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子どもの皮膚病が引き起こす差別(スティグマ)と精神的影響 - 最新の大規模研究で判明

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【子どもの慢性皮膚疾患とスティグマの関連】

子どもの慢性的な皮膚疾患は、身体的な症状だけでなく、精神的な負担も伴います。特に、皮膚病変が目立つ場合、周囲からの偏見や差別(スティグマ)を経験することが少なくありません。米国とカナダの32の小児皮膚科クリニックで実施された大規模な横断研究では、慢性皮膚疾患を持つ子ども1,671名を対象に、スティグマの実態と精神衛生への影響が調査されました。

その結果、実に73%の子どもがスティグマを経験していることが明らかになりました。最もスティグマのスコアが高かったのは多汗症、化膿性汗腺炎、魚鱗癬、そして表皮水疱症でした。一方、尋常性ざ瘡、アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症といった一般的な皮膚疾患でも、平均して軽度から中程度のスティグマが認められました。スティグマのスコアは疾患の重症度や目立ちやすさと相関していましたが、その関連は弱く、目立たない部位の病変であってもスティグマを経験していることが示唆されました。

【スティグマがQOLと精神衛生に及ぼす影響】

研究の結果、スティグマは子どものQOL低下と強く相関していることが明らかになりました。特に、うつ病との関連が顕著で、スティグマのスコアが高いほどうつ病の傾向が強いことが示されました。また、不安症状や仲間関係の悪化とも中程度の相関が認められました。実際、うつ病傾向が中等度以上だった子どもの割合は14.3%、不安症状は14.5%、仲間関係の問題は28.1%にのぼりました。

皮膚疾患の中でも、多汗症と化膿性汗腺炎の子どもでうつ病と不安症状のスコアが特に高く、40%前後が中等度以上のスコアを示していました。子どもの慢性皮膚疾患は、身体的な症状以上に、精神面へ大きな影響を及ぼしている可能性があります。皮膚科医は、スティグマやいじめの問題にも注意を払い、必要に応じて精神科や心理士と連携することが求められるでしょう。

【子どもの皮膚疾患への適切な支援】

この研究では、親の29.4%が子どものいじめを認識しており、いじめを受けた子どもはスティグマ、うつ病、不安症状、仲間関係の問題のスコアが有意に高いことが示されました。われわれ大人は、子どもの皮膚疾患の重症度や目立ちやすさだけでなく、スティグマやいじめの問題にも注意を払い、必要に応じて学校の先生への説明、心理カウンセリングの提案、レジリエンス(心の回復力)を高めるプログラムの紹介などを行うことが望まれます。

参考文献:

Paller AS, et al. Stigmatization and Mental Health Impact of Chronic Pediatric Skin Disorders. JAMA Dermatol. Published online April 24, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.0594

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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