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オリンピック目指す松井千士の新型コロナ対策は。キヤノン移籍の背景も語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
心機一転(写真:JRFU)

 男子7人制日本代表の松井千士が、「密」を作らずにおこなう現在の練習について語った。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で長らく活動を自粛してきた同代表は現在、全国5か所(北海道、東京、名古屋、大阪、福岡)に分かれて少人数でのトレーニングを実施している。来夏に延期となったオリンピック東京大会でのメダル獲得を目指す。

 松井は公式で「183センチ、88キロ」の25歳。スピードを持ち味とし、15人制でも日本代表選出経験がある。昨年のワールドカップ日本大会で活躍した福岡堅樹からも「速い」と称される。今季はサントリーからキヤノンへ移籍し、社員選手からプロ選手へ転向した。

 7月9日、オンラインで会見をおこない、「自分の価値を高めたい」と決意を新たにした。

 以下、共同会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――現在の7人制日本代表は、複数の地域に分かれての練習会を実施中。

「東京のメンバーと集まっている。僕自身は2回目の練習参加でした。まだまだソーシャルディスタンスを取りながらで、コンタクトはできないんですが、セブンズファミリーの顔が見られて、やっと始まってきたなという感覚があって、充実しています。

 少人数でやっているんですけど、グラウンド練習の時は2人ひと組になって(複数のセクションを)ぐるぐる回る形を取っています。グラウンド隅のテントに各自で持ってきたボトルを置いて、手洗い、うがいを徹底してから水分補給…というのを徹底しています。それを忘れて飲もうとしている選手には他の選手に注意されます。感染予防はしっかりしています。

 オリンピック、ワールドシリーズを見据えると、ウェイトの部分で成長できる。もともと83~4キロだったのですが、88キロにウェイトアップさせ、スピードも落ちないよう身体を慣らしているところです。

 練習ができるようになってきて、個人としては身体も大きくなっていると思ってきていたのですが、走ると体力が落ちているなと。まだまだセブンズのフィットネスには戻っていない。ただ、体重も増えているので、怪我がないように、慣らしながらやっていきたいです。

 サントリーに入ってから3年間、1年半くらいは怪我(に泣かされた)。まともに試合に出られなかったですし、肉離れも2~3回。ウェイトが上がって身体がなじんでいないところで怪我をした部分が多かったです。これまでも練習終わりと夜にストレッチをしていましたが、いまは朝起きてからストレッチをしてから家を出て、風呂上りにもストレッチ。柔軟性を徹底して、身体のケアもプロフェッショナルとしてやっていきたいです」

――オリンピック東京大会の1年延期をどう受け止めたか。

「3月のタイミングで延期が決まった。この時はメンタルで落ちてしまう部分もあったんですけど、逆に言えばあと1年半以上も準備する時間が増えた。それはセブンズ日本代表にとっていいことですし、より一層チーム力、個人の能力を上げられる。

 マイナスの部分は桑水流(裕策)さん、橋野(皓介)さんがセブンズファミリーのメンバーから抜けたこと。ベテランの選手にとっては1年という重みがあって。2人はもともと中心選手でしたし、(代表引退は)寂しい。

 前から小澤大さん、僕がキャプテンをやらせてもらいましたが、まだまだ未熟なキャプテンでした。リオデジャネイロでキャプテンだった桑水流さんに色々と質問をして、勉強をさせてもらいたかった。学ばせてくれる人が近くにいないこと、それまで学べなかったことはもったいないなと思います。ベテランとしてまとめてくれた橋野さんは(キヤノンで)同じチームになった。近くにいられる分、色々と聞いていきたい。若いなかまとめていく場所に入れてもらっているので、まとめていきたいです。自分たちはセブンズファミリー、家族のような存在になると言っているんですが、もっとチームにまとまりが欲しいと感じていて。オリンピックの選考もあり、今年3月の時点では個人個人(に集中する)という感じがありました。リオデジャネイロの時はまとまりがあったし、まとまりのあるチームが勝つ。

 そこは自分自身、他のリーダー陣を巻き込んで作り上げていきたい。また個人のスキルもワールドシリーズ上位チームに比べて劣ってしまっているので、この1年間でもう1段階、2段階とステップアップしていかないとメダルは獲れないと思います」

――日本代表は次回のワールドシリーズからコアチームに昇格します。

「セブンズ日本代表として最低限の結果を残せたと思います。今年はワールドシリーズ自体は延期になったと思いますが、来年のオリンピックの後に、世界で注目してもらえるのはワールドシリーズ。未来に繋げられる大会に昇格できたのはよかった」

――同じワールドシリーズに出るのでも、ゲスト参戦とコアチーム参戦とでは違いはありますか。

「メンタルの部分で違う。オリンピックのホスト国ということで考慮してもらっていたところはあったと思いますし、それも自分たちにとってはチャレンジできるいい機会でした。ただ、コアチームになるとポイント争いもありますし、自分たちの生き残りもかかる。いつも最下位を争っているようではだめ。オリンピック後も上位を狙っていける体制を作っていきたいです」

――松井選手は、7人制日本代表を引退するスピード自慢の福岡堅樹選手から「自分より足が速い」と評されています。

「(以前より)福岡さんから相談を受けていたので、もしかしたら引退されるのかなというのがあった。色々と期待もしてくれていますし、福岡さんが『俺よりも速い』と言ったことで、ファンの方からの期待、ハードルが高くなったと思います。凄く楽しみ。オリンピックで魅せたいです」

――今季、サントリーからキヤノンへ移籍しました。

「僕自身、場所を変えることが成長に繋がると思って、キヤノンに移籍することになった。(従来は社員選手だったが、今後は)15人制のプロ選手になる。2023年(ワールドカップフランス大会)を見越して、プロ選手として自分のラグビー人生をかけてプレーしたいというところで、今回の選択に至りました。

 オリンピックに賭ける思いは強くて。2016年には(オリンピックリオデジャネイロ大会直前に)落っこちた悔しい思いもあり、やはり何かを賭けてやらないと。オリンピックにただ出るだけでは僕自身も満足できないです。オリンピックでメダルを獲って、自分自身も活躍して世界で注目されるプレーヤーになりたい。そのためにより一層ラグビーに費やす時間を増やす。

 もともとプロ選手になりたい気持ちはあった。(東京大会の開催が)1年延びたことがあったからかはわかりませんが、勝負を仕掛けるタイミングが、このタイミングでした。

 正直、社員選手からプロ選手になったからって一気にラグビーがうまくなったり、足が速くなるわけじゃないんですけど、社業をしていた時間をラグビーに費やせます。セブンズラグビーを広げるような仕掛けを考える時間もできている。

 治療など、コンディショニングの部分で怪我をしないような取り組みをしています。あとは元陸上選手の方に教わってスピード(アップ)に特化した時間も作っています。社業をしていた時間をそのように使っています。

 これからはまず、自分自身の価値を高めたい。松井千士を応援してもらえるような形を取っていきたい。僕自身、何が強みなのかまだわからないですけど、メディアの方に取り上げてもらえるようにしたい。色々な形で僕を知っていただいて、セブンズのよさを広げることに繋げられたらと思います」

――試合時間や特性の異なる7人制と15人制をどう両立させますか。

「来年7月までは7人制に特化してやり抜いていきたいですが、まだまだ2023年のワールドカップ(15人制)も目指したい。それには80キロ台の低いところでは戦うことができないと思うので(体重増加に挑戦している)。二兎を追うのは難しいですが、目指していきたい。

(キヤノンの一員として臨む15人制のトップリーグは)来年1~5月にあると思います。僕自身、試合に出られるかはわからないです。まずはセブンズに特化する。僕たちはただオリンピックに出るだけではなく、メダルを獲りに行く。中途半端なことはしたくない。

 オリンピック東京大会の後はセブンズを続けるというよりトップリーグで実力を見せて、15人制日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチにアピール。食い込んでいきたいです」

――キヤノンへはセブンズ専念の意向を伝えているのですか。

「サントリー時代もそうでしたが、オリンピックスコッド(東京大会に向けた代表候補)に入ったらそこへ専念することになっている。今回もオリンピックスコッドに入ればそうできると聞いている。僕自身もチャレンジしたいと話しています」

――移籍先のキヤノンでは、以前サントリーを率いた沢木敬介監督が就任しました。

「サントリーの選手からもよく(沢木氏の影響で移籍したのかと)言われたんですが、僕自身、移籍を決めてから(沢木新監督に関する)報道が出たので、知らなくて。後々、沢木さんと久々に会った時に、『俺が監督だけどいいのか』『はい、大丈夫です』と話しました」

 男子7人制日本代表がウイルスの感染防止対策を施しながらトレーニングしている様子、松井本人がオリンピックでのメダル獲得と15人制日本代表入りに向け体重増加と身体のケアに注力していることが伝わった。職業戦士として、新たな動きが注目される。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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