被災地の人々と被災地で働く職員を守ろう:熊本地震から1ヶ月・NHKスペシャル
■熊本地震から1ヶ月
5月14日で熊本地震から1ヶ月。しかし今なお、1万人以上の人が避難生活を続けています。
1ヶ月目の節目に、多くの報道がされています。
「そのまま宿泊することもざら」被災地職員減らぬ負担 1人当たりの避難者20.6人、「東日本」超
■NHKスペシャル(5/14)
熊本地震から1ヶ月目の5月14日(土)のNHKスペシャルは、「最新報告 “連鎖”大地震」と題して被災地の現状を次のようにレポートしています。
仮設住宅
仮設住宅の建設は遅れています。決して誰かが仕事をサボっているわけではなく、1ヶ月経った今も混乱が続いていることが原因です。適当に建設し、適当に入居募集などしたら、大混乱です。
子ども
おびえている子どもたちがいます。「また大きな地震が来たら、壊れちゃうの?」と子どもは質問してきています。
医療
医療現場の混乱も続いています。一旦は落ち着いたかのように見えた病院も、また患者が増えています。この1ヶ月の生活でストレスがたまり、ストレスのせいで免疫力が落ち、体調が悪化する人が増えています。1ヶ月経っても、重症患者は減りません。
建物が壊れ、患者を全く受け入れられない病院もあります。ほぼ満床の病院もあります。空きベッドがないと、救急の患者の対応ができません。仕方なく、できるだけ退院してもらう方向です。
医療チームと心のケア:限界に近づく職員たちも
地震で家族を亡くされたご遺族の心も、傷ついたままです。サアバイバーズ・ギルドに苦しむご遺族もいます。「なぜ、助けたあげられなかったのか」「なぜ自分だけ生き残ったのか」と、ご遺族は自分を責めます。
熊本赤十字病院では、心のケアを担当するチームが発足しました。全国から集まったメンバーが、各避難所の訪問を始めています。チームメンバーからは地震の話をせず、血圧測定などをしながら、被災者自らが話し始めることを待ちます。自発的に語ることは、癒しにつながります。
今、一刻も早く心のケアが必要と考えられるのは、自治体職員だと、赤十字のチームメンバーは話します。
職員も被災者ですが、立場上弱音を吐けず、不眠不休で働いてきました。
医療チームは、リラックした語りやすい場を提供します。
その中で、突然泣き出す女性職員もいます。遺体の搬送や避難所の運営を続けてきました。子供の面倒は夫が見て、ほとんど家に帰れない日々が続いています。
自分が街を支えなければならないと思いつつ、実は自分自身も誰かに支えてもらいたい。複雑な感情の中で、職員の心は傷つき弱っています。元気そうな青年も、語りつつ涙が出ます。
1ヶ月経ち、涙が流せるようになったとも言えます。使命感の強さゆえに傷ついている職員を支えることは、被災地復興のために欠かせません。
被災者と被災者を支える人々の心のケアをどう支えるかが、課題です。
■被災地で働くプロを守る
NHKスペシャルでも取り上げていた被災地で働くプロを守ることは、災害心理学の新しいテーマの一つです。そこには、役所や社協などの事務職員も含まれています。
過酷な労働が続けば、士気が下がり、ミスが増え、数年にわたる退職増加や心身の不調につながりかねません。
必要なことは、交代体制の整備、体力と集中力の維持のための休息、リフレッシュ、そして活動内容や状況の共有(語り合い)です。そのためには、管理職による配慮や他の市町村職員による応援が必要です。
ただし管理職自身も、自分の心身を守ることが大切です。
また、市民も被災による疲れやストレスが溜まっています。役所職員への言動が厳しくなれば、さらに職員の心は傷つきます。
<不眠不休で働いている皆さんへ:休むのも仕事です:熊本地震>
■大災害時の心のケア
とてつもない大きな被害と、その後長く続く困難な生活。大災害の被害を受けた方々の心の問題は、深く複雑です。
心のケアのためには、まず安心安全が必要です。具体的な生活支援が必要です。病的なほどに心の症状が出ているのならば、治療も必要です。
さらに、心の苦しみを抱える大勢の人に長期にわたる心のケアが必要です。
大災害の被害を受けると、「神」を失うと表現する災害心理学者もいます。大切なものをたくさん失った上に、頑張れば良いことがあるとか、善人はきっと報われるといった、これまでの信念、人生観、価値観、その人にとっての「神」を失ってしまうという意味です。
ここから立ち直ることは、並大抵のことではありません。
安心できる場所で、深く嘆き悲しみ涙を流し、そこから新しい希望を見つけ出すことが、心のケアであり、本当の復興なのでしょう。