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第4エンド「男子カーリングを巡る考察その3。SC軽井沢、ホームリンクで世界を迎え撃つ」

竹田聡一郎スポーツライター
前日会見で意気込みを語るスキップの両角友佑。安定のケミストリー堂珍似。

日本カーリングの男子ナショナルチームである、スポーツコミュニティ軽井沢クラブ(以下SC軽井沢)は、NPO法人のチームであり、プロのアスリートではない。メンバー4人がそれぞれに職を持ち、職場の理解と協力を得て日々のトレーニングや海外への遠征や合宿に参加する時間を作っている。

スキップの両角友佑(もろずみゆうすけ)とセカンドの山口剛史はSC軽井沢クラブに所属しており、ジュニア年代のスクールなど指導を担当するほか、両角は総務部、山口はスポーツマーケティング部でそれぞれ勤務している。

「経理もやりますし書類も作成します。その辺のフェンスが破れてたら直しますし、ホントになんでもしますよ」(両角)

「スポーツイベントを企画運営したり、あとは企業がチームビルディングのためにカーリング研修を取り入れているケースもあるので、それのアテンドとインストラクターもします」(山口)

サードの清水徹郎は地元の長岡鉄工株式会社の工場勤務だ。朝8時から夕方17時半まで現場に出て働く。遠征や合宿、大会があるので長期的に同じ現場に通うことは難しいが「その時その時で大変そうな現場に手伝いにいきます。ペンキも塗りますし、たまには溶接も」と本人は語る。

スキップ両角友佑の実弟であるリード両角公佑(こうすけ)も地元勤務だ。佐久市の建築資材の販売業株式会社タカサワマテリアルに営業部員として勤めている。勤務時間は8時-17時だが、カナダ遠征や日本選手権といった大会に参加する際は、前後の強化合宿も含め最低10日、長ければ2ヶ月にもおよぶ長期休暇を申請するほかない。NHKのドキュメンタリー「アスリートの魂」では、カーリングのシーズンド真ん中である1月の勤務日がたった1日だったという勤務シフトが、「社員一同でフォローするので、そのぶんカーリングに専念してほしい。応援しています」という上司のコメントと共に紹介され、「神対応」「素晴らしい会社だ」「絶対に五輪に出てほしい」とネットなどで話題になった。両角公本人も「本当に感謝しかない」とことあるごとにコメントしている。

上記のようにそれぞれ別の仕事があるため、朝に山口、続いて両角友、夕方から夜にかけて仕事を終えた両角公、清水という順で長岡はと美コーチとマンツーマンでトレーニングを積むのが彼らがホームにいる時のルーティーンだ。4人揃ってアイスに乗るのは大会前の強化合宿や大会中に限られてしまう。

例えば、毎秋に敢行するカナダ合宿を取りやめれば、4人揃って地元でアイスに乗る機会は作れる。それぞれの職場への負担も小さくなるし、経済的にもだいぶ楽になったハズだ。しかし両角友は世界を見据えた強化のためにそこだけは譲らなかった。

「昔から日本で教わるカーリングはどこか手堅かったんです。それを否定するわけではまったくなく、それを学んだうえで、カナダで観るような劣勢でもどーんと逆転するようなゲームをやってみたいなと思って。そのためにはやっぱり毎年、無理してでも(カナダに)行った。(行って)良かったと今は思います」

どんなに金銭的に苦しくても、結果が出なくても、自分たちのカーリングは世界とつながっていると信じ続け、毎秋、海を渡った。

その結果、14年の世界選手権で5位、15年は6位と、安定して世界中位の成績を残すようになり、今年4月のスイス大会では日本男子代表最高位となる4位という結果につながった。10月のパシフィックアジア選手権では初優勝を果たし、来年3月にカナダで行われる17年世界選手権の出場権も獲得。18年平昌五輪出場はほぼ確定といっていいのが男子代表の現状だ。「カーリングって男子もやってるの?」とは、来年の今ごろには誰も言わなくなっているかもしれない。

さて、そのSC軽井沢は今日から18日(日)までの4日間、ホームリンクの軽井沢アイスパークで開催される「軽井沢国際カーリング選手権大会2016」に出場する。世界的な賞金ツアー「ワールドカーリングツアー」の1タイトルであり、カナダやスコットランドやロシアといった強豪や、アジアのライバルである韓国のチームなど、国内外男女合わせて30チームが参加する世界レベルのボンスピルだ。

両角友は「これだけのチームが揃った中で、大きなことは言えないけど」と前置きした上で「地元の大会だけどなかなか最終日まで(負けてしまって)残れずに観戦しかしていなかったので、たまにはやるほうで残りたい。決勝に残れば関係者や観てる方々も喜んでくれるかなと思っています」とコメントした。

それぞれの家族や職場はもちろん、協賛してくれる企業。その他にも例えば、名前は表に出ないけれど、遠征のたびに補給食などを「好きなだけ持ってけ」と無償提供してくれる地元スーパー「ヤオトク」に恩返しがしたい。その一心で彼らは頂点を狙う。

以前に清水は言っていたことがある。

「勝つことでしか、結果でしか恩返しはできない」

支えてくれているすべての人のために、世界と互角以上に戦う彼らの姿を期待したい。

「軽井沢国際カーリング選手権2016」

Karuizawa International Curling Championships 2016

主催/軽井沢町、軽井沢国際カーリング選手権大会実行委員会

会場/軽井沢風越公園 軽井沢アイスパーク(長野県北佐久郡軽井沢町発地1154-1)

日程/2016年12月15日(木)〜 2016年12月18日(日)

放送/BS朝日にて女子決勝(12月18日15時〜)など4試合

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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