誠実に映るか。ジャパンラグビーリーグワン、創設の舞台裏まとめ。【ラグビー雑記帳】
企業クラブ主体の国内ラグビートップリーグは7月16日、ジャパンラグビーリーグワンに新装開店した。各クラブの収益化と競技面での競争率の向上を目指す。開幕は2022年1月7日だ。
持続可能なラグビー界の形成へ必要な変化と取れる一方、変化の過程ではトラブルが表面化。特に情報発信の方法に課題が残った。
「折衷案」ができるまで
もともとは「折衷案」だった。
まずは2019年7月以降、就任したてだった清宮克幸・公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)副会長がプロリーグ構想を打ち出す。加盟希望のクラブには法人化を義務付け、各クラブの拠点は2019年のワールドカップ日本大会の開催会場が望ましい、とも示した。
ところが、さる強豪クラブのスタッフは「清宮構想には合理性『は』あったけど…」。それ以前から「トップリーグネクスト」なる構想が練られていたことなどもあり、突如沸いた改革案に一部のチームがハレーションを起こした。JRFUはそれを無視しなかった。
かくして2020年5月までに、加盟希望クラブに法人化を義務付けない新リーグの枠組みが作り直された。リーグがJRFUから独立するのは清宮構想と同じ。新リーグの準備室長には、谷口真由美・JRFU理事(当時)が就く。当時のJRFU内の立て付け上、清宮と同じ「イノベーションプロジェクトチーム」に入っていたのだ。
「新リーグはプロリーグのトップリーグネクストの折衷案です」
2021年春までには、リーグを運営する主管権を一般社団法人ジャパンラグビートップリーグ(JRTL)が得る。この流れが、いまのリーグワン形成に繋がる。
数年間かけてなされるはずの新しいリーグの制度設計が何度も振り出しに戻った経緯については、JRFUの関係者も「もったいなかった」と認める。
審査という濁流
参入した24チーム(当初は25チーム)は上から12、6(当初は7)、6と計3つのディビジョンに分かれる。その配置を決める審査委員会の委員長も、谷口氏が務めた。
審査は2度おこなう。1度目が20年12月で、2度目が国内シーズンの終わる21年5月下旬以降である。
潮目を変えたのは、12月の審査である。
この時に見られたのは競技力以外の項目。自治体との連係度合い、ホームスタジアムの有無や使用頻度の見込み、小中学生向けてのアカデミーの有無や稼働実態…。全体の審査のうち約8割を占めるこれらの項目のスコアと途中順位は、年明けまでにそれぞれ個別に報告される。
ここには老舗の強豪にも例外措置はなく、たとえば大半のファンがイメージする結果とは大きく異なっていても不思議ではない。かくして審査結果を不服とするチームの声が、JRFUの上層部へ届いた。折しもコロナ禍とあり、あるクラブはこうも補足した。
「自治体や(母体企業の)取締役会が動きづらい点は考慮してくれないのか。(谷口氏には)それも相対評価だと言われた」
もっとも当時ディビジョン2に位置付けられたチーム関係者は、「当落線上のチームが不平を言っているだけでは」と首を傾げる。審査基準は事前に通告済みなのに、審査委員会の1人は「(自分たちが一部のチームから)大概なことを言われているのを知っています」。当時ディビジョン1に絡めそうだったチームの関係者は、こう声を揃える。
「指針に基づいて真面目にやっていたチームは、上位にいます」
谷口氏らによる審査とその後のフィードバックの捉え方は、そのチームの順位、当該チーム幹部の生来の立ち位置などによって異なる。とにかく、審査委員会および準備室と一部のクラブとの間には、少なからぬ摩擦があった。
事態の収束を求められたJRFUの他の幹部は、傘下に置いているはずの審査委員会よりも、クラブ側に寄り添った。
新リーグ参入希望チームの幹部は当時、トップリーグの代表者会議を定期的に開いていた。その場にはそれまで出席していた谷口氏のほか、岩渕健輔専務理事、池口氏ら、他のJRFU関係者が多く顔を出すようになったという。この事実には不思議がるチームもあれば、安堵するチームもあった。
2020年秋から本格的にリーグの準備に関わり始めた池口徳也氏(現JRFU共同最高事業統括責任者兼JRTL理事)は、「昨年10月の段階で、リーグの構造、ユニオンとリーグの関係など、制度設計がほとんどできていなかった」と後述。準備室全体の業務スピードについて暗に指摘する。
かたや谷口氏は当時、「私は急がば回れだと思っている。もし予定通りに開幕できなかったら批判は受けます」と毅然としていた。
結局、準備室長は谷口氏から岩渕氏に代わった。
妥当な説明
谷口氏には、審査委員長の仕事が残された。JRFU側の説明によると、審査委員会の順位などの報告は「6月中旬から下旬」にかけてなされる。
ルール上、審査委員会のレポートを受けてJRFUが最終決定するという段取りが組まれる。
このルールが決まった当初、JRFUが手を加えると想定した関係者はどれほどいただろう。しかし実際には森重隆会長が弁護士を立て、2021年シーズンの競技実績について再計算を施した。
「当初から競技力に加えて事業性、社会性をバランスよく組み込んで審査しようという考え方でした。そのなかで、(審査委員会の評価では)戦績部分が、おそらく、(チームの)皆さまが想像しているよりも、全体の配分としてはさほど大きくない…といった部分があったかと思います」
これは池口氏の解説。重要なのはこの先だ。
「審査委員会から報告された順位付けと(JRFUが最後に出した)結果について、一部、異なることは事実でございます」
件の再計算を経て、8強入りした全てのチームがディビジョン1入り。ディビジョン2入りが懸念されながら、何とか「昇格」した強豪チームもあったようだ。裏を返せば、ディビジョン1入りが見えていながら突如ディビジョン2に「降格」したチームが出た。
後者は審査委員会からの12月までのレポートを受け、ホームゲームで実施できそうな催しを目下の公式戦で試したり、22年1月以降の多くの日程でホームスタジアムを確保できるよう努めたりと、谷口氏ら審査委員会のレビューに基づき尽力していた。
だから、7月2日通達の最終順位には納得しづらかった。部長名義で質問状を送付。JRFU側から個別説明を受けるも、このようなやりとりでは気持ちは晴れなかった。
「僕らは1年間、審査委員会に向き合ってやってきたのですが…。審査委員会の報告に不可解な点があるのであれば、審査委員会にもう1度確認したり、差し戻したりされるのが普通ではないですか」
「審査委員会(の報告)はあくまでも途中過程です。事前にお伝えした通り、最後はJRFUが決定します」
「わかりました。正しいプロセスを踏んでおられさえすれば、我々は自分たちに矢印に向けてやっていきます。ですので、決定へのプロセスが正しかったかどうかをお示し願いたい——」
コミュニケーション不足が指摘されるJRFUにあって、火中の栗を拾うのが池口氏だった。急遽実施した14日のJRFUの会見、16日に開いたJRTLの会見で、メディアから説明を請われるたびにマイクを取る。
従前に定めたルールや証言に基づき、再計算の妥当性を説明した。
「審査委員会の方の報告を受け、最終的な審査結果をJRFUが決めるということは、当初より定めている流れです」
「最後のトップリーグの成績を反映させるうえでは、(予め)チームの皆様と合意させていただいた評価、審査の方針がございます。その評価の方針を客観的、公平的にも正しく反映させていく。JRFUがこの部分について検証した結果、(審査委員会と異なる計算方法をして)審査の最終決定をおこなった」
「(審査委員会に再計算を依頼しなかった理由の)ひとつは、時間です。ディビジョン分けを早く決定し、お知らせをする(のを目指した)。今回、各チームの皆様にお知らせできたのが7月2日で、審査委員の最終業務が終わったのは6月末。6月末まで協議をしたうえで、最終的な決定はJRFUでおこなうと最終確認をしたということです」
もちろん本来は、経緯説明が妥当であると同時に誠実に映るかどうかが問われる。報道で明らかになるまで沈黙を貫いたJRFUの情報発信の仕方には、課題が残った。
谷口氏は6月までに、日本ラグビー界におけるすべての要職から離れた。その模様について一部のメディアは、森善朗・元JRFU名誉会長への発言といったリーグワンと無関係かつ信ぴょう性の担保が難しい要素と絡めて特集を組んだ。自ずと針のむしろと化して気の毒にも映るJRFUの幹部は、憤りと驚きを隠さない。
今度こそ誠実に映るように
リーグワンは、サグラダ・ファミリア教会のよう。観光地と化したいまも建築中というスペインの大聖堂のごとく、走り出しながらフォーマットを定める。
初年度からの3シーズンは「フェーズ1」と見立て、競技力による入替戦の実施と各チームの事業性を援護。4シーズン目以降の「フェーズ2」各チームにホームスタジアム確保をより強く促す動きをしたり、ディビジョンごとの参入ライセンスを示したりできるよう努める。
これまで理念のよさの代わりに混乱ぶりが伝わってきたことについて、池口氏はこう総括する。
「期待をしていただいているにもかかわらずコミュニケーションが不十分であったことは、ご指摘の通り。(今後は)できる限りの情報発信、ファン、メディアの皆様とのコミュニケーションを、より深く、頻度高くやらせていただきたいと思います」
繰り返せば、池口氏はリーグワンの準備開始の流れに途中から参加を促されている。当初の状況を鑑みれば、予定通りの開幕にまで漕ぎつけられそうにした時点で唸らさせる。
付け加えれば、発足までの出来事を正直に、偏りなくレビューしさえすれば、今後は妥当なだけではなく誠実に映るコミュニケーションも実現できるだろう。