対北朝鮮と対中国で全く異なる「敵基地攻撃能力」
「敵基地攻撃能力」の議論で重要な点が、対北朝鮮と対中国では目標が異なるので求められる能力が違うことです。しかしこの違いはあまり注目されておらず混同されがちです。
日本が狙う敵国攻撃目標の違い
- 対北朝鮮・・・核ミサイルの地上撃破(核兵器・車載移動・撃破は困難)
- 対中国・・・航空基地の使用を妨害(通常兵器・固定施設・妨害は容易)
基本的に弾道ミサイル移動発射機を発射前に見付けて撃破することは非常に困難で、敵基地攻撃能力で阻止することは現実的ではありません。
「敵基地攻撃能力」では弾道ミサイルを阻止できない根拠と実戦例
そして北朝鮮は航空機で日本を攻撃するような能力を持っていないので、北朝鮮の航空基地は日本は無視しても構いません。
相手が中国の場合は弾道ミサイル狩りは北朝鮮以上に困難です。移動発射機が広い国土に散開されては発見はほぼ不可能で、防空網も非常に厚く短期間で無力化することは不可能です。
ですが中国は航空機で日本を攻撃する能力を持っているので、尖閣諸島を巡る地域紛争が勃発した場合に「日本の航空基地を攻撃された場合に中国の航空基地に反撃を行う」という状況が得られます。これならば敵基地攻撃は合憲の範囲内の上で、目標が固定基地なので攻撃も容易であり、航空機の運用を妨害する戦果も得られやすいでしょう。
なおこの場合では北朝鮮が破れかぶれになって核攻撃を行ってくる可能性を考慮し、対中国ではアメリカの核抑止力により地域紛争で止まる期待で想定されています。
日本の敵基地攻撃は北朝鮮には効果が無いが、中国には効果がある
敵基地攻撃能力の議論では「何を目標にするのか」というのが根本的な話になる筈ですが、弾道ミサイル移動発射機を発射前に撃破することがほぼ不可能という現実を伝えた上で「北朝鮮の一体何を目標にするのか」を再度聞くと、誰からも明確な答えは帰って来ません。
●ミサイル基地? 移動発射機が出撃した後のもぬけの殻を狙っても意味はありません。
●ミサイル関連施設? 衛星打ち上げ発射場を破壊しても意味はありません。
●開発生産施設? 配備済みの核ミサイルを阻止できなければ意味はありません。
●指揮所? 開戦前にミサイル部隊が命令を受け取っていたら指揮所を潰しても攻撃は止まりません。
●レーダーサイト? 防空網を制圧してもミサイル移動発射機を発見することは困難です。
実はどう考えても北朝鮮に対して日本が攻撃を行って意味のある固定目標が見当たりません。移動目標は前述のように発見自体が困難で狩れません。
つまり日本の敵基地攻撃能力の取得を目指す人たちは、対中国で固定目標である航空基地への攻撃能力が欲しいという主張を行っていることになります。そうであるならば、対北朝鮮を取得理由としながら実際には対中国用であることを隠して主張をしているならば、それは国民を騙す行為に他ならず筋が通りません。
政府は敵基地攻撃能力を取得したいのであれば、堂々と対中国が理由であると説明すべきです。ドサクサ紛れに対北朝鮮を隠れ蓑として取得するような真似をしては、説明責任を果たしているとは言えません。