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米で飲まない若者が増えているという事実 NY初のノンアルコールバー誕生の背景に迫る

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c) Kasumi Abe

私はどちらかと言うと、お酒が好きな方だ。お出かけ先や飲み会などでビールやワインを嗜むソーシャル・ドリンカーとして人並みに楽しんでいる。

そんな私もこれまで、禁酒生活をしたことがある。以前取材した占い師からの助言がきっかけとなり、思いがけず人生初の禁酒を半年間という期間限定で行なうことに。

禁酒後、自分でも驚いたのは「ストレスはお酒でしか解消できないと思っていたが、何よりお酒そのものがストレスの根源」という発見があったことだ。意外に思うだろう。アルコールを飲みたくなるのは初めの1~2週間だけで、それを過ぎれば逆にストレスフリーだった。

今はまたお酒を楽しむ生活に逆戻りして久しいので、説得力も半減するかもしれない。でもまた機会があれば禁酒にチャレンジしたいという気持ちは常にある。

アルコール類のないバーがNY「にも」誕生

そんな私に「禁酒生活中にこんなバーがあったら、間違いなく通っていただろう」と思わせる店が、今年オープンし話題になっている。

場所は、新しいトレンドが生まれる街、ブルックリン。Getaway(ゲッタウェイ)という、ニューヨーク初のノンアルコール・バーだ。(ソーバー・バーとも呼ばれる)

ノンアルコールへの好奇心として、どのようなものかと店を訪れる人も多いそうだ。(c) Kasumi Abe
ノンアルコールへの好奇心として、どのようなものかと店を訪れる人も多いそうだ。(c) Kasumi Abe

「お酒を置いていないバーってどういうこと?」と思うだろう。

「うちで提供しているドリンクやカクテルは、すべてアルコールフリーです」と言うのは、共同オーナーのレジーナ・デレア(Regina Dellea)さんと、サム・トニス(Sam Thonis)さん。

以前は映像製作をしていた2人。クリエイティブでそれなりに楽しい仕事だったが、プロジェクトに大きく左右されなかなか安定しない。エキサイティングなアイデアで、よりローカルに寄り添ったタンジブルなもの(形として触ることができるもの)を人々に提供できないかと、2年かけて今のカタチにした。

店の看板やコースターに記された「0%」は、同店のアルコール0%という徹底ぶりを象徴している。(c) Kasumi Abe
店の看板やコースターに記された「0%」は、同店のアルコール0%という徹底ぶりを象徴している。(c) Kasumi Abe

当然お酒の飲めない2人によるアイデアなのかと思いきや、興味深いことに、彼らは下戸でも断酒成功者でもなく、普通にお酒を嗜むのだと言う。「もちろんこの店に立つときはいっさい飲みませんけどね」

では、ノンアルコール・バーをオープンした理由は?

「まず、誰もまだやっていないものというのが前提でした」とサム。彼らによると全米や世界規模では、ノンアルコール・バーはすでにいくつかあるという。例えば、カリフォルニア州やテキサス州、国外ではロンドンなどに、バー形態もしくはコミュニティセンターがポップアップ形態で行なっているものがある。またニューヨーク市内では、月に1度のイベントとしてスペースの一部をノンアルコール形態とする店もある。しかし「常設」のフルタイム・ノンアルコール・バーとしては、Getawayが市内初だ。

「ノンアルコールに注目したのは、もう1つ理由がある」とサム。「兄が以前ドラッグ・アディクションの問題を抱え、AAプログラム*に参加しました。このプログラムに参加すると『僕はドラッグをやめます』ではなく、すべての悪しき習慣を断つことがゴールになります。兄は大成功し、4年前にお酒もスッキリやめることができました。そんな兄を見ていて思ったのは、断酒した人や下戸の人も人並みに気の置けない友人らと夜お出かけをして、楽しみたいのだということでした」

しかしそのような場には大抵酔っ払いがいたり、決してヘルシーと呼べるような雰囲気ではない。これがGetawayを作るもう一つの理由になった。

  • AAプログラム:飲酒問題を抱えた人々を救うコミュニティ団体による「アルコール・アノニマス」プログラムのこと。全米各所に設置されている。
共同オーナーのレジーナとサム。映像プロデューサーからの華麗なる転身を果たした。(c) Kasumi Abe
共同オーナーのレジーナとサム。映像プロデューサーからの華麗なる転身を果たした。(c) Kasumi Abe

「こんなバーを待っていた」と、訪れた人からよく声がかかる。断酒した人や下戸の人からだけではない。「妊娠中や授乳中の人、マラソンをする人、ダイエット中の人、宗教上飲めない人、アルコールなしのデートを楽しみたい人、今日は飲むのをやめておこうという人、ドライニュアリー*実践者などもよく訪れてくれます」

  • ドライニュアリー(Drynuary):アメリカでは毎年11月の感謝祭から12月のクリスマスにかけて年末のホリデーシーズンで飲み事が多く、飲酒量もつい増えてしまう。悪い習慣を新年から断ち切ろうと生まれたのが、毎年1月の「Dry January」というアルコールを控えるキャンペーンだ。そこから生まれた造語が「Drynuary」と呼ばれていて、人々はこの期間フレーバー付き炭酸水などで凌ぐ。

飲まない若者が増えている?

アメリカでは今、飲まない若者が増えているのだろうか?

飲まない、もしくは飲酒量を控える人が増えているという実感はあります」とサム。「25歳以下の世代については正直よくわからないけれど、アラサーの私たちの年代もしくはそれより少し下のいわゆるミレニアル世代の若者は、以前より選択することにオープンになったと思います」とレジーナ。

彼ら曰く、上の世代の人々はアルコールに対して「飲むか、飲まないか」のどちらかだった。一方、今の若い世代は、身体的および精神的健康のために「今日は飲まないでおこう」とか「ちょっとお酒を断ってみて、その効果を見てみよう」という好奇心があり、実験的な試みへの意欲が強いという。「僕たち世代にベジタリアンが多いのも、その流れだと思います」とサム。

さらに「タブーと呼ばれることにも変化がありました」とサムは続ける。「以前は『私は禁酒中です』とか『断酒をしました』と言うことは、つまり『自分はアルコール問題を抱えていた』ということを表し、特に両親ぐらいの世代の人々は、長年そのようなメッセージを発するのに勇気がいりました。今の若い世代では、そのようなタブーへの垣根もなくなりつつあります」。

最近では人々の健康欲がより高まり、ヨガやメディテーションなど、さまざまなセラピーのオプションが増えているのも、変化の一因だという。そしてGetawayも、健康的な生活や人生への「オプション」の一つということなのだ。

ノンアルコール・カクテルを飲んだ感想

コンサルタントに入ってもらって、プロの指導を受けながらカクテル作りを学んだ。(c) Kasumi Abe
コンサルタントに入ってもらって、プロの指導を受けながらカクテル作りを学んだ。(c) Kasumi Abe

カクテルはシェイカーで丁寧に作られ、見た目も美しいカクテルグラスでサーブされる。味はアルコールが入っていないものとは思えないほど、通常のカクテルと遜色なく、新鮮で味わい深く、おいしい。全部飲み終えたときに、なぜだか少しホロ酔いのような、そんな気分になった。アルコールはもちろん入っていないので、プラシーボ効果のようなものだろうか!?

それを伝えると、レジーナは笑いながら「なぜだか、みんな同じことを言うんですよ」と教えてくれた。「でもうちのカクテルが通常のものと大きく違うのは、二日酔いがいっさいないということです!」

「なぜ昼間もオープンしないの?」の質問に「私たちはカフェやレストランをやりたいわけではないから」。あくまでも「バー形態」にこだわる。(c) Kasumi Abe
「なぜ昼間もオープンしないの?」の質問に「私たちはカフェやレストランをやりたいわけではないから」。あくまでも「バー形態」にこだわる。(c) Kasumi Abe
甘めが好きな人にオススメのココナッツとパイナップルの「Coconaut」(13ドル)。(c) Kasumi Abe
甘めが好きな人にオススメのココナッツとパイナップルの「Coconaut」(13ドル)。(c) Kasumi Abe
酢の風味が爽やかなリンゴのコーディアルで作られた秋の新作カクテル「Autumn In New York」(13ドル)。(c) Kasumi Abe
酢の風味が爽やかなリンゴのコーディアルで作られた秋の新作カクテル「Autumn In New York」(13ドル)。(c) Kasumi Abe

体験するまで「禁酒生活中にこんなバーがあったら通っていただろう」と思っていたが、帰るころには少し気持ちが変わった。「今日はお酒を入れるのをやめておこう」という気分のときもある。そんな時はまた、Getawayのドアを開けたい。

(Interview, text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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