見てほしい胸糞作品がまた一つ。映画『マンティコア』(少しネタバレ)
単に不快なだけでは見る価値がない。バッドエンドがすべて胸糞悪くなるわけではない。鑑賞後、確実に気分は悪くなる。だが、闇を覗いた体験も確実に残る。
※以下、ほんの少しネタバレがあります。
『マンティコア』は不快だ。
テーマが不快であり、生理的に受け付けない人もいるに違いない。しかしだ、こういうことは確実にある。目を背けたくなり、耳を塞ぎたくなるが、ニュースでもしばしば報じられている。
この作品が優れているのは、衝撃的な映像を使うことなく、普通の恋愛ものの体裁で闇を見せてくれるところだ。見るのはまったく辛くない。時間もあっという間に過ぎていく。
だから、自信を持ってみなさんにおススメできる。
■人の皮をかぶったライオンはあなたの隣にも
不快になり、ラストの意味を考え、主人公がどっぷり浸かっている闇を想う。彼はそこから抜けられるのか? 多分、抜けられないんじゃないか?という結論に達してまた憂鬱になる。
悪い後味が長く尾を引く。早く忘れよう!とはならない。こういう作品は胸糞であっても見る価値がある。
タイトルの「マンティコア」(スペイン語では=Mantícoraマンティコラ)とは、顔が人間、体がライオンの化け物で、人間を喰うそうだ。
ただ、作品に出てくる化け物は、普通のどこにでもいる人の姿をしている。中身は人喰いライオンなのだが、人の皮をかぶっているから見分けがつかない。
人畜無害でむしろ良い人のように見えるあの人が、もしかしたらマンティコアかもしれないのだ。
そう言えば、今ちょうど日本のメディアでも、その闇に関する報道が相次いでいる。あのスキャンダルの主人公も多分マンティコアなのだろう。
■個人的胸糞ベスト5。バッドエンドと胸糞
個人的に見てほしい胸糞作品ベスト5――『マザー!』、『聖なる鹿殺し』、『ゴーストランドの惨劇』、『ミスト』、『愛なき森で叫べ』――の牙城を揺るがすことはなかったが、その次のグループには入る。ラストに不思議な爽快感があった『ミッドサマー』がいる第二グループだ。
※『マザー!』の評はこちら
公開中止は残念。『マザー!』。若く未熟な常識人が、芸術家の業、エゴ、狂気に破壊される
ベストの真逆。
単に胸糞なだけのワーストももちろんある。過去にシッチェス映画祭では、不快過ぎて観客が次々と席を立つ作品も見た。
※『RAW』と『Caniba』。新旧シッチェス映画祭上映作で考える「カニバリズム」と「セクシャリティ」
ところで、そもそも何が胸糞なのだろう?
バッドエンドだろうか?
いや、それなら『ロメオとジュリエット』、『タイタニック』、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も含まれてしまう。
悲劇が不快とは限らない。涙を流して気持ち良くなることもできるから。
『レクイエム・フォー・ドリーム』や『メランコリア』もバッドエンドだが、胸糞悪くはならなかった。憂鬱になっただけ。ドラッグだったりSFだったり素材が自分の日常に遠いからだろう。
バッドエンドだけでは胸糞には不十分だ。
不快になるためにはテーマや素材が不快でなければならない。
生理的に受け付けないものだったり、道義的に許せないものだったり。
先のベスト5の作品はみなそうだ。
正義が負けたり、悪がのさばったり……。特に、その悪が人間由来のものだと、激しく気分が悪くなる。悪魔や化け物が悪なのは当たり前だが、我われ人間が悪なんてのは知りたくない。
■ラストの解釈(ネタバレ無し)
『マンティコア』のラストはいろいろ解釈が分かれるところだ。
見たまんま受け取っていいのか、いけないのか?
多分、いけない。
というのも、作った人が作った人だから。
監督は『マジカル・ガール』で、2014年のサンセバスティアン映画祭、最優秀作品賞を受賞したカルロス・ベルムト。彼の2作目『シークレット・ヴォイス』も一捻りあった。すんなり予定調和で終わらせるわけがない。
ラストが見たまんまではない、という前提だと胸糞感は飛躍的に増す。
昨年の東京国際映画祭でも上映された『マンティコア』。日本公開が待たれる。
※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭