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円形脱毛症の精神的負担と生活への影響 - 成人・青年患者337人の実態調査【豪州】

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

円形脱毛症は、自己免疫性の皮膚疾患で、頭皮や体の一部で毛が抜ける特徴があります。世界の有病率は約2%とされ、日本でも人口の1~2%が罹患していると推定されています。オーストラリアでは最近、12歳以上の円形脱毛症患者337人(成人288人、青年49人)を対象とした大規模なオンライン調査が行われ、本疾患が患者の健康関連QOL(生活の質)に与える影響が明らかになりました。本記事では、この調査結果を詳しく解説していきます。

【半数以上が広範囲の脱毛を経験 QOL低下は脱毛範囲と相関】

研究チームは、Sinclair氏らを中心に、オーストラリア円形脱毛症財団の協力のもと調査を実施。その結果、全参加者の実に51%が、頭皮の50%以上の脱毛を経験していたことが分かりました。脱毛範囲が広いほど、健康関連QOLへの影響が大きい傾向も明らかになりました。

Alopecia Areata Patient Priority Outcomes(AAPPO)尺度を用いた評価では、脱毛範囲が広い群で感情面のスコアが高く、日常生活の支障度も高いことが示されました。仕事や学業への影響も無視できません。脱毛の程度に応じた細やかなサポートが求められる結果と言えるでしょう。

【7割が臨床域の不安症状 うつ傾向も要注意】

Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いた分析から、円形脱毛症患者の精神的負担の高さも浮き彫りになりました。臨床域の不安症状を示したのは、成人の69.4%、青年の73.5%に上り、平均スコアは成人で9.2点、青年で9.7点でした(0-7点が正常域)。

また、うつ症状についても、成人の42.7%、青年の28.6%が臨床域にあり、特に広範囲脱毛の成人群では中等症以上のうつ傾向を示す割合が高いことが示唆されました。円形脱毛症患者の精神的ケアの必要性を物語る結果と言えます。

【日常生活や仕事への影響も深刻】

Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire(WPAI)による評価でも、円形脱毛症がQOLに与える影響の大きさが裏付けられました。日常生活に何らかの支障があると報告したのは成人の70.5%、青年の57.1%。

また、円形脱毛症のために仕事を休んだ経験がある成人は18.4%、作業効率が落ちた経験がある成人は37.8%に上りました。青年でも、登校を休んだ経験がある者が22.4%、学習効率が落ちた経験がある者が40.8%に上り、社会生活への影響が無視できないことが示されています。

オーストラリアのSinclair氏らによるこの大規模調査から、円形脱毛症が患者のQOLに多大な影響を与えていることが明らかになりました。身体的な脱毛の程度のみならず、精神面への影響や生活への支障を多角的に評価し、それぞれの患者に寄り添ったサポートを提供することが重要だと考えられます。皮膚科医には、内面的・社会的な困難を抱える円形脱毛症患者に対し、適切な治療とケアを提供することが求められています。

参考文献

Sinclair R, et al. Health-related quality of life of adult and adolescent patients living with alopecia areata in Australia. Australas J Dermatol. 2024.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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