天文・宇宙の話題 2013年を振り返る
2013年を振り返ってみると、天文・宇宙の話題に事欠かない一年でした。なかには前代未聞とも言える出来事も。まったく個人の見解ですが、十大ニュース風にまとめてみると、、、。
1.ロシアに隕石が落下 文明社会にはじめて甚大な被害
2月15日(金)、カザフスタンとの国境に近いロシアのウラル地方チェリャビンスク州に隕石が落下しました。この際、上空15-25kmで爆発したため、その衝撃波により4,400棟を超える多くの建物で窓ガラスが割れるなどの甚大な被害が発生しました。
例えば、割れたガラスなどで1,200人を超える負傷者が報告されていますが、このような事故は史上初めてのことです。この小天体は直径20m程度、質量1万3千トン程度と推定されています。死者が出なかったことが何よりでしたが、現状のスペースガードに課題を残す出来事となりました。
2.アイソン彗星が太陽最接近時に崩壊
11月29日(金)のアイソン彗星の消滅にも、とても関心が集まりました。彗星は直径数キロ程度の氷の塊で、「汚れた雪玉」にも例えられる太陽系内の小天体です。太陽に接近して熱せられると、氷が融けてガスになる。そのガスがプラズマ化するとともに、氷に閉じ込められていた砂粒や炭素の粒が撒き散らされ、尾を形成します。
アイソン彗星が、2012年9月に発見された当初から注目されたのは、太陽の表面すれすれを通過するサングレーザーと呼ばれる彗星だったからです。アイソン彗星は、当初、直径が5-2キロ程度と太陽に近づいても生き残れるサイズと推定されていました。しかし、11月29日早朝に太陽に最接近したアイソン彗星は、みるみるうちに溶け次第に暗くなりました。その後、暗いながら太陽の近くにその存在が、太陽を観測しているSOHO衛星等の画像で確認されましたが、あっという間に拡散してしまいました。その後、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡ででもその姿を捉えることはできませんでした。まさに消滅してしまったのです。
しかし、過去には、アイソン彗星よりも太陽の近くを無事に通過した彗星も存在します。今回なぜ大規模な崩壊が起きたのか、謎は深まるばかりですが、その後、彗星のサイズが数百メートル程度ととても小さかったことが明らかになりました。ダストの尾を形成するような塵の成分も極端に少なかったようです。
彗星は太陽系の起源を語る化石です。近年、別の彗星の塵からは、生命に欠かせないグリシンが見つかっています。地球の海の起源を彗星の衝突に結びつける研究者もいます。アイソン彗星が残した謎も含め、さらなる研究が必要です。
3.TMT計画がスタート
すばる望遠鏡同様、ハワイ島マウナケア山頂に建設を目指すTMT(サーティー・メーター・テレスコープ)計画。2021年の稼働を目指して日本では2013年度に計画が始動しました。2014年度より米国、カナダ、中国、インド等との国際協力が本格化します。TMTは、1.4メートルの六角形の鏡を492枚も並べることで、30メートルの望遠鏡を実現しようとしています。完成すると、すばる望遠鏡の集光力の13倍、等級で3等級近く暗い天体までが観測可能となります。宇宙で最初の星はいつ頃、どのように誕生したのか、TMTは宇宙の誕生後5億年頃の姿を見せてくれることでしょう。さらに、太陽系近隣の星々の観測からは、地球型惑星を見つけ出し宇宙人が住むかもしれない星を我々に教えてくれるかもしれません。
4.ALMA望遠鏡が完成
国立天文台が欧米と協力してチリ共和国のアタカマ高地に設置を進めてきたアルマ望遠鏡の本格運用開始を記念する開所式が、2013年3月13日 (現地時間) にアルマ望遠鏡山麓施設にて執り行われました。国際協力プロジェクトとして2001年にスタートしたアルマ望遠鏡計画は、2011年に16台のアンテナを用いた初期科学観測を開始し、2013年より本格運用が始まりました。日本が担当した16台のアンテナ「いざよい」も全てが完成し、本格運用では観測画質の向上に貢献し、ぼんやりと広がった天体からの電波を捉える際に大きな威力を発揮しています。この16台のアンテナのシステム全体は2012年5月に亡くなった故・森田耕一郎教授の名を冠して「モリタアレイ」と呼ばれています。2014年はALMAでの観測結果が次々と公開されることでしょう。
5.プランク衛星が宇宙論パラメータを発表
2013年3月、欧州の宇宙背景放射探査衛星プランクが最新の宇宙論パラメータを発表しました。それによると、宇宙を構成している物質とエネルギーの総和のうち、通常の物質は4.9%、ダークマターは26.8%、ダークエネルギーが68.3%となりました。空に輝く恒星をはじめ宇宙を構成している元素は全体のたった4.9%に過ぎないのです。この宇宙論パラメータから推定される宇宙年齢は138.13±0.58億歳となります。WMAP衛星の結果とは僅かながら異なりますが、プランクはさらに偏光データも含めた精度の高い宇宙論パラメータを発表予定のため、今後の発表には注目していきましょう。
6.2013年は彗星の当たり年
肉眼で長い尾が確認できるような大彗星は、北半球の日本では、1997年のヘール・ボップ彗星以来お目にかかれていません。このため、11月のアイソン彗星同様、3月のパンスターズ彗星にも肉眼で楽しめるような大彗星になるのではと期待が高まりました。
パンスターズ彗星は3月10日に近日点を通過しマイナス1等級まで増光しました。それ以降、北半球においては夕方の西~北西の低空で尾を引く姿が確認されましたが、春霞の低空での現象であったため、多くの人びとが肉眼で見つけられる状況とはなりませんでした。しかし、発達した尾の写真が多くの人びとの関心を集めました。
また、アイソン彗星が4等台に達した11月下旬の明け方の空には、同じく4等台でラブジョイ彗星、さらにはエンケ彗星やリニア彗星など双眼鏡で楽しめる明るさの彗星が集合し、それぞれの彗星がもう少し明るければと残念に思う一方、やはり2013年は「彗星の年」と感じさせる年末でした。
7.いるか座新星が肉眼新星に
山形市の著名なアマチュア天文家、板垣公一さんが2013年8月14日の晩に新星を発見しました。この新星は、いるか座新星と呼ばれ、発見時は6.8等星だったが、その後増光し、8月16日には4.4等星に達しました。
目に見える恒星の半分程度は連星といって、自ら光を放つ恒星どうしがお互いを回りあっています。新星は新しい星が生まれる訳ではなく、ある種の連星で起こる現象であり、一方の恒星に隣の恒星から物質が流入し、恒星の表面で強い爆発現象が起こることで、その輝きが本来の数百倍から数百万倍にまで急激に増光する現象と考えられています。
肉眼で見える新星は2007年に見つかったさそり座新星以来の天文現象ですが、2007年の新星は2月の明け方の現象だったため、一般の方で見た人はほとんどいないと思われます。誰にでも見つけやすい新星としては、1975年のはくちょう座新星以来38年ぶりの好機となりました。
8.発見が続く系外惑星
2009年に打ち上げられ、多くの系外惑星候補を見つけ出した探査衛星ケプラーが2013年8月に姿勢制御機構が故障するというアクシデントがあったものの、2013年12月31日現在、確認された系外惑星は1,055個とついに千個を超えました。1995年にペガスス座の51番星で最初の系外惑星が発見されてからあっという間にその数が増え続け、地球型系外惑星の研究や地球外生命の発見への関心がいま世界中で高まりつつあります。
9.天の川銀河中心のブラックホールへの監視強化
天の川銀河の中心には太陽の400万倍も重たい超巨大ブラックホールがあり、2013年の秋には、そのブラックホールに近くの星雲が飲み込まれると予想されていました。いったいその時どんなことが起こるのか、世界中の天文学者が、固唾を飲んで見守っています。光学望遠鏡でその様子を見ることはできませんが、エックス線望遠鏡と電波望遠鏡でその姿が捉えられるかもしれません。しかし、予想よりこの現象が起こるのは遅れており、2014年春にずれ込みそうです。
10.太陽活動周期の異変続く
太陽は全体が棒磁石のような巨大な一つの磁場を形成しています。ねじれた磁場を解消するために、極大期には磁場全体の反転現象が起こることが知られていましたが、日本の太陽観測衛星「ひので」からの詳細な磁場データの解析により、2013年には北半球のみが反転し、南半球ではそのままという不思議な状態が発生しました。いままで見たことがない現象のメカニズム解明に注目が集まっています。
太陽磁場の活動に連動して、太陽表面の黒点は、およそ11年周期でその数が増減しています。黒点の増減と地球全体の平均気温の増減を長年に渡って比べてみると、極大期は暖かく、極小期は寒い傾向が見て取れます。これは大木の年輪を調べると、温暖な年と寒冷な年では年輪の太さが異なることや、海洋底のボーリング調査における堆積物の年代変化などから明らかなようです。しかし、その理由、メカニズムについては諸説あり、近年有力と思われる説も万人が納得するまでには至っていません。太陽の活動が停滞し地球の寒冷化を今後もたらすのかどうか、2014年も太陽研究最前線に目が離せないことでしょう。
以上、2013年をまとめてみました。2014年はさらに宇宙の謎解きが進むことでしょう。これからもYahooニュースに注目していただければ幸いです。