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【全身性強皮症・尋常性白斑・円形脱毛症】2型免疫の関与と治療への応用

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

皮膚の炎症性疾患における2型免疫の役割

皮膚は私たちの身体の中で最大の臓器であり、外界から身を守るための重要なバリア機能を担っています。しかし、時として皮膚には炎症性の疾患が生じることがあります。アトピー性皮膚炎はその代表的な疾患の一つで、痒みを伴う湿疹を特徴とし、国内では成人の10〜15%が罹患していると言われています。

アトピー性皮膚炎の発症メカニズムには、2型免疫と呼ばれる免疫応答の異常亢進が深く関わっていることが知られています。2型免疫は、IL-4やIL-13といったサイトカインを介して誘導され、炎症性の細胞が皮膚に浸潤することで皮膚バリア機能の低下や炎症を引き起こします。最近の研究で、2型免疫の異常がアトピー性皮膚炎だけでなく、他の炎症性皮膚疾患の病態形成にも関与している可能性が示唆されており、新たな治療ターゲットとして注目を集めています。

本記事では、アトピー性皮膚炎以外の炎症性皮膚疾患における2型免疫の役割について、最新の研究知見を交えながら解説していきます。

【全身性強皮症(SSc):2型免疫が線維化を促進?】

全身性強皮症(SSc)は、皮膚や内臓諸臓器の線維化(コラーゲンの過剰産生と沈着)を特徴とする難治性の疾患です。従来、SScの病態形成には1型免疫(Th1細胞など)の関与が考えられてきましたが、病期の進行に伴い2型免疫(Th2細胞など)優位に移行し、線維化に寄与している可能性が指摘されています。

SScの患者さんの血清中や皮膚では、2型サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-6、IL-13の上昇が確認されています。In vitroの検討では、IL-4やIL-13がコラーゲンやペリオスチンといった細胞外マトリックス成分の産生を促進することが示されています。また、動物モデルを用いた検討でも、2型免疫シグナルの阻害により皮膚線維化が抑制されることが報告されています。

現在、IL-4/IL-13シグナルを阻害する生物学的製剤デュピルマブのSScに対する臨床試験が進行中であり、新たな治療選択肢となることが期待されています。

【尋常性白斑:2型免疫がメラノサイト脱失に関与?】

尋常性白斑は、皮膚のメラニン色素が脱失して白斑を生じる後天性色素脱失症です。発症には自己免疫の関与が示唆されており、白斑部では1型免疫を反映して、IFN-γやTNF-αなどのサイトカイン産生が亢進しています。

近年、尋常性白斑の患者さんでは、2型免疫に関連するIL-4、IL-13、IL-33の血清レベルの上昇や、皮膚へのTh2細胞の浸潤が確認されています。In vitroでは、IL-4やIL-13がメラノサイトのメラニン産生を抑制し、さらに表皮細胞からのMMP-9の産生を介してメラノサイトの脱落を促進する可能性が示唆されています。

尋常性白斑に対する抗IL-4/IL-13製剤の有効性を示唆する症例報告もあり、今後さらなる検討が必要とされています。

【円形脱毛症:2型免疫が発症・病勢に関与】

円形脱毛症は、限局性の脱毛斑を生じる自己免疫性の疾患です。発症には自己反応性のCD8陽性T細胞による毛包への攻撃が関与しており、IFN-γやIL-15の産生亢進が認められます。

円形脱毛症の患者さんでは、アトピー性皮膚炎など2型免疫の関与する疾患の合併率が高いことが知られています。また、IL-4/IL-13の遺伝子多型との関連も報告されています。病変部の皮膚では、IL-4、IL-13、IL-33などの2型サイトカインやケモカインの発現上昇、Th2細胞の浸潤が認められます。

円形脱毛症に対する抗IL-4/IL-13製剤デュピルマブの有効性については一定の見解が得られておらず、病型によって奏功率が異なる可能性が指摘されています。病態の heterogeneityを考慮に入れた層別化医療の重要性が示唆される所見と言えるでしょう。

<まとめ>

アトピー性皮膚炎以外の炎症性皮膚疾患においても、2型免疫の病態への関与が明らかになりつつあります。2型サイトカインは皮膚の線維化や色素脱失、脱毛に関与している可能性があり、これらを標的とした新たな治療法の開発が期待されます。一方で、疾患や病型によって2型免疫の役割は多様であり、包括的な理解とそれに基づく個別化医療の実現が求められます。皮膚疾患の病態解明と治療開発において、2型免疫研究の果たす役割は今後ますます大きくなるものと思われます。

参考文献:

Migayron L et al. Front Immunol. 2024, Type-2 immunity associated with type-1 related skin inflammatory diseases: friend or foe?

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2024.1405215/full

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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