ちぃたん☆裁判:須崎市はひこにゃんの教訓に学ばなかったのか?
高知県須崎市が、カワウソのゆるキャラ「ちぃたん☆」が「しんじょう君」の著作権を侵害するとして申立てていた差止仮処分の申立が却下になったことについて昨日書きました。
念のため、この事件の概要についてまとめておきます(参考Wikipediaエントリー1、エントリー2)
- 2013年4月 須崎市、公募により選ばれたニホンカワウソをモチーフにしたゆるキャラ「しんじょう君」を公開
- 2016年11月 「しんじょう君」ゆるキャラグランプリで優勝
- 2018年1月 須崎市、個人が飼っている(リアルの)コツメカワウソであるちぃたん☆を観光大使に任命
- 2018年9月頃 上記(リアルの)コツメカワウソをモチーフにしたゆるキャラ「ちぃたん☆」登場(デザイナーは「しんじょう君」と同じ人)
- 2019年1月頃 リアルのコツメカワウソの方が観光大使に任命されたのに合わせ、ゆるキャラのちぃたん☆も市非公認で観光大使を自称、おもしろ動画に登場してネット上で人気を博すが、過激な動画が多いため、須崎市にクレームが殺到
- 2019年2月6日 須崎市、「しんじょう君」の著作権を侵害するとして、ゆるキャラ「ちぃたん☆」の使用を差し止める訴訟提起
- 2019年9月20日 仮処分の申立却下(イマココ)
非公認のご当地キャラというのは「ふなっしー」等と同様の設定ですが、「しんじょう君」と「ちぃたん☆」は外見がぼぼ同一であるために話がややこしくなってしまったわけです(「しんじょう君」はニホンカワウソ、「ちぃたん☆」はコツメカワウソなのですが)。「ちぃたん☆」の事務所側も別のデザイナーに頼む、ないし、同じデザイナーでもちょっと絵柄を変えてもらう等できなかったのでしょうか?
通常の公募であれば、すべての権利をクリエイターから発注者(須崎市)が買い取る契約になっているはずであり、「しんじょう君」と「ちぃたん☆」の類似は明らかであるところ、差止仮処分は何の問題もなく認められていたはずです。
しかし、実際には須崎市の「黙示の許諾」があったとして、差止は認められませんでした。細かい事情はわかりませんが、「市の宣伝になるのならば」と軽い気持ちで全面的に「ちぃたん☆」利用を許諾していたところ、実際には暴走して苦情が発生するようなキャラ設定になってしまったように思えます(「ちぃたん☆」側はゆるキャラのマネジメントを営利事業としてやっているのでアクセス数稼ぎで過激な方向に向かうのは十分あり得ます)。須崎市側も「市のPRになる活動に限り許諾する」、「いつでも許諾を中止することができるものとする」等々、ちゃんと契約書として明記しておけばよかったのにと思います。
ゆるキャラ関係で、発注側の権利管理が適当であったことで問題になったケースとして思い出されるのは、彦根市のひこにゃんのケースです。通常、公募であれば、契約によって著作者人格権を行使しないことを確約させるのですが、そのステップを怠ったために、作者が同一性保持権を根拠に彦根市を訴え、結構ややこしいことになってしまいました(詳しくはWikipediaエントリー等ご参照ください)。
重要なポイントは、著作権契約がうやむやであると損をするのはクリエイター側ではなく発注者側であるということです。また、人気ゆるキャラの活動はそれなりに金が動きますので、全員が正直かつ無欲に動くという前提も成り立ちにくいです。ひこにゃんにせよ今回のケースにせよ、最初の段階で弁護士や弁理士にひと言相談して、ちゃんとした契約書(そんな複雑なものではなく定型的なもので十分です)を交わしておけば何の問題もなかった話かと思います。