アトピー性皮膚炎と妊娠 - 胎児に影響しない治療法とケアのポイント
【妊娠中のアトピー性皮膚炎の特徴と症状の変化】
アトピー性皮膚炎は、成人女性、特に妊娠可能年齢の女性に多くみられる慢性の炎症性皮膚疾患です。思春期以降は男性よりも女性の患者数が上回り、この傾向は成人期まで続きます。
妊娠中のアトピー性皮膚炎患者では、女性ホルモンの影響により症状が悪化することがあります。エストロゲンとプロゲステロンが免疫系や皮膚のバリア機能に影響を与え、炎症を助長すると考えられています。具体的には、妊娠18週目頃を境に症状が悪化し、分娩までこの状態が続くケースが多いとされています。
また、妊娠中は胎児への影響を考慮して治療薬の選択に注意が必要です。胎児に対する薬剤の安全性が確立されていない場合、症状が悪化していても適切な治療が受けられず、母体のQOLが低下することもあります。
妊娠特有の皮膚疾患である妊娠性痒疹は、アトピー性皮膚炎と臨床的・組織学的に類似しているため、しばしば混同されます。妊娠性痒疹は妊娠18週目頃に発症し、多くの場合は妊娠後期までに出現します。アトピー性皮膚炎の既往がない女性にも発症することが妊娠性痒疹の特徴です。
【妊娠中の治療オプションと注意点】
妊娠中のアトピー性皮膚炎治療では、外用薬が第一選択となります。ステロイド外用薬は、妊娠中も比較的安全に使用できますが、強力なものは避け、必要最小限の使用にとどめるべきです。大量・長期使用により、低出生体重児のリスクが高まる可能性があります。
カルシニューリン阻害薬の外用薬(タクロリムス軟膏、ピメクロリムス軟膏)は、ステロイド外用薬の代替として使用できます。ただし、妊娠中の安全性は完全には確立されていないため、使用する際は十分な説明と同意が必要です。
内服薬では、シクロスポリンが重症の妊婦に使用できる可能性があります。ただし、胎児の発育遅延や低出生体重、母体の高血圧のリスクがあるため、慎重な判断が求められます。
ステロイド内服薬は、妊娠中のアトピー性皮膚炎治療において、あくまで短期間の使用を検討すべきでしょう。連用により、胎児の成長障害を引き起こす可能性があります。
光線療法、特にナローバンドUVB療法は、妊娠中も比較的安全に実施できる選択肢の一つです。ただし、長期的な紫外線暴露によるメラニン沈着などの副作用リスクについては説明が必要です。PUVA療法は、薬剤の催奇形性により禁忌とされています。
新しい治療選択肢として、デュピルマブやトラロキヌマブなどの生物学的製剤が注目されています。これらの薬剤は、妊娠中・授乳中の安全性に関するデータが限られているため、使用には慎重な判断が求められます。
【スキンケアの重要性と具体的な方法】
妊娠中のアトピー性皮膚炎管理において、スキンケアは非常に重要な位置を占めています。保湿剤の塗布により、皮膚のバリア機能を向上させ、炎症を予防・軽減することができます。
入浴は、皮膚の汚れや刺激物質を取り除く目的で行います。ただし、入浴時間は10分以内とし、38-40度程度のぬるめのお湯を使用するのがポイントです。入浴後は、軽く水分を拭き取り、保湿剤を塗布します。
皮膚の乾燥を防ぐため、入浴の回数は1日1回以下に留めます。石鹸は、弱酸性で低刺激性のものを選ぶようにしましょう。
スキンケアの際は、爪を短く切り、清潔に保つことも大切です。掻破により皮膚に傷をつけてしまうと、細菌感染(伝染性膿痂疹など)を引き起こす原因になります。
ストレスは、アトピー性皮膚炎の悪化因子の一つとして知られています。妊娠中は、ストレスを感じやすい時期でもあるため、ストレス管理にも気を配る必要があります。
妊娠中や授乳中のアトピー性皮膚炎は、胎児や乳児への影響を考慮しつつ、個々の重症度に応じて治療方針を決定する必要があります。皮膚科医による適切な診断と、十分な説明に基づく同意のもと、安全で効果的な治療を行うことが重要です。定期的な経過観察により、母子ともに健康的な妊娠・出産・育児を迎えられるよう、サポートしていくことが求められます。
参考文献:
Int J Womens Dermatol. 2024 Jun 10;10(2):e151.