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ロシアW杯コロンビア戦、西野ジャパンが踏んではならない轍とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
パラグアイ戦でゴールを祝福する乾貴士と山口蛍(写真:ロイター/アフロ)

 6月14日、ルジニキスタジアム。開幕の時間が迫るにつれ、熱気が増していった。ロシア対サウジアラビアが開幕戦だけに、必然的に両国のサポーターが多く集まっていた。

 しかし、その次に多いのはコロンビアのサポーターだったかもしれない。伝説の名選手、カルロス・バルデラマのカツラをかぶった中年男性が、ファインダーに向かって奇声を上げる。友人同士、カップルや家族連れ。黄色いユニフォームはとても目立ち、群衆に彩りを与えていた。

「一ヶ月、休暇をとったよ」

 年配の男性が歯をむき出した。今大会を勝ち進むべく、かなりの期待感が伝わってくる。ワールドカップはたった一ヶ月あまり。一瞬の熱狂である。とことん、楽しむつもりなのだろう。

 日本はいつまでロシアに滞在することができるのだろうか?

ディテールが勝負を決める

 ロシアワールドカップ、コロンビア戦に向けて何が鍵となるのか?

 西野ジャパンはガーナ、スイス、パラグアイと戦い、1勝2敗。ガーナ、スイスには無得点で敗れ、批判的な声が強まった。しかしパラグアイを相手に4得点を記録して勝利すると、ちらほらと希望的観測も聞こえる。

実際のところ、ガーナ戦も収穫はあったし、スイス戦は戦術的に決して悪い戦いはしていなかった(特に前半は)。それが現実で、批判が批判を増幅させた印象が強い。ノーゴールの結果が傷口を広げるのだ。

 一方で、パラグアイ戦では乾貴士が痛快なゴールを決めている。これによって、批判的ムードは沈静化。さすがに大会直前というのもあるだろうが、一つ明らかになったのは、ロシアで攻撃の希望となるのがスペインで成熟した乾という点だろう。

 もっとも、明暗の分かれたスイス戦とパラグアイ戦も、似たようなディテールのミスを犯している。

セットプレーの対応の危うさ

 日本はセットプレーの守備に関し、いささかナイーブなところがある。

 スイス戦、2失点目は敵陣で得たCKの流れだった。1点リードされた段階で、ゴールが欲しいのは道理だろう。しかし、後ろの枚数が重複する一方、セカンドボールに対する準備をしていた選手が乏しかったし、(カウンターに対する)帰陣も遅い。これによって、跳ね返されたボールを繋げられ、足止めできず、中盤まで運ばれてしまった。さらに後手に回って、中盤がフィルターにならずに前へボールを持っていかれ、サイドへの展開からワンツーで崩される。ここでファーサイドに折り返したボールを防げず、中央に戻され、フリーでボレーを叩き込まれた。

 人数は揃っていたにもかかわらず、ポジション的優位を失っている。結局、セットプレー時点でのポジションの悪さを修正できなかった。このレベルでは、体を入れ替わられるだけで取り返しのつかないことになるのだ。

パラグアイ戦もセットプレーから

 パラグアイ戦も2失点ともセットプレーからで、1失点目はスローインからだった。後ろにべたっと人が張り付いて、中盤を開けてしまい、クリアも中途半端。結果、こぼれたボールをミドルレンジからボレーで叩き込まれた。2失点目はFKに対し、やはり人数はかけていたが、(選手の配置)バランスが悪かった。中盤に選手が足らず、クリアを拾われ、強烈な一撃を遠目から叩き込まれている。

「ペナルティアークには必ず人を置く」

 それは世界最高峰スペイン、ラ・リーガにおいて、セットプレーにおける定石である。それによって、カウンターを最小限に回避できるし、ミドルシュートにも立ちふさがることができる。Jリーグではこれほど鋭いカウンターを仕掛けるチームも、遠いレンジから高い精度を誇るシュートを放つ選手も少なく、弊害を起こしている。日本はこうしたディテールの修正が急務になる。

批判の中身

 大会を前に批判的な論調が加熱したが、トップレベルのサッカーにおいて、その差は小さい。こき下ろすほど悪いことはないし、手放しで讃えるところもそうはないだろう。どんなチームにも良い点と悪い点はあるもの。お互いが駆け引きをし、利することができるか。そこに、サッカーというスポーツの醍醐味はある。

 ロシアW杯が開幕し、どの試合もプレー強度は高い。スパイクの金具が、ガチャンとぶつかり合う音がこだまする。ボディコンタクトの迫力も圧巻で、足先の技術は簡単に潰される。

 そうした戦場では、抜け目なく戦い、自らのキャラクターを出せるような存在が欠かせない。

 日本で言えば、それは長谷部誠になるだろう。長谷部は周りの選手の動きを補完し、その良さを引き出し、悪さを隠せる。戦略的にチーム全体のラインもコントロールできるし、戦術的に局面でのクリアやタックルなどの判断にも優れている。中盤のブロックを強固にすることによって、チームを安定させ、攻撃を促せる選手だ。

決戦に向け、乾への期待

 一方で、攻撃のキーマンは乾だろう。

 乾はスペイン、エイバルで守備面の能力が格段に向上。激しい守備というと、やたらに食いつくか、せっせと後ろに下がればいいように思われがちだが、それは間違っている。敵のパスコースを切り、ドリブルで運ばせない。そういうポジション的優位を得ることで、相手のミスを誘うのだ。

 乾は守備の駆け引きがうまくなったことで、攻撃にも還元された。スキルの高さはもともと折り紙つきだったが、それだけではない。ゴール前で構えるディフェンスを横切り、“入れそうな門”を見つけてドリブルで侵入、もしくは“門を叩き壊す”ようなシュートを放つ。パラグアイ戦の2点はどちらもその技巧を生かしたものだった。しかも、どちらも香川と呼吸を合わせ、高いレベルのシュートを決めている。

 日本がコロンビアに勝利するには、チームとして全てを出し切る必要があるだろう。逆説すれば、それによって勝利もあたう。可能性は低いものの、決して不可能ではない。その鍵は、やはりディテールになるか。ミスを最小限に抑えて、相手のミスを増幅させる。

 6月19日、日本はサランスクでコロンビアと決戦となる。

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スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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