夫の演出のもと、40代で初のヌードでの濡れ場に。夫から性愛シーンがあることをどう切り出された？
「白夜行」や「神様のカルテ」をはじめ、数々の映画、テレビドラマを手掛けている深川栄洋監督と、1990年に「櫻の園」のヒロイン、城丸香織役でデビューを果たし、現在まで女優としてキャリアを重ねてきた宮澤美保。
ご存知の方も多いと思うが、二人は2016年に結婚している。つまり夫婦。
映画「光復（こうふく）」は、深川が監督を、宮澤が主演を務めている一作だ。
本作の前に公開がスタートした「42-50 火光（かぎろい）」もまた深川が監督を、宮澤が主演と、タッグを組んでいる。
映画監督が、自身の妻である女優を主演に迎えることは珍しいことではない。
ただ、深川と宮澤がこの二作で見せる試みは少々異例というか。
これまでの映画監督が自身のパートナーである女優を主演に迎えて作った映画とはかなり異なる。
というのも、「光復」も「42-50 火光」も二人が主体となって企画を立ち上げて作り上げた自主映画。
宮澤は主演女優ではあるが、5人体制だったスタッフのひとりとして製作の一翼を担っていた。
しかも、「光復」においては、夫である深川の演出のもと、宮澤は40代にして初のヌードでの濡れ場に挑戦。
一方、ヒューマン・ドラマの名手のイメージが強い深川もまた、初めてR－18指定の映画に挑んだ。
片や映画監督として、片や女優としてキャリアを重ねてきて、いま公私ともにパートナーとなって映画を作ることになった二人へのインタビュー。
まず主演を務め、「光復」でヌードもさることながら剃髪までして、社会の片隅で生きる女性の心の軌跡を演じ切った宮澤美保に訊く。（全六回）
ほんとうは必要だと思うけどセックスシーンはなくそうとか、
裸にならないで終わらせようとか、表現がせばまってしまったら元も子もない
ここまで大島圭子という女性についていろいろと訊いてきた。
その中で、前回触れたように本作は、彼女の心に巣食うダークな感情からも目を逸らさないで描いている。
そして、彼女の「性」と「性愛」についてもまた目を逸らすことなく描き切った。
その中で、先で触れているように、宮澤は40代にして初のヌードでの濡れ場に臨むことになった。
性愛のシーンに関して、夫である深川栄洋監督からはどのように切り出されたのだろう？
「正直なところ、よく覚えていないんですよね。何か話したかな（笑）。
ただ、嘘は嫌だといいますか。
前提として、自主映画で何の制約も受けずに自分たちの作りたいものを作る、メジャーではためらうような題材に、なかなかできない表現にチャレンジする、といったことがある。
だから、たとえばセックスのシーンがあったら、なんかバストを見えないよう隠すのは違うだろうと。それこそ、自分たちで表現のリミッターを設けてしまったら、自主映画である意味がない。
まずは監督が望むものにするのが第一で。
逆に、わたしとしては監督に躊躇われたら嫌だなと思っていました。
つまり、もし自分の妻が演じるということで、ほんとうは必要だと思うけどセックスシーンはなくそうとか、裸にならないで終わらせようとか、表現がせばまってしまったら元も子もないので、それだけは避けたかった。
作りたいものを作るということで自主映画という体制で臨んだわけですから、性描写もためらわず勇気をもってきちんと描こうと。
なので、なにかわたしが主演を務めることで弊害があるようなところが見受けられたら、それは言おうとは思っていた気がします」
初の濡れ場は、「いまのタイミングだからできたのかなと」
とはいえ、40代で初めてヌード、濡れ場に臨むことは、決意が必要だったのではなかろうか？
「結果として初だったんですけど、これまですごく嫌で拒否してきたとかいうことではないんです。
幸か不幸か、そのようなお話を特にいただくことなくここまできた。
おそらくそういう（裸になる）役のお話をいただいていたら、ちゃんと考えたと思います。
『家族はどう思うかな？』とか『周囲の人はどう思うだろう？』とか。ただ、話がなかったら、考えるまでもなくここまできてしまった（苦笑）。
いろいろなことを考えたら、女優であってもできないのがふつうなのかな、と思います。
でも、今は結婚した相手が映画監督で、裸になる役を求められている。
ある意味、パートナーが許してくれている。それで、わたしもいいと思えた、やってみたいという自分もいる。
だったら、やろうといった感じでした。
なんかわたしはなんにつけても遅いんです。いろいろなことが。石橋を叩いて渡る性格なので、いろんなことを先に妄想して考えすぎた挙句、渡れなくなっちゃったりすることが多々ある。すごく臆病なところがあって、慎重に慎重を期すところがある。
だから、今考えると、もし若いときに、このようなヌードのシーンがある話がきたら、チャレンジしなかったかもしれない。
でも、今回は、パートナーである監督からの申し出で、『それだったら思い切りできるじゃん』という考えに切り替えられた気がします。
なので、周りからすると『遅い』とか、『いまさら』と言われそうなんですけど、わたしとしてはいまのタイミングだからできたのかなとも思います」
彼女の『性』を描くことは重要。
きちんとその表現に臨むことができてよかった
本作「光復」において大島圭子の「性」をきちんと描くか描かないかはひじょうに重要。性をきちんと描写したことで、彼女の女性としての「生」が浮かび上がったところがある。
「そうですね。
介護に明け暮れて外にでなくなっていくにつれて、彼女は女性であることを忘れていくというか。
誰に会うこともないから着るものもよれよれの服で、化粧気もないし、髪もさほど気にしていない。
女性としてもですけど、『生きること』自体に興味を失っていくようなところがある。
日々の暮らしがどこか色褪せていっている。
それが賢治という幼なじみの元恋人と出会って、しかも手を差しのべられたところから一変していく。
肉体関係をもって女性としての『性』を取り戻したところもありますけど、それ以上に生きることの喜びを見いだしていく。
生命力がみなぎるというか。人としての輝きを取り戻していく。そのあとまた人生は二転三転していくのですが（苦笑）。
そういう意味で、彼女の『性』を描くことは重要で、きちんとその表現に臨むことができてよかったと思っています」
（※第五回に続く）
「光復（こうふく）」
監督・脚本：深川栄洋
出演：宮澤美保、永栄正顕、クランシー京子、関初次郎ほか
全国順次公開中
公式サイト https://kofuku-movie.com/
筆者撮影以外の写真はすべて（C）2022 スタンダードフィルム
