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「新・ガザからの報告」(28)24年11月22日ー前編・ハマスとギャングの抗争ー

土井敏邦ジャーナリスト
(小麦粉が消え、以前のように主食のパンが焼けない/撮影・ガザ住民)

【小麦粉が手に入らない

(Q・今週はどんなことがあったか教えてください。)

 最も重要な出来事は、ガザ地区南部と中部における食料危機に関する新たな情報です。小麦粉の危機のために、食料危機はさらに深刻化しています。先週、小麦粉の備蓄はほぼ底をつきました。UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)、世界食糧計画、その他の国際機関、あるいは一部の地元の商人たちの倉庫にある小麦粉の備蓄量はほぼ底をついています。

 ご存知のように、パレスチナ人の家庭にとって、食料の中心となるのはパンです。パンがあれば、なんとかなります。たまに米やマカロニを食べるのはいいですが、米やマカロニを大量に食べることはできません。だからパレスチナの食生活において、特にガザ地区では、パンが最も重要な位置を占めています。ですから、この重要な部分が欠けてしまうと、家族の毎日の食生活に非常に大きな問題が生じます。

 今この瞬間、小麦粉が非常に不足しており、ほとんどの人がパンを手に入れることができません。パン屋は閉店しており、人々はパン屋でパンを買うことさえできません。パン屋で買うことはできないし、自宅でパンを焼くこともできません。

  闇市場では小麦粉が少し手に入りますが、もちろん非常に高価です。地域によっては、 1袋(25キロ)の値段が500シェケル(135ドル/約2万円)もするんです。すごいでしょう?闇市場でも十分な量が手に入らないから、とても高いんです。

 私の家族の場合、以前は、食べ物はすべて米とマカロニでした。その米もどれほど高いか想像できないでしょう。米1キロが26シェケル(約1000円)です。米を手に入れるのも簡単ではありません。もし米だけに頼ろうと思ったら、家族全員で毎日2キロ必要です。つまり2キロで52シェケル(約2000円)です。

 もうひとつ問題があります。食用油です。もう何日も食用油がありません。食用油が市場から完全に姿を消しているのです。ですから、米を水で炊いて食べるしかありません(注・パレスチナ社会では通常、米料理には食用油を使う)。

 他の日にはマカロニをゆでて食べます。マカロニは市場で手に入ります。エジプト産やトルコ産、イタリア産のマカロニがあります。ですから、我が家では、パンではなく、2種類の食品に完全に頼っています。1つ目は米、2つ目はマカロニです。

【トラック物資をめぐるハマスとギャングの内紛】

(Q・小麦粉が不足している原因は何ですか?)

 この問題は別の重要な問題と関連しています。それは、食料をめぐる内紛です。

 3日前、私たちはガザ地区でハマスの戦闘員とギャング集団の間で起きた最大の戦闘を目撃しました。

今回の衝突は「アブ・シャバブ」と呼ばれるギャング集団との間で起きました。このギャング集団はハマスやいくつかのファミリー(一族)と衝突していました。非常に大きな衝突です。この闘争の正確な部分を掌握することはできません。混沌としているからです。

この流血の争いの結果、22人の死者、負傷者は約40人です。この衝突は、小麦粉を積んだ巨大な輸送トラックの車列をめぐるものでした。その輸送車列は、小麦粉を積んだ150台近いトラックで構成されていました。

(「アブ・シャバブ」ギャングのリーダー。ハマスとの抗争で殺害された/地元SNSより)
(「アブ・シャバブ」ギャングのリーダー。ハマスとの抗争で殺害された/地元SNSより)

(Q・この150台のトラックを奪おうとしたりしたギャング集団とハマスが争ったのですか?

イスラエルは、ガザ地区に食料をもっと入れるよう迫るアメリカ政府の圧力に応えて、ケロムシャローム検問所からガザ地区に物資を積んだ150台のトラックの隊列が入ることを許可しました。このトラック輸送隊がガザ地区に入ったとき、私たちはこの混乱を目撃しました。トラック輸送隊をめぐって戦闘状態になったのです。

ハマス側の声明によると、「アブ・シャバブ」ギャングが150台のトラックのうち109台を略奪したと非難しました。

 一方、「アブ・シャバブ」ギャング側は、「ハマスが不正行為をしている」と主張しています。「ハマスがトラックを略奪した。そして、我われ(「アブ・シャバブ」一派)がこの略奪事件に関係していない。我われはトラック輸送隊を攻撃していない。ハマスがこのような略奪事件を起こし、我われのせいにしている」と主張しています。

 つまりハマスは「アブ・シャバブ」ギャングを非難し、「アブ・シャバブ」ギャングはハマスを非難している。住民の間にはハマスの主張に共鳴する者もいれば、「アブ・シャバブ」一派に共鳴する者もいます。ですから、2つのグループに分かれています。

 大きな混乱です。しかもこの輸送隊の行方が分かっていません。

 一方、住民たちは小麦粉の袋一つさえ受け取っていないのです。ですから今、ガザ地区の中央部と南部に住む人びとは、誰が輸送隊を襲撃し略奪したのか、そしてなぜ今、小麦粉が手に入らないのかを問うています。そして、闇市場で今、小麦粉を1袋500シェケルで売っている商人たちを非難しています。人びとはこの商人たちを略奪者と結びつけています。彼らこそ略奪者たちだと考えているのです。

 今私たちが小麦粉不足の危機に直面していうのは、3日前のトラック輸送隊が略奪されたことに起因していると考えています。人々は小麦粉を1袋も手に入れることができないのですから。

(Q・一般の住民の反応はどうですか?あなた自身の意見は?)

 意見は分かれています。一部の人たちはハマスを非難し、他の人たちはイスラエルを非難しています。

 ハマスを非難している人たちは、「109台のトラック」を略奪するには武装組織が必要だと考えています。それはギャングの力を超えた武装組織が必要なのです。そして、このトラックの列は、夜ではなく、真昼間に略奪されたのです。「アブ・シャバブ」ギャングは、おそらく数十人の戦闘員で構成されていると考えています。武装した戦闘員のこの小さなグループは、真昼間にこのような大規模な輸送トラック隊を略奪することはできません。

 一方、イスラエル軍がハマスの警察、ハマスの戦闘員を標的にしており、彼らがトラック輸送隊を略奪しようとした場合、イスラエル軍の無人機が彼らを攻撃するはずです。だからハマスはそういう大がかりな略奪はできない。だからハマスを責めるべきではないと考えている住民もいます。だからガザ住民の間には、2つの相反する意見があるのです。

(Q・あなたはどう思いますか?あなたの意見を聞かせてください。)

 私自身の意見としては、ハマスとギャングの双方が非難されるべきだと思います。どちらも略奪者だと思います。おそらく、双方は現金の利益の分け前を巡って争っているのでしょう。つまり、2つの略奪者が利権を巡って争っているのだと思います。

 忘れてはいけないのは、これらのギャングはすべて、ハマスの支援を受けて、この戦争の初期に結成されたということです。ハマスはケロムシャロム検問所に近づくことができなかった。なぜなら、ハマスの戦闘員はイスラエル軍の標的になるからです。だからハマスは、トラックを略奪するギャングたちを雇い、そのトラックをハマスに引き渡したし、その物資を市場で売って現金化、その現金の一部をギャングのリーダーたちと分け合っていたのだと思います。シンワル(ガザにおけるハマスの最高指導者。24年10月にイスラエル軍によって殺害された)が生きていたときに結成されたものだと言われています。

 ですから、これらのギャング集団は行き当たりばったりで結成されたのではなく、ハマスの許可を得て結成されたのです。なぜなら、彼らは援助物資を売り現金を得るという目的を達成していたからです。ハマスには現金が必要だからです。

 彼らがどれほどお金を必要としているか、想像もつかないでしょう。この戦争の当初からハマスが現金を得ていなかったら、ハマスは崩壊していたかもしれないと考える人もいます。なぜなら、ハマスはスタッフに給料を支払っているからです。軍事行動の費用も支払っています。つまり、この現金がなければ、ハマスは戦争当初から崩壊していたということです。

(Q・あなたの意見では、ハマスがこの輸送隊を捕獲するために、アブ・シャバブのような一族が捕獲した物資の分け前を要求し、それをハマスが拒否したから、両者の対立が起こったというのですね?)

 これが 最も論理的な理由だと思います。私はそう考えています。この戦争の初期にハマスがこれらの一族をリクルートしたのは、ハマスの戦闘員を危険にさらしたくないからであり、その代わりにこの仕事をさせるためだったということはよく知られています。

アブ・シャバブ一族はタラビーン一族から派生したものです。前回、タラビーン一族の中でも最大のファミリーはスーフィー一族だと報告しました。そのスーフィーの他に、このアブ・シャバブのような一族もいます。

 これらの家族、この部族とそれらの家族はガザ地区の最も遠い隅、ラファ地区の最も東の遠い部分を拠点にしています。もちろん、このような戦争時にはハマスも近づくこともできません。

だからハマスは物資の略奪をする仕事のために、これらのファミリーを雇ったのです。

(Q・しかし、あなたが言ったように、トラック150台というのは大きな数字です。それほど大きな数のトラックを小さな戦闘グループが管理することはできません。あなたが言うように、大きな武装集団が必要です。それはハマス以外にないのではないですか。ギャングたちはおそらく数十人で小火器しかないはずです。どうやって150台ものトラックを、そんな小さなギャングが収奪し管理できるのでしょうか?ハマスのような大きな武装組織なら、それはできると思いますが。この矛盾について、どう思いますか?)

  私も小さなギャング集団が150台もの輸送トラックの列を制御することはできないと思います。今、これを実行できる組織は、ハマスやイスラム聖戦のような武装グループ、武装した軍事部門だと思います。これは私の意見です。

 すると、もう一つの疑問が起こります。もしハマスが昼間にこのトラック輸送隊を攻撃したとすれば、イスラエルはなぜそのハマスの部隊を攻撃しなかったのかという疑問です。150台もの輸送トラックを制御するには、何百人もの戦闘員が必要です。しかしイスラエル軍は干渉せず、ただ見ているだけでした。イスラエル軍は輸送隊の略奪を妨害することができたと思います。

 それは、イスラエル軍がガザ地区で飢饉が起こることを望んでいるからだと私は推測しています。イスラエル軍が干渉しなかったのは、ガザ住民に食料が渡ることを望んでいなかったからではないか。ハマスが食料を略奪することで、住民を飢饉に陥れるという狙いを達成できるからイスラエル軍は干渉しなかったのではないかと私は推測しています。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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