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W杯まで4ヶ月。大黒柱の復帰と新戦力の融合で活気づくなでしこジャパン(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
静岡で5日間の合宿を行ったなでしこジャパン(筆者撮影)

【W杯イヤーの幕開け】

 6月に女子W杯フランス大会を控えるなでしこジャパンが、静岡のJ-STEPで5日間の候補合宿を行った。

 この合宿に選ばれたメンバーは、体調不良で欠席となったDF鮫島彩を除く27名。そこには、昨年4月のリーグ戦で右膝前十字靭帯損傷および内側半月板損傷の大怪我を負い、9ヶ月ぶりに復帰したMF阪口夢穂の名前もあった。

 高倉ジャパン発足当初から背番号「10」を託され、チームを牽引してきた大黒柱の離脱はチームに衝撃を与えた。しかし、その中でチームが試練を乗り越え成長していく様を、阪口自身もしっかりと見守ってきた。

「以前同じケガをした時は若くて焦りやいろいろな感情があったのですが、今回は客観的にサッカーのことを考えたり、有意義に過ごせた気がします。気持ちは新人みたいな感じですね(笑)」

 そう話す阪口の表情は穏やかだった。ピッチで漂わせる風格は以前と変わらないが、実戦感覚はそう簡単に取り戻せるものではないだろう。

 高倉監督は「過剰な期待は本人の負担になります。ただ、経験は十分にありますし、チームが辛い時にどっしり構えて落ち着きをもたらしてほしい」と気長に見守る姿勢を示した。

【男子大学生との合同トレーニングも】

 昨年、国内リーグと海外での大会で連戦してきた代表選手たちは、ほとんど休みがなかった。そんな中、今年1月の国内リーグの貴重なオフを返上し調整してきた選手も多く、合宿ではハードなトレーニングにもしっかり対応できていた。

 また、練習にはデータ分析のためにGPSやブルートゥースを使用した機器や、ドローンを使って撮影した映像を再生できるという最新テクノロジーも試験的に導入されており、あらゆる角度から選手のパフォーマンス向上をサポートする体制が整う。

 4日目には、静岡の男子大学生チームと合同トレーニングを行い、最後は3チームに分かれて8対8のミニゲームを実施。目的は、フィジカルの強い海外チームを想定したシミュレーションだ。国内リーグでは考えられない寄せの速さでボールを奪われたり、普段なら奪い切れるタイミングでボールを奪いに行った結果、タッチの差でかわされ、置き去りにされるシーンもあった。その中で、プレスのかけ方の修正や攻撃の狙いどころのすり合わせなど、試合の合間に選手同士で細かく話し合う光景が見られた。

  

 個人で調整力が光ったのは、FW籾木結花だ。今回の27名中もっとも小柄な153cm。だが相手との間合いを掴むのが早く、ボディフェイントや相手の逆を取ったミドルシュートなど、身長差が20cmはありそうな男子との体格差を逆手に取るプレーを見せていた。

「個人戦術の練習のレベルが昨年より上がった実感があるので、今年は去年作ったベースを実戦で使いながら、より技術力を上げていきたいです」(籾木)

 クラブでも代表でも存在感を増す22歳に、引き続き注目したい。

【新戦力が伸び伸びとプレー】

 今回の合宿では、初招集の5名を含め、新戦力が3分の1を占めた。

 昨年のポルトガル遠征やアメリカ遠征、アジアカップやアジア大会などを経て、各ポジションに計算できる選手の目処は立った。その上で、「(実力的に遜色ない選手たちで)2チーム分作りたい」と話す高倉監督は、W杯の厳しい戦いを勝ち抜く切り札を探している。19歳〜23歳で構成される新戦力の選手たちには、A代表でのW杯や五輪の経験はない。だが、大きな伸びしろがある。

 初招集となったMF松原有沙、DF大賀理紗子、FW池尻茉由、FW小林里歌子、DF北村菜々美の5名に共通する点として、高倉監督はサイズ(身長)、力強さ、スピードの3要素を挙げた。

 松原は168cmの長身と日本人離れしたパワーを持ち、大賀は169cmで、知的な守備が印象的な選手だ。池尻は昨年、3部にあたるチャレンジリーグでプレーしていたが、相手の背後をとるスピードや技術には、カテゴリーを超えた非凡さが感じられる。小林は高いテクニックを生かし、ポストプレーと単独突破を効果的に使い分けられる。北村はアジリティとスピードに長け、U-20ではサイドバックのレギュラーとして昨夏の世界一に貢献した。

 身体能力の高さに加え、複数のポジションでプレーできることも新戦力の選手たちに共通するポイントだ。

 そんな彼女たちが、5日間という短期間で“自分らしさ”を発揮していたのは印象的だった。それは、DF有吉佐織やMF宇津木瑠美、FW菅澤優衣香、FW横山久美ら経験のある選手が、若い選手が萎縮しないように配慮していたことも大きい。

「年代別で代表の雰囲気に慣れている選手もいれば、代表の経験が少ない選手もいるので、そういう選手が入りやすい空気感を作るように意識しています。このチームも立ち上げの頃はすごく大人しかったけど、今は『楽しみつつやる時はやる』というメリハリが出てきましたね」

 有吉はチームの精神面での成長についても手応えを口にした。

【強豪国とのテストマッチが本大会へのカギに】

 W杯までの4ヶ月間、チームの土台をより強固にするためには、2月と4月に予定されているテストマッチ5試合がカギとなる。

 2月末にアメリカで開催される「SheBelieves Cup」で、日本(FIFAランク8位)はアメリカ(同1位)、イングランド(同4位)、ブラジル(同10位)と対戦し、4月にはドイツ(同2位)、フランス(同3位)との親善試合が組まれている。

 アメリカは前回のW杯の王者で、ドイツは2016年のリオデジャネイロ五輪の王者。前回W杯で3位のイングランドとは6月のW杯のグループリーグ第3戦で対戦が決まっている。開催国のフランスは、初優勝に向けて並々ならぬ意欲を燃やしているだろう。強豪国とのマッチメイクが実現した経緯や狙いについて、高倉監督はこう明かした。

「各国の監督に知り合いが多くて、組み合わせ抽選会の時に『練習試合をやろうよ』という感じで決まりました。日本の選手は賢いので、一度対戦すると対応力がついて(次の対戦時に)微調整できるんです。だからランキング上位のチームと対戦できるのはすごくプラスだと思いますし、私自身、とてもいい準備ができると思っています」

 

 この5試合で、日本はどんな戦いを見せるのか。

唯一の海外組として合宿に参加した宇津木瑠美
唯一の海外組として合宿に参加した宇津木瑠美

 アメリカでプレーし、今年、海外で10年目のシーズンに突入する宇津木は、日本のプレースタイルが分析されているからこそ、やれることの範囲を広げるために「今までできてきたことをやるだけでは(世界では)勝てない」と言う。そして、チームとしてその殻を破るために、「今しかできない失敗を経験していきたい」と話す。

 若い選手たちがトライした上での「積極的なミス」は受け止めるつもりだ。

「私を含めてベテランの選手たちは、若い選手が今までやらなかったプレーにトライした時はわかるんです。いつもできていることをミスした時は、『それはできていたよね?』となりますが、初めてのことにトライした時に、それを受け止める器はあります」(宇津木)

 ミスを恐れないメンタリティで、残り4ヶ月間、チームがどのような変化を遂げていくのか楽しみだ。

【監督・選手コメント】に続く

積極的にコミュニケーションをとっていた横山久美(左/右は池尻茉由)
積極的にコミュニケーションをとっていた横山久美(左/右は池尻茉由)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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