇治(京都)との2回戦で、自己最速を更新する154キロをマークした。実は、石川大会で、球場のスピードガンが158キロを表示し、大会前には「最速158キロ」とされていた。開会式リハーサルの日(5日)に筆者が直接そのことを聞くと、「あれは間違いです。153(キロ)のままです」と否定し、初戦の事前取材でも、取り囲んだ取材陣にそのことを伝えていた。旭川大高(北北海道)との1回戦では、初回に最速タイの153キロを出し、試合後に筆者が代表質問した囲み取材でも、「あれで球場の雰囲気を味方につけられた」と話していた。しかし、試合は打線が低調で、2回に挙げた1点を守り抜く苦しい展開になり、9回には右翼へあわや同点弾かと思われる大飛球。辛くも1-0で逃げ切り、「あれは風がなければ入っていた」と、初戦完封にも満足した様子はなかった。
154キロも指にかからず
2回戦の立宇治戦は、後輩の荻原吟哉(2年)が先発し、5回1安打の好投。しかし5-0の6回、マウンドに上がった寺西成騎(2年)が四球から崩れ、2点を失うと、林和成監督(44)は、たまらず奥川を救援に送った。
奥川は、いきなり適時打を許した(生還は寺西の責任走者)が、後続を冷静に打ち取った。奥川は、「ピンチの場面の救援で、入りが難しかった。打たれたが、気持ちをうまく切り替えられた」とふり返った。この日は、温存ではなく当初から救援の予定で、「最低でも2回はいく、と伝えていた。イニングの頭からが理想だったが、あの展開なら仕方ない。ピンチで登板したのは、いい経験になったのではないか」と、林監督もいかなる場面でも自在に投げられるエースへの信頼感が増したようだ。ちなみに、最速更新の154キロについて聞かれると、「指にかかったボールではない。指にかかっての数字だったらよかったが、打者はあまり速く感じなかったのでは。指先の感覚を大事にしているので」と、エースは納得していないようだった。
智弁和歌山はビッグイニングで明徳圧倒
智弁和歌山は、初戦の米子東(鳥取)の左腕・森下祐樹(3年)の緩急に幻惑され、5回までわずか1得点。それでも疲れが見え始めた6回にとらえ、一気に試合を決めた。エースの池田陽佑(3年)が、要所を締めて8回1失点と好投し、中谷仁監督(40)を安心させた。難敵の明徳義塾(高知)との一戦では、甲子園初登板の左腕・矢田真那斗(2年)が5回を1失点で切り抜け、6回からは池田がマウンドに上がった。その池田が明徳をあっという間に三者凡退で打ち取ると、7回、流れは智弁に傾く。突破口を開いたのも池田だ。浅い左中間の安打を好走塁で二塁打とすると、相手の失策で好機を広げ、今大会無安打の1番・黒川史陽(3年=主将)が遊撃手正面への強烈な当たり。これが大きく弾み、同点適時打となる。さらに二者を置いて、2番・細川凌也(2年)が右翼席へ勝ち越し3ランを放った。これで勢いづいた智弁打線は、5番・根来塁(3年)の2ランで畳みかけ、東妻純平(3年)が二者連続アーチ。3本塁打大量7得点のビッグイニングで、明徳を7-1と圧倒した。
智弁のエース・池田は絶好調
明徳戦は智弁らしい長打攻勢で決したが、見逃してはならないのがエースの池田だ。
この日も4回をわずか1安打。2試合、12回を投げて、8安打11三振の1失点という素晴らしい内容で、「これまで頼りないエースだと思っていたが、甲子園に来て風格が出てきた」と、中谷監督も絶賛した。池田はこの日、「めざしてきた数字」という自己最速の150キロをマークするおまけまでついて絶好調をキープし、次の大敵・星稜との大一番に万全の状態で臨む。
両エースの投げ合いか
試合は、両校ともエースが先発することになるだろう。15日は台風接近で順延が決まっていて、試合は17日になった。2回戦から中3日、空くことになり、疲労などの心配はない。打線は、智弁が上のようにも見えるが、明徳戦ではワンチャンスに大量得点しただけで、2戦とも軟投派の左腕に中盤まで手を焼いた。奥川は全く球筋の違う速球派右腕で、直球の速さ、変化球の質とも高校レベルでは飛びぬけている。智弁としては、単打戦法でしつこく攻めたい。一方の星稜打線は、打てなかった初戦の反省から短期間で修正し、全員がコンパクトな振りを見せていた。立宇治戦では、8回2死から3番・知田爽汰(2年)、4番・内山壮真(2年)の連打でダメ押し点を奪い、「下級生がつないで2死から取ったのが大きかった」と林監督を喜ばせた。それでも14安打しながら6得点は物足りなく、林監督は、「チャンスをいくつもつぶしたのは課題。ただ、打線の状態は上がっている」と、攻撃が上向きであることを認めている。
1番打者がカギ握る
大一番はお互い、好投手が相手だけに、カギを握るのは1番打者の出来だ。智弁の黒川は本来3番だったが、1年生の成長で県大会から1番に座る。2試合で安打は前述の1本だけと不振ではあるが、5季連続出場で甲子園を知り尽くしていて、幸運な安打がいいきっかけになるのではないか。星稜の東海林航介(3年)は2試合で3安打しているが、長打もなくまだまだ本来の調子とは言えない。特に初戦、右投手の緩急に翻弄されていたが、中軸に当たりが出始めているので、何としても出塁したい。
星稜大エースと好調智弁投手陣は互角
星稜は奥川以外の3投手が2回戦で登板し、現在の調子や精神状態は林監督が把握している。智弁も矢田に使えるメドが立ったので、池田が打たれても早めにスイッチできる。また、速球派の右腕・小林樹斗(たつと=2年)も1回戦を見る限り好調で、短いイニングで全力投球されると手が出ない。池田の救援成功で小林の思い切った先発起用の可能性もある。エースの力量は奥川に及ばないものの、智弁は投手陣全体が好調で、投手の総合力は互角。起用法や交代機も含め、エース以外の投手の出来に、勝敗の行方が託されるかもしれない。
名勝負から40年 またも星稜と和歌山代表が
智弁の中谷監督は、「(星稜は)圧倒的な優勝候補。全員でぶつかりたい。チーム全員で日本一になるための練習をしてきた」と選手に信頼を寄せれば、星稜の林監督も、「挑戦者の気持ちで戦いたい」と意気込む。ちょうど40年前の8月16日には、高校野球史上最高の試合と言われる(筆者は確信しているが)、「箕島-星稜」の死闘があった。相手は智弁だが、和歌山の代表であることに変わりない。これまでから幾多の名勝負があった16日からずれるのは残念だが、星稜が箕島戦の直前に、立宇治の前身である宇治を破っていて、同じ3回戦で当たるのも何かの縁か。これからの100年に、長く語り継がれるような名勝負を期待している。