日本にいる外国にルーツを持つ生活者についてもっと知ることが必要だ
日本は、長らく単一民族国家というイメージで語られることが多かった。しかしながら、その歴史を振り返れば、日本は、何度も外国人材やその知見を活かし発展し、現在の日本があるといえる。
しかも、昨今は、日本は、経済協力開発機構(OECD)の調査によると、年間の外国人受け入れ数(2016年)はドイツ、米国、英国に次いで第4位の移民大国といわれることもある。そして在日外国人の数は年々増えており、2019年6月には過去最高の282万9,416人に達している。
そして、日本は、少子高齢化が急速に進展し、世界で最も高齢化が進んだ社会ともいわれ、現在そして今後の急激な労働力不足が叫ばれるようになってきていた。そのような状況を背景にして、2019年4月には入管法が改定され、従来の高度外国人材に加えて、単純労働を含む外国人材受け入れが拡大された。これと並行して、外国人による単純労働に抜け道としてのこれまで存在してきた技能実習制度等があった。
このような状況のなか、技能実習生をはじめとする外国人材の厳しく悲惨な労働状況などがニュースや報道などの様々なメディアで報じられることが多かった。だが、それらの多くは、仕事や労働などの側面は描いていても、生活者としての外国人材の生活や日常の様子を伝えるものは少なかった。
また日本で生活する外国人あるいは外国にルーツを持つ人々も、実に多様で実に様々な日常を送っているはずであるが、その実態が伝えられることは非常に限られていた。
そんななか、一冊の本が出版された。それは、日本語教師で、全国の地域日本語教室や国際交流協会などと長らく仕事をしてきた経験のある嶋田和子さんが、秋田県能代市とその近隣地域および静岡県浜松市での活動での経験を基に書いた書籍『外国にルーツを持つ女性たち…彼女たちの「こころの声」を聴こう!』である。
同書には、次のような人々の日本での日常の生活に基づく思いや声が描かれている。
・日本人男性と結婚し、地域社会で暮らす外国人女性
・外国にルーツのある女性を母親とする子どもたち
・日本社会で家族と暮らす日系ブラジル人・ペルー人
・中国帰国者やその家族
この中には、日本国籍を取得している者もいるので、その場合、先述した在日外国人には厳密にいえば含まれないが、広い意味での日本における外国人材を知る意味や今後日本でもこのような外国ルーツを持つ人材が増える可能性があるということを考えれば、広い意味での外国人材であると言って間違いない。
同書は、そのような外国人材(同書では、「外国にルーツを持つ人材(女性)」と定義している)が、日本社会で、生活者としてどのように生活し、日常を送っているかについて、その折々の思いや気持ちも含めて描いており、外国人材が、日本社会で具体的にどのように生き、生活しているかをビビッドに描いている。
また同書は、外国人材が、日本社会で単に生活しているだけでは、その人材は生活する地域(コミュニティー)やその住民とはつながらないということも描いている。そして、生活していく上では、日本語の習得がいかに重要であるかということについても描いている。
それはつまり、外国人材が、日本社会で生活していけるようになるには、つなぐ場や人がどうしても必要だということである。その意味において、日本語を学ぶ場である「日本語教室」は、外国人材と地域や住民をつなぐ場としても実は重要な役割を果たしているのである。
なお、同書は、「日本語教室」は、地域の外国人が日本語を学ぶ場であるだけではなく、日本社会を知り、地域の人材との関係を構築し、生活者として成長していける場であることについても描いている。
さらに、同書は、「日本語教室」は、日本語習得をハブにして、外国にルーツを持つ若い世代を成長させ、地域にインテグレートさせ、地域の未来の人材をつくる場としても機能していることも描いている。
以上のことからもわかるように、筆者は、同書を読んで、日本で最近論じられる労働者としての外国人材の視点を超えて、日本社会において外国人材を考える際に、生活者としての外国人材の意味・視点、日本語や日本語教室の重要性、外国人材を地域や住民につなぐ仕組みの必要性、地域の未来の人材としての若い外国人材など多くの新しい視座や考慮すべき点を得ることができた。また日本社会において、今後外国人材の問題や課題を考える場合に、これらの視点等がこれまで以上に重視されるべきだといえるだろう。
日本社会のこれからを考える上で、多くの方々にぜひ同書を読んでいただきたいと思う。