乾エイバル1部残留へ、よぎる悪夢
4月9日、リーガエスパニョーラ第32節。サンティアゴ・ベルナベウに乗り込んだエイバルは、レアル・マドリーに4-0と完膚無きまでに叩かれた。ルカ・モドリッチ、ケイラー・ナバスら主力を温存し、セルヒオ・ラモスも出場停止だったが、力の差を思い知らされることになった。年間予算で30倍以上の相手だけに、戦力を考えれば下馬評通りだろう。
しかし、エイバルは12戦勝ち星なしで暫定(下位のチームはいくつかまだ1試合未消化)で10位に転落。1部残留という目標に向け、仄かに悪い予感を覚え始めている。
乾がマドリー戦で先発を外れた理由
リーグ前半戦の19試合、エイバルは8勝5敗6分けと勝ち越し、勝ち点30で順位も6位につけた。開幕当初の目標である1部残留どころか、欧州カップ戦出場さえも、手に届く位置だった。ところが、後半戦に入ってからは4連敗を喫するなど2勝8敗2分け。12試合で8ポイントしか稼げない低空飛行で、「勝ち点40」と言われる残留確定ラインをなかなか越えられずにいる。
実はこの流れは昨シーズンと似ているのだ。
前半戦は8位と健闘するも、後半戦に入って8連敗、6連敗を続けざまに喫し、一気に降格圏へと転落。最終節は勝利を飾ったのの、一度は降格が決まった。ところが急転直下、エルチェが選手への給料未払いなど経済的理由でペナルティを受け、降格が決定。「たなぼた」で残留を果たしたのである。
エイバルはリーガエスパニョーラで一番お金のないクラブだけに、その戦力は限られている。主力選手の移籍や怪我などで、チーム状況は大きく左右されてしまう。昨シーズンは、主力センターバックであるラウール・アルベントサが冬のマーケットでプレミアリーグのクラブに移籍。それ以来、守備陣が崩れ、がくりと成績が落ちた。穴を埋められないのだ。
今シーズン、ホセ・ルイス・メンディリバル監督率いるチームのエースと言える選手は、ケコ・ゴンタンだろう。右サイドを中心に抜群のスキルとインテンシティでチームを引っ張り、攻撃で先手をとることで、戦術の旋回軸になっている。22節のマラガ戦で負傷交代し、29節のヘタフェ戦で復帰するまで、不在の8試合は1勝6敗1分け。エイバルの進撃はぱたりと止まっていた。
ケコのアシストのおかげで、ストライカーのボルハ・バストンは15得点を量産。一方、ケコ不在の8試合はわずか1得点で、復帰したヘタフェ戦でいきなりゴールが蘇っている。ケコは高い位置でボールを持ち運び、積極的に崩し、守備に関してもしっかりとふたができる。それによって、サイドバックで本来はアタッカーのケパの攻撃力も引き出されていたが、不在によって守りの粗が出た。
左サイドのアタッカーに入った日本代表MF乾貴士も、ケコの影響を少なからず受けている。
右サイドでケコが有利な展開を繰り広げることによって、乾は自由に攻撃に力を入れられた。ボクシングで言うなら、右の強烈なフックがあることで、左の鋭いアッパーも活きたといったところか。右サイドでポイントを作れず、脅威を与えられなくなったことにより、押し込まれる時間が長くなり、乾の出番も自然と減った。
「守備の強度が低く、プレーのためを作る器用さはない乾では、左サイドを支えきれない」という声が漏れ聞こえてくる。
結果的に、乾は守備力の高いボランチのゴンサロ・エスカランテやトップ下でタメが作れるアドリアン・ゴンサレス、ホタらよりも順列が下がってしまった。格上の相手では、その影響が色濃く出る。リーグ上位のアスレティック・ビルバオ、アトレティコ・マドリー、セビージャ、FCバルセロナ、そして(ケコが復帰している)レアル・マドリーとの一戦、乾はことごとく先発を外れている。
もっとも、その乾が不在の試合は惨敗を喫しており、指揮官の選択の正当性は証明されていない。勝ち星がつかない中で混迷を深め、良かった形まで失いつつある。マドリー戦は気迫も欠けていた。
チームの降下は止まらない状況である。ただ残り6試合、エイバルは1試合でも勝てば(勝ち点3)、残留確定ラインの勝ち点40をクリアできる。エースのケコはマドリー戦は沈黙したものの、29節に復帰しており、戦力は再び充実しつつある。
「今日のような試合内容なら、どんなチームにも負けるだろう」
メンディリバル監督はマドリー戦の不甲斐なさを嘆いたが、そこには思うようにいかない焦りが滲み出ている。