「やせるおかず」類似本に小学館は泣き寝入りするしかないか?
「小学館、”やせるおかず 作りおき”に酷似したダイエットレシピ本の販売停止を申し立て 新星出版社から5月刊行」というニュースがありました。小学館から刊行されているムック本シリーズ「やせるおかず 作りおき」にタイトル、表紙デザインが類似している書籍の出版社に販売の停止などを求めたそうです(まだ裁判の場に訴えたわけではありません)(小学館のプレスリリース)。
上記記事の元記事を見ればわかるように、類似本のタイトルは「やせるおかずの作りおき」と「の」が入っているかどうかだけの違い(しかもデザイン上「の」を小さくしている)であり、表紙デザインもよく似ています。間違えて買う可能性があるという小学館の主張は納得できると思います。
(少なくとも今のところは)裁判沙汰にはなっていないのですが、仮に裁判の場で争われたらどうなるでしょうか?
まず、「やせるおかず 作りおき」というタイトル文字列が著作物とされる可能性はほぼなく、表示デザインについても写真素材の丸コピーでもない限り著作権侵害を問うことは困難です。
商標権については、以前の記事でも述べたように書籍の題号は単に内容を表示するものとして扱われるため商標的使用ではない(商標権が及ばない)とされています。また、これも以前書いたようにシリーズ物の名称は商標として扱われる可能性がありますが、今回の相手の書籍は単発ムックのようです。どちらにしろ、小学館は「やせるおかず 作りおき」を商標登録していません(「やせおか」と組み合わせた商標登録はあります(タイトル画像参照))。ゆえに、商標権で戦うのも困難です。
では、不正競争防止法(2条1項1号)はどうでしょうか?
条件は、大きく(1)題号(および表紙デザイン)が「商品等表示」にあたること、(2)商品等表示が類似・同一であること、(3)商品等表示が周知であること、(4)需要者(消費者)の混同が生じていることです。
(2)、(3)、(4)については条件は満たされているのではないかと思います(「やせるおかず 作りおき」はシリーズ累計250万部売れているそうです)。問題は(1)で、判例上は、書籍の題号は商標の場合と同じロジックにより「商品等表示」とはされないケースがほとんどです。特に「やせるおかずの作りおき」というタイトルがかなり記述的なので内容を表示しているにすぎないとされる可能性は大でしょう。一方、「書籍の題号として用いられている表示であっても,使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品又は営業であることを認識することができるような自他識別力又は出所識別機能を備えるに至ったと認められるような特段の事情がある場合については,商品等表示性を認めることができることもあり得ると解される」との裁判における判断もあります。また、タイトルだけではなく表紙デザイン(特に特徴的な上部の赤オビ)を合わせて「商品等表示」とする攻め方もあるかと思います。さらに、今回はフリーライド性が強いように感じられるので裁判官の心証に影響することもあるでしょう。
ということで、仮に裁判となると小学館にとって決して楽な戦いにはならないでしょうが、チャンスはゼロではないと思います。