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これがホークスで生きる道。谷川原健太、捕手再挑戦に見た「究極の便利屋」の覚悟

田尻耕太郎スポーツライター
先発二保と話しながらベンチに戻る谷川原(左)

 9月9日、四国アイランドリーグplusとの定期交流戦で、福岡ソフトバンクホークス三軍と高知ファイティングドッグスがタマホームスタジアム筑後で対戦した。

調整登板の二保が5回無安打の貫禄投球

 

【9月9日 定期交流戦 タマスタ筑後 164人】

高知     000000021 3

ソフトバンク 10001020× 4

<バッテリー>

【FD】古屋、道原、藤崎、岡部――大原、松田

【H】二保、杉山、高橋純、田浦――谷川原

<本塁打>

なし

<スタメン>

【FD】D勝岡 6松尾 9濱 5安田 2大原 4長谷部 3山崎翔 8尾野 7サンフォ

【H】9田城 2谷川原 3渡邉陸 5増田 D大本 8中村宜 6小林 7日暮 4伊藤

先発して好投した二保
先発して好投した二保

<戦評>

 ソフトバンクが初回に4番・増田の左前適時打で先制した。五回の得点は無死一塁から田城の適時三塁打。七回は相手のミスと代打・黒瀬の中前適時打で追加点を挙げた。

 先発は今季一軍ローテで活躍している二保。調整登板となったマウンドで5回60球、無安打無得点と好投した。許した走者は死球の1人のみ。「フォークに課題が残ったけど、直球を多めに投げた」と収穫を口にした。2番手の杉山は2回を投げて6者連続三振と圧巻の内容。3番手の高橋純は1回1/3で3失点と課題を残した。

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谷川原健太、今年初めての先発マスク

 谷川原健太捕手が先発マスクを被り、フル出場して4人の投手をリードした。

 とくに予備知識なく読めば、なんてことのない一文にしか映らない。だが、「第2の栗原」を目指すがごとく、昨年の夏からずっと内外野手として出場を続けており、捕手として試合にスタメン出場したのは今年初めてだった。

 栗原同様、高い打撃力を生かす狙いがあった。豊橋中央高校時代は通算41本塁打。上背はないが、どっしりした構えから鋭い打球を放つ姿は、西武の森友哉を連想させた。

 2016年ドラフト3位でソフトバンクに入団。強打の捕手と期待をされたが、ソフトバンクのぶ厚い捕手層の中で伸び悩んだ。プロ5年目を迎えた現在まで、一軍デビューをまだ果たせていない。

二塁手でチャンスをうかがうも

 二軍公式戦でも出番が少なくなっていた。せっかくの打力を磨く場がなければ宝の持ち腐れだ。そこで野手挑戦となったわけだが、谷川原の場合は高い守備力が要求される二塁手や遊撃手として起用された。チームは彼の高い運動能力と、捕手としては異例の俊敏性を買っていたのだ。その期待に応えるべく、谷川原も着実にレベルアップ。今季の二軍公式戦ではチームで最も多く二塁手を任せられるまでになった。

 しかし、二遊間でチャンスを掴むのも狭き門だ。堅実なベテラン・中堅勢はもちろん、俊足自慢の周東に加えて若手も川瀬、三森が台頭している。現にレギュラーが固定できていない現状にもかかわらず、谷川原にお呼びがかかることはなかった。

 今年夏のある日、ファーム首脳陣から「捕手もまたやってみないか」と打診があった。

「捕手も内野も外野もどこでもできれば、自分にしかない武器になる。なので、前向きに取り組んでいます」

 9月4日のウエスタン・リーグの広島戦(由宇)で、七回に代打で出場しそのままマスクを被った。本当に久しぶりに見る景色だった。キャッチャーミットも今年はずっとバッグの中にしまったままだった。「2月のキャンプでも、一度ブルペンで球を捕った以外はずっと野手の組の中で練習をしていました」。シーズン中も使う機会はないと分かっていたが、万が一に備えて常に持ち歩いていた。ロッカーや部屋ではちゃんと磨いて手入れもしていた。

投手以外の8つの守備位置ができる

 翌5日の広島戦も試合終盤から捕手として出場。そして、この9日の高知戦ではフル出場となった。

 この日バッテリーを組んだ二保は「ボールを返すテンポを速くしてほしいと頼んでいたらその通りにやってくれたし、配球もキャッチングもよかった。久しぶりに組んだけど違和感はなかったですよ」と後輩を褒めた。

「もともとやっていたポジションですから(笑)。でも、自分の中で動き方に課題があるので、しっかり直していきたいです。今年はセカンドかショートで出る機会が多かったけど、サードやファーストで出たこともありますし、外野は3つとも守れます」

 投手以外の8つのポジションを守れる。究極のユーティリティ・プレーヤーだ。

 工藤公康監督は以前から複数ポジションを守れる選手を重宝している。谷川原の武器は大いなるアピールとなる。一軍昇格を果たすためならば、たとえ便利屋でもいい。谷川原の覚悟がにじみ出ていた。

 ただ、今季は二軍戦で打率.177、1本塁打、2打点と自慢の打撃力を発揮できておらず、「しっかり打って、アピールしないといけない」と表情を引き締め直していた。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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