調達品の価格比較:図面情報との連携でより効率的な選択を
「分析っちゅうのは、比較っちゅうことやからね」。
大阪弁でまくしたてられた私は幸運だったと思う。分析とは比較である――。20代のころ、私は製造業の調達部門で従業していた。そのとき、QCD(品質・コスト・納期)を中心としてさまざまな決裁を上司に仰ぐ。
すると常に問われるのは「なぜこれが正しいのか」というものだった。「これは安い」「これは高い」といったところで、根拠が薄い。「これは安い。なぜならば」「これは高い。なぜならば」と続けねばならない。繰り返す、分析とは比較である。そして、“なぜならば”に続くのは、過去・類似・市況のどれかだった。つまり、過去の価格に比べて、類似品の価格に比べて、現在の市況に比べて……。調達部門は常に分析しなければならない。とすれば必要な手段として簡単な結論を導ける。
比較対象を素早く見つけられる手段だ。
製造業における調達品の価格比較は、一見すると単純な作業に見える。しかし実際には、調達品の価格比較は繊細かつ複雑な作業だ。調達コストは製造業のコスト効率と生産性に大きな影響を与える。それだけでなく、製造業の競争力を維持し強化するためにも、調達品の価格比較は欠かせない。
まずはいまさらではあるものの、価格比較の重要性を理解するために、製造業における調達の役割を考えよう。調達は、企業が必要とする商品やサービスを供給者から調達する活動だ。これは、生産ラインを維持し、製品を生産し、顧客に製品を提供するために必要な活動だ。そのため、調達は製造業の成長と成功に直結している。言い過ぎではないと私は信じる。
しかし、調達はコストも発生させる。特に、製造業では大量の材料や部品が必要となるため、調達コストは全体のコストの大部分を占めることが多い。このため、製造業者は調達コストを最小限に抑えることを目指す。
ここで、価格比較の重要性が明確になる。同じ品質の調達品でも、取引先によって価格は大きく変動する。そのため、競争力の高い取引先を見つけるためには、調達品の価格比較が必要だ。
「いや、そりゃわかってんですよ。大企業ならまだしも、現実的にはウチみたいな中小企業には難しい」。
これまで同様のコメントを何度も聞いた。逆に「いひひ、大企業は難しいでしょうけれどね、ウチみたいな中小企業だからできるんですよ」という施策は聞いたことがない。その皮肉は置いておいて、中小企業が投資の面で大企業に劣るのは実際だ。
価格比較は容易ではない。取引先の数が多く、それぞれの調達品の特性や品質、価格が異なる。適切な価格比較を行うためには大量の情報を集め、分析する必要がある。また、自社・市場の状況や取引先も変化する。価格比較は継続してずっと実施せねばならない。
「でも、調達履歴はわかるんですよね」と私が問うと「履歴はわかります。さすがに発注情報はシステム化しているんでね」と教えてくれる。なるほど、では、重要なのは単なる価格情報ではなく、図面データとの連携だ。
「いや、あのね。でも調達履歴に図面番号くらいは入力していますよ。でも図面番号がわかっても役に立たんでしょう。だって、図面が100枚ほど出てきたら、その図面を一つひとつ確認しなきゃいけない。それで類似品を探すたって時間がねえでしょうよ」。たしかにそうだ。
つまり、加わった要件としては、単に図面情報だけではなく、その図面を分析する機能だ。図面のデジタル化だけではなく、図面情報を分析してくれるソフトウェアが重要だ。たとえば、図面の製品はどのような材質か、形状が似ていて類似の工程で生産できるか、寸法はどうで材料費の近似性はあるか、といった要件だ。
また、これら機能が実装できれば、今後には価格比較のプロセスの自動化も可能となるかもしれない。出図したあとに、各調達品の価格情報が過去の図面情報と紐づき、価格比較を自動化するシステムだ。これらを実現すれば、価格比較の負荷を大幅に軽減できるはずだ。
価格比較の効率化は、調達品のコスト削減だけではない。調達人材の工数を削減できるため、市場の変動への迅速な対応など、より効率的な調達活動を行うことができる。もっとも、図面情報と価格情報の連携、価格比較の自動化には専門的な知識と技術が必要だ。社内での内製か、信頼できるソフトウェアベンダーの協力を仰ぐことになるだろう。そしてそれは製造業における経営戦略にほかならない。
以前からの単語に「開発購買」がある。開発プロセスにおいて、何回もの製図を繰り返し、試作品を作成し、評価し、改良する。開発購買は開発上流に介在して、最適なコストを規定する試みだが、結局のところ作図中のコストがわからないといけない。図面から過去の調達履歴をスムーズに引き出す取り組みは、この開発購買の意味でも寄与するだろう。製品開発のスピードも加速できる。
さらに、その先には、図面データをただデジタル化して管理しやすくするだけではない。それらデータをBI化(ビジネスインテリジェンス)で活用するためには、図面情報の機械学習などにより、大量の図面データから高価になりがちな仕様パターンを見つけ出し、より一層の自社コスト競争力強化にも役立てることが可能になるだろう。
これらの取り組みを行うには、組織全体の理解と協力が必要だ。前回に参照した「CADDi DRAWER」(https://caddi-inc.com/drawer/)は一例にすぎない。技術は進化するため、自社にマッチするシステムを継続的に学習する必要があるだろう。
今日、製造業はグローバルな競争の中で生き残るために、生産性の向上やコスト削減、そして新たな価値の創出という課題に直面している。図面データとシステムの融合は、これらの課題に対する有力な解答の一つだ。また「失われた30年」と皮肉られる現状を打破する手段ともなりうる。
ある偉人は「見たくない現実を直視することが、経営を改善させる」と喝破した。なるほど、そうであるならば、製造業者が図面という、基本であり根本である対象物を活用できていないとしたら――。おそらく、その改善に次なる方向性がある。私はそのような形でしか、もはや信じることができない。
*なおこれはアフィリエイト等の記事ではない