チームの心理的安全性を高める新常識「報連相(ほうれんそう)」から「雑相(ざっそう)」の時代へ
■「心理的安全性」どころか「心理的危険性」?
「昨今『心理的安全性』という言葉をよく聞くが、ただ単に生ぬるい組織になっていくだけではないか」
先日、このように愚痴を言う社長の話を聞いた。私もまったく同感だ。言葉の印象面だけを意識すると「何を甘いことを」と言いたくなる。
「心理的安全性と組織パフォーマンスは相関関係にあると言うが、そんなもの結果論だろう」
このように言うコンサルタントもいる。つまり、組織パフォーマンスが高い組織だからこそ心理的安全性が高いのか、心理的安全性が高いから組織パフォーマンスが高くなるのか。このあたりの見極めは重要だ。
私は企業の現場に入って絶対達成させるコンサルタントだ。
「絶対達成」をスローガンにするコンサルタントであるから当然、クライアント企業の従業員は戦々恐々とする。「心理的安全性」どころか「心理的危険性」を覚える人も多い。
しかし、それは仕方がない。
私どものミッションは、企業の経営目標を絶対達成させること。「心理的安全性」のアップが使命ではない。
とはいえ17年近くこのような支援をしてきて言えることは、業績の悪くなっていく会社の「心理的安全性」が高いレベルを維持することなど絶対にない、ということである。
■3種類のコミュニケーション強度
私どものような外部コンサルタントは、昨今企業にとって「機能的メリット」が大きいと言える。なぜなら、経営者や直属の上司が部下に厳しく言えなくなってきているからだ。
私たちの支援現場を見て、社長が、
「コンサルタントの方に厳しく言われないとできないのか。部長や課長は日ごろから何をしているんだ」
とよく言う。しかし、もうそれは昭和的な発想だ。
「グダグダ言わずに、まず手や足を動かしてください」
「自分で決めたことは絶対にやり切ってください」
「結果を出すまで創意工夫してください。計画どおりやればいいってものじゃありません」
相手が外部コンサルタントだから、こう言われても「ちっ、しょうがねーな」とボヤキながらも手や足を動かすものだ。しかし、これが直属上司からだったらどうだろう。部下の精神的負荷はかなり大きいはずだ。
コーヒーでたとえてみよう。
部下へのコミュニケーション強度は「ストロング」「ミディアム」「ライト」のうちどれかと聞かれれば――もちろん相手にもよるが――昨今は大抵「ミディアム」か、もしくは「ライト」を選択すべき。
とくにチームの「心理的安全性」を考えたら、私どものような「ストロング」なコミュニケーションをとるのは常識的にお勧めできない。
■「報連相(ほうれんそう)」はもう古いか
「よくできる部下ほど、しっかり報連相をする。できない部下ほど報連相をしない」
と多くの経営者、中間管理職が口にする。私もそう思っていた。できる部下とできない部下を識別するのは「報連相」の頻度であると。しかし、今は違う。
部下が40歳以上ならともかく、40歳未満なら、もう「報連相」を求めないほうがいい。諦めよう。できる部下であったとしても、「報連相」などしてこない。これはもう、まさにジェネレーションギャップと言っていい。
いくら「ストロング」な感じで、
「きちんと報連相をしろって! 前から言ってんだろうが。どれだけ言えばわかるんだよ!」
と怒鳴りつけても、その通りに行動を変える40歳未満の部下は少数派だ。ほとんどは、一週間ぐらいしか上司の言う通りに行動を変えない。
それは、なぜか?
「報連相」――つまり「報告」「連絡」「相談」すべてが、部下の主体的な行動を源になされることだからだ。
軍隊のようにトレーニングすれば「報連相」の習慣は体に染みつくだろう。しかし部下の主体性に任せるのであれば、「報連相」など、なかなか習慣化しない。では、どうすればいいのか?
それが「雑相(ざっそう)」の発想だ。
■「雑相(ざっそう)」のメリット
「雑相」とは、もちろん「雑談」と「相談」とを組み合わせた表現のことだ。「報連相」ほど、まだまだ一般的ではないが、これからの時代、よりいっそう注目されると私は考えている。なぜなら、部下の主体性に依存しなくてもいいからだ。
「報連相」のケースでは、
・ 部下 → 上司「報告」
・ 部下 → 上司「連絡」
・ 部下 → 上司「相談」
このように「報告」も「連絡」も「相談」も、すべて部下側からスタートさせるコミュニケーションだ。だから部下の主体性が求められるのだが、「雑相」は違う。
・ 上司 → 部下「雑談」
・ 部下 → 上司「相談」
このように「報連相」と異なり、まず上司から部下に「雑談」をしてコミュニケーションがスタートする。そのため、ひとまず部下の主体性は関係がない。
主体性が求められるのは、上司のほうなのである。つまり上司にさえ主体性があればいいのだ(上司に主体性がないのであれば、もう上司でいる資格がない)。
これであったら上司にはイージーだ。
上司のほうから適度に雑談をすることで、部下から「相談」される機会を増やすことができる。
例文で確認してみよう。だいたい、その際に使われる代表的なフレーズが「ところで」「そういえば」「実のところ」であることを知っておいてもらいたい。
上司:「最近、在宅勤務が増えてきたけどどう? 通信環境など問題ない?」
部下:「あ、部長。お疲れ様です。大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます」
上司:「庶務のAさんが通信環境で困っているみたいに言ってたから、どの家庭でもあるのかなと思って」
部下:「我が家では大丈夫です」
上司:「そうか、それはよかった」
部下:「Aさん、幼いお子さんを見ながら仕事できるって、すごく感謝していましたよ」
上司:「へえ、そうなんだ」
部下:「私も来年結婚するので、在宅勤務の制度はすごくありがたいです」
上司:「改めておめでとう。結婚の準備はどう?」
部下:「ありがとうございます。けっこう大変ですけど、一生に一度のことなので頑張ります」
上司:「そっか、そっか」
部下:「ところで部長、相談があるんですけど、今いいですか?」
上司:「どうした?」
部下:「先日お願いされた提案資料の件なんですが、データの信ぴょう性について疑問がありまして……」
このように、日々上司が部下にちょこちょこ雑談することで「単純接触効果」という心理効果が働く。関係が良好になり、雑談ついでに部下から相談されることが増えるだろう。「相談しやすい上司だな」という印象を部下が持つことも多くなる。
そもそも部下の主体性に依存すると、上司は常に「待ち」の状態になる。リモートワークが普及する新常態において、この姿勢はまずいし、ストレスもたまる。
繰り返すが、新常態のコミュニケーションスタイルは「ミディアム」か「ライト」なスタイルがいいだろう。そして「報連相」よりも「雑相」を意識する時代なのではないか、と思う。