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東京新聞・望月記者の菅官房長官追及が投げた波紋とその背景

篠田博之月刊『創』編集長
6月21日の集会で発言する望月記者

東京新聞社会部の望月衣塑子(もちづきいそこ)記者が連続して菅官房長官会見に参加し、激しい追及を行っていることが話題になっている。

6月21日、参院議員会館で「安倍やめろ!!緊急市民集会」(主催・森友告発プロジェクト)が開かれ、350人以上の立ち見も出る盛況だったのだが、そこに取材のために訪れたという望月記者が、司会に促されて発言した。発言が終ってからもしばらく拍手がなりやまぬという反響で、ネットなどでは望月さんを「救世主」とまで言っている人もいる(それは幾らなんでもちょっと言い過ぎではないかと思うが)。

望月さんがなぜこれほど注目されたかといえば、6月8日を皮切りに、菅官房長官の会見に参加し、相次いで激しい追及を行っているからだ。彼女は社会部記者なので政治部の了解を得て参加しているというが、それまで内部文書を「怪文書」扱いしたりといった菅長官の対応にいら立ちを募らせていた市民が、望月さんの行動に共感したからだろう。またたく間にネットで大きな話題になった。

菅官房長官のひどい答弁に突っ込みも入れることなく、ただ記録するためにひたすらパソコン入力をやっている記者たちの姿がテレビで映しだされるたびに、いったい記者たちはなぜもっと突っ込まないのかと多くの市民が感じていたと思う。 

望月記者もそうした状況を見かねて官房長官会見に飛び込もうと思ったのだろう。6月8日の会見など、何と23回も質問を行ったという。そして、ついには会見運営側から「同趣旨の質問を何回もするのは控えて頂きたい」と言われた。しかし、それにひるむことなく、即座に「きちんとした回答を頂けていると思わないので繰り返し聞いています」と切り返し、これがテレビなどで放送された。

考えてみれば、昨年の舛添前都知事の公私混同スキャンダルの時には、会見で記者たちが突っ込みを行い、それをテレビで見た市民が喝采を送っていた。記者が市民の知る権利の代行者というのであれば、それこそが本来のあり方だろう。安倍総理や菅官房長官などの疑惑に対して知らぬ存ぜぬの答弁ばかり見せられた国民は相当いらだっていたに違いない。

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さてその望月記者だが、やはりというか、官邸としては、目障りなあの記者を何とかしろという話になったらしい。『週刊新潮』6月22日号は「女性記者の身辺調査を指示した官邸の強権」という記事を掲げ、菅官房長官が「警察組織を使って彼女の身辺調査をするよう命じました」と書いた。いわば前川喜平・前文科事務次官を「出会い系バー通い」スキャンダルを流して潰そうとしたのと同じことが行われようとしたわけだ。

ところがその報道を見た全国の市民から東京新聞に「望月記者を守ってほしい」という声が寄せられたという。東京新聞の販売エリア以外の地方からも電話がかかってきたそうだ。この時期、共謀罪や加計学園スキャンダルで、安倍内閣の支持率が落ちるなど、国民の怒りが沸騰した時期で、望月記者にとってはその空気が背中を押すことになったといえる。

週刊誌は『アエラ』『週刊現代』『週刊ポスト』『週刊金曜日』など多くの雑誌が望月記者にエールを送るような記事を掲載した。こうした動きによって、官邸としてもあまり露骨な「望月潰し」ができにくい雰囲気となったといえる。

ちなみに『創』も次号8月号(7月7日発売)で望月記者のインタビューを掲載しているのだが、これまでの彼女のインタビューより相当踏み込んだ内容だったため、東京新聞も一時はちょっとピリピリムード。東京新聞は一貫して彼女を守るというスタンスだが、それゆえにこそ彼女を気にもしているよう。でも何とか無事に校了しました(ぜひ読んで下さい)。

ネットでは望月記者に拍手を送る書き込みと同時に、ネトウヨからの激しい攻撃もなされている。そして6月29日、この間、安倍政権との関係を強めている産経新聞に「東京新聞記者に苦言」という記事が掲載された。28日の会見で菅官房長官が望月記者に苦言を呈したという内容で、こう書かれている。

《菅氏は「事実かどうかまず確認した上で質問していただきたい」と求めた。それでも「疑惑の説明責任を果たすべきではないか」などと質問を繰り返す記者に対し、相当の忍耐を強いられていたようだ。》

望月記者に何度も追及されて菅官房長官がいら立っているのは確かだろうが、気になるのはこの産経の記事が、菅官房長官の目線に立って書かれていることだ。望月記者は、読売新聞の前川前次官スキャンダル報道も問題にしているから、読売も含めた安倍政権寄りのメディアが、今後、「出るくい」を打ちにくる可能性は十分にある。

望月記者の奮闘については今のところ、雑誌メディアは取り上げているが、新聞はほとんど取り上げていない。ただ記者現場では共感する者いるし、いろいろな波紋を投げているようだ。東京新聞はもちろん自紙の紙面でとりあげるのは難しいだろうから、この問題、ぜひ朝日新聞や毎日新聞が取り上げてほしいと思う。

蛇足ながら、共謀罪法案が強行採決された6月15日夜、国会前の学生たちを中心にした抗議集会を見ながら少し気になったのは、彼らが「野党もがんばれ!メディアもがんばれ!」とコールをしていたことだ。そのコールはその夜だけでなく、しばらく前からなされていたのだが、メディアがそんなふうに、抗議する市民や学生にストレートに応援されることはあまりなかったように思う。

最初は皮肉でコールしているのではないだろうなと思ったが、どうもそうではないようだ。安保法制以来、学生や学者や弁護士が抗議に立ち上げる中で、メディアが世論を動かす極めて大事なポジションにいるのは明らかなのだが、どうもその期待に応えられていない。その思いは今も同じで、そんな思いでいるから、国会前の「メディアも頑張れ!」コールには、ちょっと妙な気持ちになった。

いずれにせよ今回の望月記者の行動は、メディアやジャーナリズムのあり方を考える大きな問題提起になったと思う。これをぜひメディア界が受け止め、自らの原点を見直すきっかけにしてほしい。本来なら、多くの記者がそんなふうに権力に厳しい突っ込みを行い、望月記者のような行動が突出するのでなく当たり前になることこそが必要だと思う。

在京紙は以前から、朝日・毎日・東京のリベラル派と、読売・産経の保守派に分かれていると言われてきたが、ここへきてその対立はさらに激しくなっている。読売新聞の5月22日の前川スキャンダル報道や、この間、安倍総理が改憲問題などに触れるのが産経のイベント後の会見だったりと、読売・産経の政権寄りは加速している。

6月23日の日本記者クラブの会見で前川さんは「国家権力とメディアの関係に不安を覚える」と強調した。いまメディアのあり方が本当に問われている時期だと思う。

(※2枚の写真撮影は森友告発プロジェクト)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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