「著作権管理ブロックチェーン」というバズワードについて
「著作権管理ブロックチェーンのBindedが、朝日新聞などから95万ドルを資金調達」というニュースがありました。またブロックチェーンで著作権管理を行なう触れ込みのスタートアップが出てきたのかと思いましたが、Blockai社が名称変更したそうです。
Blockai社については既に書いています(「ブロックチェーンで著作権を保護する」という触れ込みの企業は実際には何をしてくれるのか?」)。同社のビジネスモデルを簡単に再度まとめると、
- 写真家やイラストレーターが作品をクラウド上に簡単に登録できる
- ビットコイン(プライベート・ブロックチェーンではありません)のブロックチェーンを使ってタイムスタンプを取得して証明書を発行
- ウェブ上で写真やイラストが使われていないかをチェックして作者に報告
ということになります。著作権は登録等の手続なしに創作と共に自動的に発生しますが、権利の帰属等について争いがあったときには作成日付の立証ができれば有利です(特に未発表作品の作者であることを立証する場合)。
従来であれば著作物の日付の立証には(米国であればUSPTOへの、日本であれば文化庁への)正式の著作権登録や公証役場での公証などの手段がありましたが、一般クリエイターにとっては料金や手続の煩雑さ等で決して使いやすくはなかったので、このような簡便かつフリーミアム・ベースの著作物登録と日付立証サービスは一定の需要があるでしょう。
ただし、ここで注目すべき点があります。上記のビットコインのブロックチェーンを使ってタイムスタンプを取得するプロセスはOP_RETURNというスクリプトを使っているらしいのですが、これには現状0.0001BTCかかります(現時点の相場だと約28円)。これに対して、従来型のタイムスタンプサービス、たとえば、アマノビジネスソリューションズでタイムスタンプ取得すると1回あたり8円で、ブロックチェーン使うより安いです。また、仮に、タイムスタンプの有効性について裁判で争うことになったとすると、信用と歴史ある企業(アマノの創業は昭和6年です)が管理するタイムスタンプの信頼性は立証容易であるのに対して、ブロックチェーンのP2Pの複雑なアルゴリズムにより保証される信頼性を裁判官に説明するのは大変なことになる可能性があります。
ということで、クリエイター向けの簡便な著作物登録サービスというビジネス自体は有望と思いますが、それを実現するためにはブロックチェーンは別になくてもよいですし、むしろ使わない方が安くて確実ではないかと思います。まあ、ビジネスプランの中に「ブロックチェーン」という言葉が入ってないと投資が得られないのでしょうがないのでしょうが。
ちなみに、経済産業省所管の独立行政法人であるINPIT(工業所有権情報・研修館)がタイムスタンプトークンを保管して必要に応じて原本証明できるサービスを無料で提供しています。別途、タイムスタンプサービスの契約が必要となりますし、企業の営業秘密管理を想定しているサービスですが、ブロックチェーンをまったく使わずに同種のサービスを提供できています。