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今季は勝利を呼ぶ「代打の神様」に。ホークス中村晃の流儀とは

田尻耕太郎スポーツライター
今季17年目を迎えた(筆者撮影)

 ソフトバンク・中村晃が“代打の神様”となっている。

 4月27日の西武戦(みずほPayPayドーム)、0-1で迎えた7回裏2死二塁で9番・牧原大成に代わって打席に入ると、西武先発・今井達也のスライダーを打って一、二塁間をゴロで破る右前適時打を放った。

 普段はクールな17年目のベテラン打者だが、二塁走者の栗原がヘッドスライディングで生還したのを確認すると送球間に二塁まで進んでから気迫あふれる表情でガッツポーズを決めた。

「打ったのはスライダー。ここ最近自分の仕事ができていなかったので、この大事な場面で何とかしたいという気持ちだけでした。とにかく代打での起用に結果で応えることができて良かったです」

 今月17日の日本ハム戦以来12打席ぶりのヒットが貴重な同点タイムリーとなり試合は延長戦へ。10回裏、ソフトバンクが川瀬晃のサヨナラ打で勝利を飾った。

代打得点圏打率は6割超

 中村晃はこれが今季16試合目の出場で、そのうち代打からの出場が12試合を数える。かつては最多安打の打撃タイトルを獲得し長年レギュラーを張り続けたが、チームの大型補強の中で今季は立場が変わった。

 ただでさえ難しい代打という役割。その中で中村晃はこの同点打を含め、11打数4安打、代打打率.364の好成績を残している。シーズン得点圏打率.400も高い数字を誇るが、代打得点圏打率に特化すると.667まで跳ね上がる。

「打席での考えや狙いはあまり言えないけど、基本的には来た球に反応するだけ。スタメンの4打席とは変えているというか変わるものじゃないかと思っています」

 高い成功率については「首脳陣が配慮をしてくれているおかげ」だと言った。試合の状況にかかわらず、自分のペースで準備のタイミングなどは任されているという。大体は5回になればミラールームに向かって体を動かしつつ相手チームのデータも整理して体と頭の中をしっかり整える。

 打席でのルーティンも新たなものを加えた。バットを構える直前に左手を少し離す。

「僕は左利きだから左手が強い。力まないように。力み過ぎると、いいことがない」

1打席でもダメージがある

 チームの切り札として打席に立つ。しかも与えられるのは1日1打席のみ。1週間で数十打席に立っていた頃とはまるで違う。野球は失敗のスポーツだと言われ、特にバッターは打率3割で優秀とされるが、代打の場合は1打席の凡退がやたら重くのしかかる。

「1打席でも、1日打てなかったのと一緒。ダメージはあります。でも打てば、1日仕事をしたとなるので」

 この日、同点タイムリーの場面ではチームメイト全員がベンチから飛び出してきて中村晃を祝福した。また、球場のスタンドは中村晃の名前がコールされるだけで特別な雰囲気となる。いま、一番大きな歓声を浴びている選手と言っても大袈裟ではない。

 スタメンではなく代打となっても、中村晃は今なお“チームの顔”である。まだまだ先の長い今シーズン、切り札の一振りがこれからも最高の場面を演出するに違いない。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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