本当に「YouTuber」はオワコン? データから透けて見える真の変化
昨年末あたりから一部著名YouTuberが広告収入が激減していると言及したことから、「YouTuber」ブームがいよいよ終わるのではないか、「オワコン」なのではないかという報道が過熱しているようです。
特に、広告収入が10分の1や5分の1に激減したと明言したYouTuberが多数でていたことや、昨年の10月に発表された決算から、YouTube広告が前年同期比で初の減少に転じたことが重なって、「オワコン」説が大きくなっている面もあるようです。
参考:Alphabetは微増収大幅減益 YouTube広告が2%減と広告全般が不調
ただ、実際のデータを見てみると、現在日本で報道されているようなYouTuber「オワコン」説は、間違っているどころかデマに近いレベルのポイントがずれた報道であることが分かります。
現状をデータを元に1つずつ分析してみましょう。
YouTube自体の収入は激減していない
まず、YouTubeの広告収入減少ですが、前年に比べると減少したといっても、グラフで見るとこの通り。
これまでの増加ペースが順調すぎただけで、ここ1年は減少に転じたと言っても、減少よりは横ばいという表現が正しいと感じる方が多いのではないでしょうか?
YouTube広告の低迷は、ライバルであるTikTokの躍進の影響もあるとは思われますが、どちらかというとコロナ禍での急成長の後の揺り戻しや、景気の減速の影響が大きいと言われています。
また、上記はグローバルでのYouTubeの売上の推移ですが、日本の動画広告市場という観点で見るとこうなります。
2022年の動画広告市場規模は、昨年対比133.2%となる5,601億円と高い成長を遂げており、サイバーエージェントの予測によると、今後も大きな増加が予想されています。
特に赤色の「インストリーム広告」はYouTubeが大きな割合を占める市場と言われており、日本ではまだまだ伸びる可能性が高いと予想されていることが分かります。
実は日本は広告のデジタルシフトが世界に比べて遅れていると言われているため、まだまだ伸びしろが大きいと考えられているわけです。
一部報道で、YouTuberの収入激減はYouTube広告がライバルとの競争に負けている影響があるという指摘も見られましたが、その点に関しては大きな誤解だと言えるでしょう。
HIKAKINさんは収入が伸びていることを公開
また、一連のYouTuber「オワコン」騒動の渦中で、日本を代表する人気YouTuberであるHIKAKINさんは、2022年の方が収益が上がっていることを動画で公開されています。
参考:HIKAKIN、2022年の収益は過去より向上 収益激減YouTuber多い中で上がったその理由
特にコロナ禍で、一般的にネットメディアが総じて収益があがった2020年と比較しても2022年の方が多いというのは重要なポイントでしょう。
もちろん、この傾向は日本を代表するトップYouTuberのHIKAKINさんだけの特殊な傾向の可能性もあります。
ただ、こうした収益の話は、嫉まれるきっかけになることも多いため、あまり公にしないYouTuberもいます。
今回は、どちらかというと下がった人たちが立て続けにカミングアウトして、そちらが目立っただけという可能性はありそうです。
2年半で130万登録を突破するチャンネルも
また、YouTubeは後発で新人が参入するのは難しくなったとも言われますが、実は短期間にチャンネル登録者数を増やしている方が存在しないわけではありません。
例えば「Kimono Mom」というYouTubeチャンネルは、開設からわずか2年半で130万登録を突破するほど多くの登録者を獲得することに成功しています。
参考:2年半で130万人超が支持 日本人ユーチューバー「Kimono Mom」とは
また、飯テロ動画クリエイターのバヤシさんは、2年でなんとチャンネル登録者数1000万人を突破したという発表をされているのです。
参考:YouTubeチャンネル「バヤシTV」の登録者数が1000万人を突破!
もちろん上記の二人は、海外にもファンがいるためチャンネル登録者数が桁違いに多いというのはありますが、YouTubeに新規参入が難しく伸びが止まっている、というのも間違っていることが良く分かる事例だと思います。
では、なぜ日本の一部のYouTuberは「オワコン」と言われるほど収入が激減しているのか。
それには下記の4つのポイントがあると考えられます。
■芸能人やテレビ局などライバルの増加
■YouTubeショートの台頭
■広告主のカテゴリやチャンネル指定の増加
■YouTubeの広告以外の収益の多様化
順番に見てみましょう。
■芸能人やテレビ局などライバルの増加
まず、明確な変化としてあげられるのが、YouTube上におけるライバルの増加です。
特にコロナ禍により、ライブなどのリアル収入を失ったエンタメ産業やタレントが一気にYouTubeに進出した影響は大きいでしょう。
その流れと並行して、テレビ局も本格的にYouTubeで番組などを配信するようになりました。
HIKAKINさんのように、今も変わらず人気を集めているYouTuberもいる一方で、ライバルに視聴者を奪われたチャンネルが増えるのは当然と言えます。
実際に、HIKAKINさんも所属する大手YouTuber事務所であるUUUMの決算発表資料を見ると、UUUM全体のYouTubeショートを除く動画の再生数は緩やかに右肩下がりであることが分かります。
2021年2Qに115億再生だったものが、2023年2Qでは80億再生ほどになっていますから、この2年で2割ほど減っている計算になります。
その関係で、UUUM全体としては、YouTubeの広告収入もこの2年は減少傾向にあるようです。
もちろん、一部YouTuberが「オワコン」と騒いでいたような5分の1、10分の1という極端なレベルではありません。
ただ、売上が上がっていたHIKAKINさん擁するUUUMでさえ、広告収入が減少しているというのは明らかに競争激化の影響が大きいと考えられるわけです。
また、一時期はUUUMのライバルとして名前が多かったYouTuber事務所のVAZは、昨年共同PRに買収されましたが、その際に発表した決算情報によると、2021年6月期の売上高は前期比22.5%減だったとのこと。
すでに2021年当時から、VAZのようなYouTuber事務所に、YouTube上の競争激化の影響が出はじめていたとも考えられるわけです。
■YouTubeショートの台頭
また、上述したUUUMのスライドにも記載されているように、YouTubeがTikTokに対抗して実装したYouTubeショートの影響も間違いなくあるでしょう。
YouTubeショートは導入1年で、全世界で1日あたりの再生回数が300億回、月間ログインユーザー数は15億という大成功を遂げましたが、まだ昨年の段階では収益化の仕組みが提供されておらず、いくら再生されても収益が入らない状態でした。
参考:YouTubeショート導入1年。全世界の再生回数は1日300億回
当然YouTubeショートを視聴者が見る時間が長くなれば、これまで通常の動画が見られる時間が短くなります。
YouTuberにとっては、YouTubeショート全体も収益を得るためのライバルになっていたわけです。
YouTubeショートについては今年の2月から収益化対象になったため、今後この状況は大きく変わる可能性もありますが、少なくともYouTuberにとって短期的な減収要因になっていたことは間違いありません。
■広告主のカテゴリやチャンネル指定の増加
また、広告主がYouTubeの広告出稿に慣れてきて、広告出稿においてカテゴリやチャンネル指定を細かく使うようになってきていることも影響していると考えられます。
ポイントとなるのは、HIKAKINさんが前述の動画で、自身の再生数あたりの広告収入の単価が上がっていると言及されている点です。
YouTube広告では、広告主はカテゴリやチャンネルを指定して広告出稿を行うことができるため、HIKAKINさんのような人気のチャンネルは自然と単価が高くなります。
逆に、いわゆる迷惑系YouTuberと言われるようなチャンネルに広告を出すと、場合によっては広告主に非難の矢が向きかねません。
そのため、そういったチャンネルを広告主は広告の表示対象外にする傾向になってきています。
当然、そうした迷惑系YouTuberのチャンネルは広告の単価が低くなるわけです。
つまり、広告主が回避するようなリスクの高い動画をメインとしているYouTuberほど、広告収入の減少が激しくなっている可能性が高いと言えるでしょう。
■YouTubeの広告以外の収益の多様化
なお、日本の一部YouTuberの収入減少の直接の要因ではありませんが、世界的には「YouTuber」がオワコンと言われる以前に、YouTubeの広告収入に依存しないモデルへのシフトが進んでいます。
例えば、フォーブスが発表したクリエイターの影響力ランキングでトップに輝いたYouTuberのMrBeastは、なんとチャンネル登録者数が1.35億人を超え、2021年の所得が5400万ドル(約78億円)を超えると話題になりました。
参考:フォーブス初の「トップクリエーター」番付、1位は誰に?
彼の主な収益はYouTubeの動画を通じた広告ではありますが、単純なYouTube広告以外に直接スポンサーを取るタイプの広告も多くあります。
さらには、チョコレートバーの会社を作ったり、MrBeast Burgerというハンバーガーのチェーンをつくったりと様々な事業も展開しているのです。
参考:ビリオネア目前のクリエイターも出現──米国「クリエイターエコノミー」最新事例
日本でも、こうしたYouTuberの収入の多様化の傾向は同様です。
UUUMの決算資料を見ると、YouTubeの広告収入であるアドセンスの売り上げは、再生数の減少と連動して減少していますが、それ以外のグッズ売上などが大きく伸びて広告収入の減少を補っていることが分かります。
また、VTuber事務所「にじさんじ」で有名なANYCOLORの決算資料を見ると、すでVTuber事業の収益の主力はYouTube上での広告やスーパーチャットのようなライブストリーミングの収入ではなく、グッズなどのコマース収入にシフトしていることがわかります。
こうしたビジネスモデルの多様化は、個人のクリエイターでも顕著になりつつあります。
昨年日経新聞を退職して、YouTubeで経済チャンネルを開設して話題になった後藤達也さんは、すでに1年で24万人を超えるチャンネル登録者を集めています。
ただ、後藤達也さんは、YouTubeの広告はあえてオフにしていることを冒頭で明言した動画を多数アップしているので有名です。
これは後藤達也さんが、2万人を超える会員組織から月額会費の収益を得ることができるからこそ選択できるビジネスモデルと言えますが、当然こうした広告オフの動画も、既存YouTuberにとってのライバルになるわけです。
クリエイターエコノミーでは「YouTuber」が「クリエイター」に
従来型のプラットフォームからの広告収入だけでなく、ファンからのグッズ購入や直接課金が可能になった現在の時代は「クリエイターエコノミー」と表現されます。
従来型のYouTubeからの広告収入だけで生きている人を「YouTuber」と呼ぶのに対して、複数のプラットフォームや収益モデルを組み合わせた「クリエイター」が増えている時代とも言えるわけです。
この「クリエイターエコノミー」においては、過激な情報発信によって一時的に大勢の注目を集めるのではなく、「1000人の真のファン」と呼ばれるようなクリエイターのために課金をいとわないファンとの関係値を築くことの方が重要だと言われています。
実は、現在のYouTubeの環境変化の中で「オワコン」になっているのは、いわゆる迷惑系YouTuberと呼ばれるような過激なYouTuberや、時代の変化についていけていないYouTuberだけという言い方もできます。
真のファンとの密な関係を作れているHIKAKINさんのようなYouTuberは、これから真の「クリエイター」として、更に活動の幅を拡げていくことになるはずです。