「ぴえん」の商標登録出願の影響について
「"ぴえん"商標出願で使えなくなる? アパレル会社申請にネット物議も"保険的な意味"」というニュースがありました。今や若者の間では一般的になった「ぴえん」という悲しみを表す言葉を、東京のアパレル会社が商標登録出願したという話です。
上記引用記事中にちゃんと書いてないので、誤解がないように説明しておくと(今までに何度この説明を繰り返したかわかりませんが)商標権とはある言葉の使用を独占できる権利ではありません。ある言葉の商品やサービスの営業標識としての使用を独占できる権利です。したがって、仮に誰かが「ぴえん」を商標登録できたとしても、SNS等で「ぴえん」という言葉が使えなくなるわけではありません。「ぴえん」という言葉をブランドとして使った商品(今回の場合は被服)を商売として製造販売することができなくなるだけです。「マクドナルド」と言う言葉は登録商標ですが日常生活で「マクドナルド」という言葉を使うのに日本マクドナルド社の許可が必要ないのと同じです。もちろん、「マクドナルド」(またはその類似の名前)で飲食店を経営しようとするためには日本マクドナルド社の許可が必要です(許可がもらえる可能性はほぼゼロですが)。
では、そもそも、この商標登録出願は登録となるでしょうか?「ぴえん」のように一般化した流行語を、営業標識としてでも特定企業が独占できることに違和感を感じる人も多いでしょう。商標法には商品・サービスの普通名称のように特定企業が独占すべきでない言葉は商標登録できない旨の規定があります(たとえば、ハンバーグをパンではさんだ料理について「ハンバーガー」を商標登録し独占できてしまったら大変なのでこれは当然です)。しかし、流行語は登録できないとする明示的な規定はありません。
この点についてはちょっと前に書きましたが、最近になり、「アマビエ」「大迫半端ないって」「そだねー」等の広く使われている流行語は「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)として拒絶する特許庁の審査運用が一般的になっています。
そして、冒頭の引用記事でも触れていますが、「ぴえん」が商標登録出願されたのは今回が初めてというわけではなく、今年の3月に今回とはまた別の企業がおもちゃ等を指定商品にして出願しています。実は、この出願にはもう拒絶理由通知書(拒絶査定になる前の暫定的な拒絶)が出ており、やはり、最近の審査運用に従い3条1項6号による拒絶理由が通知されています。これに対して、出願人は反論していますがまだ結果は出ていません(追記:2020年11月24日付けで拒絶査定が出ました、これに対して出願人は不服審判を請求でき、それでも覆らない場合には審決取消訴訟を提起できますので、まだ拒絶が確定したわけではありません)。今回の出願もこの先願と同様の結果になる可能性が高いでしょう。特許庁がどのような判断をするか相当に興味深いものがあります。