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【KHL】北米で不遇の道を歩んできた身長170センチの男は、ロシアで頂点を狙う!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
ジャスティン・アゼベド(Courtesy:@Sport_BO)

 ロシアをはじめとする7か国の27チームが加盟する KHL(コンチネンタルホッケーリーグ)のプレーオフは、今季のチャンピオンを決める「ガガーリンカップ ファイナル」が明日(現地時間)から始まります。

▼宇宙に旅立ったアイスホッケーパック

 東西のカンファレンスを勝ち上がって来た2チームによる、今季の頂上決戦の顔合わせは、

AKバルス カザニ(イースタン)vs チェスカ モスクワ(ウエスタン)

となりました。

 今季のファイナルは、カザニのタテニェフト アリーナで開幕。

 第1戦の試合前には、日本人宇宙飛行士の金井宣茂(のりしげ)氏らとともに、昨年12月にソユーズ宇宙船で宇宙空間へ向かったアイスホッケーパックによるセレモニアル パックドロップ(記念フェイスオフ)が行われる予定です。

▼8季ぶりの栄冠を狙うカザニ

 王者を決める戦いをホームアリーナからスタートできるカザニは、旧スーパーリーグを発展解消する形で、2008年9月に第一歩を踏み出したKHLの初代チャンピオン。続く2季目も頂点に立ち連覇を達成したチーム。

 その後、3季前にもファイナルまで勝ち上がりましたが、スカ サンクトペテルブルグの前に敗れ、あと一歩及ばなかっただけに、8季ぶりの栄冠を狙います。

▼記録を狙うポイントゲッター

 躍進の原動力となっているのは、ジャスティン・アゼベド(FW・30歳/タイトル写真)

 プレーオフに入ってからの14試合で、リーグトップの21ポイント(7ゴール14アシスト)を記録する働きで、ポイントなしに終わったのは、わずかに1試合だけ。

 先月8日から11試合連続ポイント中と、チームのオフェンスをけん引しています。

 もしアゼベドがファイナル第1戦でもポイントを記録すれば、「12試合連続ポイント」に!

 この数字は2011年9月の航空機の離陸失敗事故によって命を落としたパボル・デミトラ(元ロコモーティブ ヤロスラブリFW・享年36歳)と、KHL通算ポイント記録保持者で「ミスターKHL」と呼ばれる セルゲイ・モジヤキン(メタルーグ マグニトゴルスク FW・37歳)と並ぶ、プレーオフ記録となります。

▼クロスビーやマクデイビッドと同じMVPを受賞

 カナダ出身のアゼベドは、小さい頃からホッケーに興じ、同世代の中では抜きん出た存在でした。

 多くのNHLプレーヤーが育ったOHL(オンタリオ ホッケーリーグ=ジュニアの選手たちがプレーするリーグ)でMVPに輝いただけでなく、カナダ(と一部のアメリカ)の主要なジュニアリーグ(WHLQMJHL)に在籍する全選手を対象にしたCHL(カナディアンホッケーリーグ)最優秀選手」も受賞。

 シドニー・クロスビー(ピッツバーグ ペンギンズFW)や、コナー・マクデイビット(エドモントン オイラーズFW)ら、NHLのスーパースターたちがジュニア時代に手にしたタイトルには、アゼベドの名前も刻まれているのです。

▼ドラフト指名は153番目

 これほどの選手とあって、NHLの各チームからドラフト1巡目指名の有力候補として、リストアップされると思われましたが、アゼベドがロサンゼルス キングスからの指名を受けたのは、6巡目(2008年全体153位)

 ジュニア時代のチームメイトで、同じFWのミケル・ボッカー(28歳・現サンノゼシャークスFW)は、アゼベドのポイント数(124ポイント)の半分強(73ポイント)しかマークしていないにもかかわらず、アリゾナ コヨーテス(現在の名称)から1巡目(全体8位)指名を受けました。

▼身長170センチの不遇の男

 両者の差を生んだ最も大きな要因は、サイズの差でした。

 ボッカーの身長が182センチであるのに対し、アゼベドは 「170センチ」

 指名を受けたロサンゼルスのキャンプに参加した姿を見ても(左から二人目)、他の選手たちとのサイズの差は明らか・・・。

 アフィリエイトのAHLチームでは、主力FWとして結果を残し続けたものの、サイズの差を埋めるだけの評価は得られず、昇格の吉報は届かずじまい・・・。

 さらにはケガにも泣かされ不遇の道を歩み続けたアゼベドは、NHLデビューを果たすことのないまま、24歳になって迎えたオフに視線をヨーロッパへ移し、フィンランドのチームと1年契約を結びました。

▼ヨーロッパで開花!

 ところが、これがアゼベドの大きな転機に!

 ヨーロッパのプロリーグは、北米のアリーナより広いサイズのリンクで試合が行われるため、プレー可能なスペースが広くなったことをアドバンテージに、アゼベドは豊富な運動量を武器にリンク上を躍動。

 フィンランドのチームで1年プレーしたあと、KHLを活躍の場に移し今季が5年目。

 北米では高い評価を得られなかったのとは対照的に、ヨーロッパで一気に開花したのです!

▼ゴールへ向かっていく強い気持ち

 「ゴールへ向かっていく強い気持ち」

 アゼベドは自らの身上を、このように話しましたが、その言葉に嘘はなく、身長170センチの男は、恐れることなく相手チームのゴール前へ攻め込み、チームに得点をもたらせています。(緑#51)

 KHLを活躍の場に移した年に、レブ プラハ(既に解散)の一員として、ファイナルまで勝ち進みながら、あと一歩及ばず敗れた悔しさを晴らせるのか?

 その答えは、自らが口にした「ゴールへ向かっていく強い気持ち」を、アゼベドが氷上で見せ続けることができるか否かに、かかっていると言えそうです。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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