「ブロックチェーンで著作権を保護する」という触れ込みの企業は実際には何をしてくれるのか?
前回の記事で引き合いに出した記事中で触れられているように、「ブロックチェーンで著作権を保護する」という触れ込みのスタートアップ企業がいくつかあります。そのひとつであるBlockai社が具体的に何をしているかを見てみましょう。
同社が対象とする著作物は音楽ではなく、イラストや写真などの画像作品です。クリエイターが創作した作品をBlockai社のウェブから簡単に無料で登録できます(ドラッグアンドドロップでも登録できますし、twitterで#blockaiのハッシュタグを付けて画像ファイルを添付してつぶやくだけでも登録できます)。ブロックチェーンへの登録によりタイムスタンプ付きのデジタル証明書が付与されて、作品と紐付けられます。
ブロックチェーンは独自のプライベート・ブロックチェーンではなく、ビットコインのブロックチェーンを使用しているようです。ウェブサイトには明記していないですが、OP_RETURNというスクリプトを使っているのではないかと思われます。
ここで、注意したいのは著作権は著作物の創作により自動的に発生し、登録や出願などの手続は不要という点です。これはベルヌ条約の要請なので世界ほぼすべての国で共通です。ゆえに、ブロックチェーンに登録したので新たな権利が生じる、ブロックチェーンに登録していないので権利が生じないといったことはありません。
では、何のために登録するかというと、タイムスタンプの時刻にそのユーザーがその作品を確かに登録したということの立証を容易にする目的です(一般に、"proof of existence"と呼ばれる機能)。他人が成り済ましで登録してしまう可能性は排除できませんが、少なくとも未発表の作品であれば、その作品の著作者は登録を行なったユーザー自身である可能性がきわめて高いと言えます。
要は、正式の著作権登録や公証役場での公証のような手続を安価に行なってくれるサービスということになります。なお、OP_RETURNでタイムスタンプ付与すると、現状では0.0001BTCかかります(本記事執筆時点の相場で約15円)。現在は無料で登録可能になっていますので、この料金はBlockai側が持ってくれているということでしょう。
自分の作品を表示したウェブ画面のスクリーンショットをウェブ魚拓等のサービスで保存するのとどう違うかというと、Blockai方式の場合は未発表作品でも時刻証明ができる点がポイントです。
実際に訴訟になった時にどの程度の法的効果があるかはまだ不明ですが、たとえば、コンペに未発表キャラクター案提出、ボツになったはずのに最終作品に自分のキャラとそっくりのキャラが使われてたというような件で争いになった場合には、未発表作品がコンペ前に存在していたことをタイムスタンプで立証できれば明らかに有利でしょう。
また、Blockaiは、登録作品とマッチする画像をウェブから検索してくれるサービスも提供しています。こちらはGoogleの類似画像検索のような機能であってブロックチェーンとは関係ありません。最近の「キュレーション」サイト問題でもあるように、自分の登録作品の無断使用発見→警告証送付という流れがシームレスにできるようになると有効に使えるケースもあるかもしれません。
結局のところ、「ブロックチェーンによって著作権を保護する」というのはちょっと言い過ぎで「著作権上の争いが生じた時にブロックチェーンによって権利の帰属を立証しやすくする」という方が正確と思います。