露見する強者の論理。誰も語らない欧州スーパーリーグ構想が2021年夏の移籍市場に与えた影響とは。
すでに、過去の出来事になろうとしている。
2020−21シーズンの終盤、レアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長が突如として「欧州スーパーリーグ」のプロジェクトをぶち上げた。だがイングランドのフットボール界を筆頭に予想以上の反発を喰らい、およそ72時間で計画は頓挫したといわれている。
だが正確に言えば、マドリー、バルセロナ、ユヴェントスの3クラブはプロジェクトを諦めていない。彼らはいまだ欧州クラブ連盟(ECA)にも復帰していない。
■マーケットに与えた影響
ここでは、欧州スーパーリーグ構想とそれが今夏の移籍市場に与えた影響を考察したい。
まず、事実から述べよう。バルセロナ(リオネル・メッシ)、マドリー(セルヒオ・ラモス)、ユヴェントス(クリスティアーノ・ロナウド)は象徴的な選手をいずれも放出している。
メッシのバルセロナ退団は衝撃的だった。バルセロナはサラリーキャップの問題に苦しめられていた。今年5月の時点で110%に達していたというそれを、70%以下に抑えなければいけなかった。きわ飴付けが、メッシとアントワーヌ・グリースマンの放出という決断だった。
なお、ジョアン・ラポルタ会長曰く、グリーズマンの放出が先に決まっていたとしても、メッシを残留させるのは不可能だったとのことだ。この夏が始まった段階では、バルセロナはネイマールの復帰の可能性を検討していた。ネイマール側との接触をラポルタが認めている。しかしながら財政状況に省みて、ネイマールの獲得断念と主力2選手の放出を決定しなければいけなかった。
マドリーは昨季限りで契約が満了していたS・ラモスをフリートランスファーで放出。さらに、その後継者と目されていたラファエル・ヴァランを移籍金4000万ユーロ(約52億円)でマンチェスター・ユナイテッドに売却した。それだけではない。16歳の時にカンテラに入団させたマルティン・ウーデゴールを移籍金3500万ユーロ(約45億円)でアーセナルに売り払った。
ペレスがキリアン・エムバペ獲得のために資金をつくろうとしていたのは間違いない。だが、最終的にエムバペは来なかった。代わりにエドゥアルド・カマヴィンガを獲得し、将来を嘱望されるヤングプレーヤーを確保して期待値を中和しようと試みた。
ユヴェントスはC・ロナウドを手放した。行き先は、言わずもがな、プレミアリーグである。マンチェスター ・シティとマンチェスター ・ユナイテッドの「場外ダービー」が勃発する格好となり、最終的にはサー・アレックス・ファーガソンの力添えもありユナイテッドに復帰した。
マドリー、バルサ、ユヴェントスがお金に困っていたのは間違いないだろう。
パンデミックの襲来で、財政は圧迫された。チケット収入、スタジアムやミュージアムのツアー、そういったところからの集金はまったく期待できなかった。その打撃をもろに受けたのが、この3クラブだった。
欧州スーパーリーグ構想に関して、ペレスは米国の金融機関であるJPモルガンと約束を取り付けていた。参加チームに、3億5000万ユーロ(約455億円)が分配される方式だった。参加するだけで、これだけの大金が手に入るというのは、過去に例がない。
それが決まっていれば、その資金を頼りに、この夏に大物選手獲得に動いていた可能性はある。だが実際はメッシが、S・ラモスが、C・ロナウドがクラブを去っている。
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■脱退と大型補強敢行
一方、欧州スーパーリーグからいち早く脱退したパリ・サンジェルマンやプレミアの6クラブは、どうなったのだろうか。
パリSGはメッシを引き入れた。移籍金ゼロでの獲得だったが、年俸3500万(約45億円)ユーロというのを考慮すれば、まったくもって安い補強ではない。ただでさえ、このチームには、ネイマール、エムバペと高給取りのスタープレーヤーがいるのだ。
シティは移籍金1億1700万ユーロ(約152億円)でジャック・グリーリッシュを、チェルシーは移籍金1億1500万ユーロ(約149億円)でロメル・ルカクを、ユナイテッドは移籍金8500万ユーロ(約110億円)でジェイドン・サンチョを獲得している。
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