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シリア各所での同時襲撃を通じてバイデン米大統領の反応を探ろうとしているイスラーム国

青山弘之東京外国語大学 教授
IMLebanon、2021年1月24日

ジョー・バイデン米大統領の正式就任(1月20日)とタイミングを合わせるかのように、イスラエル、トルコ、シリア、ロシアがシリア領内で自らが敵とみなす勢力を標的とした爆撃を実施した。バイデン新大統領が膠着状態にあるシリア情勢にどの程度、そしてどのように関与するかを見極めるためだ(「膠着するシリア情勢の均衡維持・再編のキャスティングボートを握らされているバイデン米新大統領」を参照)。

こうした姿勢はテロリストであっても代わるものではない。

シリアでは、政府支配地域、シャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)を中核とする反体制派の支配地(いわゆる「解放区」)、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の支配地で、イスラーム国(ないしはイスラーム国と思われる武装集団)による襲撃事件がほぼ同時に発生した。

シリアを分断するこの三勢力の支配地でイスラーム国が同時に動くのは最近ではきわめて異例だ。

シリア政府支配地域で兵員輸送バス襲撃

シリア政府の支配地では、国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、ダイル・ザウル県で1月24日未明、イスラーム国・メンバーと思われる「テロ集団」が兵員輸送バス1輌で発砲を受け、シリア軍兵士3人が死亡、10人が負傷した。

バスが狙われたのは、ダイル・ザウル市とヒムス県スフナ市を結ぶ街道のシューラー村とマーリハ地区の間の区間。

シリア軍の車列が狙われたのは、昨年末からこれで3度目。

「解放区」内のシャーム解放機構検問所襲撃

反体制派の支配下にある「解放区」では、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、イドリブ県で同日、カーフ村とダイル・ハッサーン村を結ぶ街道に設置されているシャーム解放機構の検問所が、イスラーム国と思われる武装集団の襲撃を受け、シャーム解放機構の戦闘員2人が死亡、複数人が負傷した。

北・東シリア自治局で女性政治家2人殺害

一方、北・東シリア自治局の支配下にあるハサカ県では、PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、ダシーシャ村近郊に位置するタッル・シャーイル村の二人の政治家、サアダ・ファイサル・ハルマーン議会共同議長とヒンド・ラティーフ・フダイル同副共同議長が1月22日に何者かによって拉致された。

この事件に関して、イスラーム国に近いアアマーク通信は1月24日、イスラーム国の戦闘員が2人を殺害したとする声明を転載した。

イスラーム国は、2019年3月にシリア領内での支配地のすべてを喪失し、在地の犯罪集団になりさがっていたが、昨年末からシリア政府の支配地域で再び活動を活発化させていた。

こうした動きに対して、バイデン新大統領が「テロとの戦い」を掲げて封じ込めに乗り出すか、バラク・オバマ元大統領の戦略である「燃えるがままにせよ」戦略(’let-it-burn’ strategy)を踏襲し、シリアでの混乱を黙認して政治利用とするか、イスラーム国の戦闘員は固唾を呑んで見守っているのである。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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