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益虫テントウは可愛い殺し屋⑥=外来のヒーロー、ベダリアテントウ

天野和利時事通信社・昆虫記者
イセリアカイガラムシを襲うべダリアテントウ成虫。

 外来昆虫はすべて悪者と決めつけてはいけない。べダリアテントウは、害虫退治のために外国から招かれ、大活躍した正義のヒーローなのだ。

 柑橘類(ミカンなど)の大害虫でオーストラリア原産の「イセリアカイガラムシ」が世界中に勢力を拡大したことを受けて、このカイガラムシを駆除するためにオーストラリアから世界各国に招かれたのがべダリアテントウだ。「外来害虫の退治には、外来の天敵を」という考え方である。

 ジョーカー一味が日本で悪事を働き、バットマンが来日して悪者と戦うようなイメージだ(日本ではべダリアテントウは1900年代初頭から導入され、害虫駆除で大成果を上げたという)。

イセリアカイガラムシを集団で襲うべダリアテントウ幼虫。下方の小さな虫はイセリアカイガラムシの幼虫。
イセリアカイガラムシを集団で襲うべダリアテントウ幼虫。下方の小さな虫はイセリアカイガラムシの幼虫。

大量発生したイセリアカイガラムシ。こうなると植物の被害は大きい。
大量発生したイセリアカイガラムシ。こうなると植物の被害は大きい。

 べダリアテントウは繁殖力が強く(年に何回も繁殖を繰り返すという)、世界各地で目覚ましい活躍を示したため、害虫の生物的防除策、生物農薬の代表的成功例としてよく取り上げられる。益虫界の世界的有名人(有名虫)なのだ。

 べダリアテントウが生息している地域では、1カ所でイセリアカイガラムシが大量発生しても、しばらくすると殲滅される。べダリアテントウはほぼ単食性(イセリアカイガラムシばかりを食べる)らしく、このカイガラムシがいなくなるとべダリアテントウも姿を消す。

蛹の中から羽化直前のべダリアテントウ。
蛹の中から羽化直前のべダリアテントウ。

可愛い顔のべダリアテントウだが、害虫にとっては凄腕の殺し屋。
可愛い顔のべダリアテントウだが、害虫にとっては凄腕の殺し屋。

食事中のべダリアテントウ成虫。羽化後間もないので模様がぼんやりしている。
食事中のべダリアテントウ成虫。羽化後間もないので模様がぼんやりしている。

終齢と思われるべダリアテントウ幼虫の食事風景。イセリアカイガラムシの背中からはおいしそうな卵があふれ出している。
終齢と思われるべダリアテントウ幼虫の食事風景。イセリアカイガラムシの背中からはおいしそうな卵があふれ出している。

 このため、べダリアテントウを同じ場所で2年続けて見つけるのは難しい。どうしてもべダリアテントウと再会したいという者(よほどの物好き)は、また新たなイセリアカイガラムシの発生場所を見つける必要がある。

 日本では近年、イセリアカイガラムシによる甚大な被害の報がほとんど聞かれないので、べダリアテントウは今もどこかで、神出鬼没の活躍を続けているのだろう。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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