液体ミルクの安全性と利便性
■「液体ミルク」は牛乳ではない
現在、日本の乳児が食べている(飲んでいる?)のは母乳と粉ミルクのどちらか。ここに新しく「液体ミルク」が加わることになりそうだ。液体ミルクとはどんな物で、食べるとき(乳児に飲ませるとき)にはどのような注意が必要か、を見てみよう。
「液体ミルクって牛乳のことじゃないの?」という素朴な疑問がわきそうだが、そうではない。わかりやすくいうと、液体ミルクは「赤ちゃん用粉ミルクの液状の物」である。乳・乳製品の分類等は乳等省令によって定められている。この乳等省令が昨年(2018年)8月に改訂され、乳幼児を対象とする「調製粉乳(いわゆる粉ミルク)」と同様に「調製液状乳」が設定された(第二条38参照)。これにより(法律上は)乳児用として液状のミルクを製造・販売することが可能になったのだ。
乳児用であるために、安全性の確保や、加えてもよい栄養素・添加物が、粉ミルクと同様に定められた。
■粉ミルクよりも携帯や保存がラク
粉ミルクは扱い慣れている人が自宅で使う場合には便利だが、父親などふだんはあまり使い慣れていない人が作ったり、母親でも外出先で(職場でも)用意したりする場合などは、なかなかやっかいだ。粉ミルクはもちろん、容器やお湯の携帯や確保がとても大変。とりわけ(殺菌のために)70度以上のお湯を準備するのがけっこう難しい。
このたび規格が定められた液体ミルクは、製造時の「細菌数がゼロ」など、安全上の基準は粉ミルクよりも厳しく設定されてある。そのため、ミルクを溶くための高温の湯が必要ではなくなる。また、ロングライフミルク(いわゆるLLミルク)状態で提供されるものなど、冷蔵が必要ではなく、常温の保存ができる。粉ミルクよりも使いがってがよい。
ただし、容器から、直接、乳児に与えるわけにはいかないので、哺乳ビンは必要だ。液体ミルク自体には細菌が付いてなくとも、哺乳ビンには付いていることが考えられる。その点は油断なく対処しなくてはならない。また、いったん開封したあとは、もちろん常温保存はできないので、間違わないように。さらに、もし乳児が飲み残した場合には、それは保存するのではなく、必ず廃棄することが必要。
■災害時に利用されなかった液体ミルク
液体ミルクには、別のニーズもある。それは「災害時の利用」だ。液体ミルクが、大きく話題になったのは2016年の熊本地震だった。緊急支援物資として海外(フィンランド)産の液体ミルクが届けられた。
しかし当時は、法律的には認められてはなかったので「災害時の超法規的処置」としての扱いであった。国内ではまったく流通していなかった液体ミルクは、食べる物がない乳児が大勢いたにもかかわらず、ほとんど与えられることはなかった。
さらに、昨年(2018年)7月の豪雨災害では広島に、9月の北海道胆振東部地震では北海道に、それぞれ液体ミルクが届けられた。しかし、いずれのケースでも液体ミルクが十分に利用されることはなく、乳児とその家族はきわめて厳しい状況に追いやられた。
液体ミルクが届けられても、それまでまったく利用経験のないミルクを、いくら災害時だとはいえ、乳児に与える母親は(父親も)ほとんどいなかったのだ。ましてや、外国産の食品であるために、「使い方」の翻訳版が添付されてあったのだが、使いがってがよいとはいえず、手を出しにくかったと聞く。
国産の液体ミルクが製造・流通・販売されれば、製品本体に安全な使い方が日本語で書かれることになるし、日本の法律で認められた(?)ということになれば、親御さんたちも安心して使うことができるだろう。
■普及には公的な支援が必要なのでは?
使いがってもよく、ニーズもあり、安全性も高く(同様の液体ミルクは海外で多くの使用実績がある)、法律上の問題点もクリアしたので、すぐにでも市場に出回りそうな液体ミルクなのだが、現実的には、そういうわけでもない。
そもそも、日本では少子化が急速に進んでおり、大きな売り上げが見込めないので、乳業メーカーも慎重になっているというのが実情である。液体ミルクというのは、日本では初めての分野になるので、法的には整備がされたとしても、厚生労働省や消費者庁の申請が必要で、審査には一定の時間がかかるためにそう簡単にはいかないようだ。関係者の話では、どうやら、液体ミルクの販売予定について公表しているのは、現時点で1社のみである。
ここ数年の日本の「災害事情」に鑑みると、液体ミルクの生産・販売・流通・保管などについては、生産者と消費者の「需給関係」だけに委ねるのではなく、国や自治体の関与(支援)が必要だと思うのだが、いかがなものだろうか。大災害の際、真っ先に犠牲になるのはお年寄り・病弱の人そして乳幼児であることは、すでに明らかになっているのだから・・・・。
・この記事は一般社団法人日本乳業協会への取材を元にして執筆した。