ボツワナ女子と日本人コーチの挑戦―世界女子ソフトボール選手権
明後日8月2日に開幕する、「第16回WBSC(※)世界女子ソフトボール選手権」。
2年に一度の、女子ソフトボール世界一を決める戦いです。(※)世界野球ソフトボール連盟
日本代表は2016年の前大会、残念ながらアメリカに敗れ準優勝でしたが、今大会は4年ぶり4度目となる、世界一奪還の期待がかかっています。
会場となる千葉県に集うのは、世界各地の予選を勝ち抜いた16カ国。
予選は8カ国ずつグループAとBに分かれて総当たり戦を行い、それぞれのグループ上位4チームが決勝トーナメントへ進みます。
日本と同じ予選Bグループには、アフリカ第1代表のボツワナがいます。
ボツワナは、国技といわれるほどソフトボールが盛んな国。
世界ランキングこそ参加16カ国の中で下から2番目の33位(※1)ですが、力強いストレートを持つ投手陣を軸に、日本人のコーチともに同国初の予選突破を目指しています。
ボツワナってどんな国?
2002年に日本国債が格下げされた際、「ボツワナより下になった」と報道されたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。
ボツワナは南部アフリカに位置する面積56.7万平方キロメートル(日本の約1.5倍)の内陸国で、世界最大のダイヤモンド鉱山を持つ国です。
人口は約220万人、GNIは149.6億米ドル、一人あたりGNIは6,610米ドル。(外務省ウェブサイトより)
国土の70%を占めるカラハリ砂漠は、1982年に日本でも公開され大ヒットした映画「ミラクル・ワールド ブッシュマン」(現在は「コイサンマン」に改題)の舞台です。
2014年に1000件目の世界遺産として登録された、南部に広がる世界最大の内陸デルタ「オカバンゴ・デルタ」は、貴重な水を求め様々な種類の野生動物が集まってくるため富裕層旅行客の人気が高く、一泊70万円近い超高級ロッジもあります。
なによりボツワナが凄いのは、1966年にイギリスから独立して以来、複数政党制のもと民主主義が守られ、「クーデターや内戦が一度も起きたことがない」アフリカでは非常に稀な国であることです。
目標は決勝トーナメント進出
ボツワナ代表チームのアシスタントコーチとして帯同しているのは、JICA(国際協力機構)からボツワナソフトボール協会に派遣されている青年海外協力隊員の中村藍子さん。
千葉県佐倉市出身の中村さんは、中学生時代からソフトボールを始め、実業団のソフトボールチームで活躍。引退後にJICAボランティアに応募し、2017年1月、ボツワナに派遣されました。
中村さんによると、ボツワナでは男女それぞれ12チームによるリーグ戦が行われ、各試合、観客もしっかり動員できているそうです。
そして今回来日している代表選手は、その12チームの中から選ばれた精鋭たち。
ボツワナ ソフトボールリーグのオールスターです。
中村さんによると、「今回のボツワナチームの強みはパワー。試合慣れしていないため、細かいプレーはまだ得意ではありませんが、ピッチングでもバッティングでも真っ向勝負が魅力です」とのこと。
実際にその練習を取材させてもらい、守備には若干不安がありそうでしたが、力あるストレートを次々投げ込む投手陣にはかなり驚かされました。
粗削りではあるものの打撃陣も、中村さんの言葉どおりパワーヒッター揃いで、投手陣の出来次第でグループBの台風の目になり得ると感じました。
険しすぎる2020年東京オリンピックへの道
ソフトボールと野球は、2012年にオリンピックの正式種目から外れました。
その理由の一つは、「競技人口の偏り」。つまり「国際的な普及度の低さ」です。
事実、国連の加盟国193カ国を超え世界最大211加盟国・地域のFIFA(国際サッカー連盟)、206カ国のIOC(国際オリンピック委員会)、と比較すると、WBSCはわずか140カ国しかありません。
日本やアメリカのように、その存在が広く国民に認知されている国に絞ると、さらに減ることは間違いないでしょう。
そのため両競技が復活する2020年の東京オリンピックでさえ、最後に開催された北京オリンピックの8カ国から6カ国に減少。
うち1枠は開催国の日本が占めるため、残りの5枠を残されたすべての国で争うことになります。
ソフトボールは、明後日開幕する「世界女子ソフトボール選手権」の優勝国に1枠。
「アメリカ大陸予選」からは1位と2位の2枠、「アジア/オセアニア予選」、「アフリカ/ヨーロッパ予選」はそれぞれ優勝チームのみ1枠ずつしか東京に来ることができません。
(野球はWBSCウェブサイトをご参照ください)
さらにアフリカ勢は、「アフリカ/ヨーロッパ予選」への参加資格を得られるのは、「2019年アフリカソフトボール選手権」の上位2カ国のみ。
地域間のレベル差が激しいとはいえ、ボツワナだけでなくアフリカソフトボール界にとって、オリンピック出場は非常に険しい道のりです。
アフリカのソフトボール・野球界の今と未来
以前記事で、今大会のアフリカ最終予選に、ウガンダ代表チームが資金不足で参加出来なかったことを書きましたが、やはり資金難がアフリカのソフトボール・野球界最大の問題です。
現在、千葉県佐倉市で合宿中のボツワナチームも、日々の食事は、節約のため選手たち自身が自炊しているとのこと。
日本からの支援は、スポーツを通じた日本政府の国際貢献「「SPORT FOR TOMORROW(SFT)」」の一環として、「ソフトボール球技場及び器材整備計画」(外務省 草の根文化無償資金協力)や、(公財)日本ソフトボール協会による用具の寄贈など、様々な形で行われています。
さらには中村さんのように、JICAボランティアが指導者として現地にも赴いてもいます。
しかし肝心の選手たちの中には、30円の交通費を工面できず、練習や試合に参加できなくなる選手もいるそうです。
アフリカでソフトボール・野球の普及が困難なのは、プレーすることが大好きで、さらには素晴らしい才能を持っていたとしても、「現時点では、プロになって大金を稼げる道が示されていないこと」が最大の原因だと思います。
アフリカ各国を含め世界中にプロリーグがあり、才能と運があれば大成功できる道が示されているサッカー。
一方野球は、南アフリカ出身のギフト・ンゴエペ選手が、2017年4月に米大リーグでメジャーデビューしたのみ。(※2)
そのためソフトボールも野球も、子どもたちに「将来スポーツ選手として食べていくための競技」として選ばれることはなく、あくまでも趣味の延長で終わってしまうのです。
「すでにサッカーが盛んなアフリカで、野球を広める必要があるの?」
と、疑問に思う人も多いでしょう。
しかし私は「選択肢は一つでも多い方が良い」と考えています。
その理由は、アフリカを取材していると、スポーツだけでなく教育・職業・遊び、その他すべてのシーンで選択肢が少なすぎると感じるためです。
一つでも選択肢が増えることは、未来を担う子どもたちの可能性を広げることにもつながるはずです。
もちろんそれはソフトボールや野球に限らず、バレーボールでもテニスでも、チェスでもプログラミングでも構いません。
「夢中になれる何かと出会える幸せ」。
その可能性を増やすためにも、ソフトボール・野球をアフリカに広める意義があるのではないでしょうか。
ボツワナチームを取材中、良いプレーがあるたびに褒め合う選手たちの弾んだ声を聞いていると、「彼女たちは本当にソフトボールが好きだ」ということが伝わってきました。
ボツワナ代表の初戦は8月3日、世界ランキング2位の日本と初戦を戦います。
その後の相手も全て格上ばかり。(※3)
厳しい戦いが続くとは思いますが、持ち前の明るさとチームワークで、決勝トーナメントに進んでくれることを願います。
ボツワナチームの挑戦、要注目です。
(※1)ランキング最下位は、35位のアフリカ第2代表南アフリカ
(※2)現在はトロント・ブルージェイズ傘下の3Aにマイナー契約で所属
(※3)日本(2位)、カナダ(3位)、オーストラリア(4位)、イタリア(9位)、中国(12位)、イギリス(14位)、ベネズエラ(17位)
【参考】
- 中村藍子さん「国技ソフトボールを楽しく教える」(JICA広報誌「Mundi」2018年3月号)(PDF/1.65MB)
- ボツワナ共和国大使館ウェブサイト