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残留争い真っ只中でアスパスが見せた涙。セルタを牽引するエースの誇り。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするアスパス(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

男は、泣きながら仲間に支えられピッチを去った。

リーガエスパニョーラ第29節、セルタ対ビジャレアルの一戦は、セルタが3-2で勝利した。試合終了の笛が鳴ると、負傷明けで2得点と気を吐いたアスパスは、人目をはばからずに号泣した。

優勝が決まったわけでもなければ、残留が決まったわけでもない。だが、今季不振に喘いでいるセルタにとっては、同じく降格の危機に直面しているビジャレアルを下しての大きな勝ち点3だった。

■烙印

一度は、失敗の烙印を押された選手だ。

2013年夏にリヴァプールに移籍したアスパスは、移籍一年目で15試合出場1得点にとどまった。このシーズンのリヴァプールはルイス・スアレスとダニエル・スタリッジが爆発しており、公式戦で55得点を挙げた破壊的な2トップを擁するチームに、アスパスの居場所はなかった。

スペインからイングランドに渡ったが、思い描いたような未来は待っていなかった。しかし、彼には逆境力が備わっていた。もとより、輝かしいキャリアを歩んでいなかったからだ。

アスパスがブレイクしたのは、2011-12シーズンである。38試合出場で、25得点を記録した。突如、現れた新星ーー。だが、当時、アスパスはすでに25歳を迎えていた。

そして、翌シーズンに初めて1部の舞台に立つ。12-13シーズン、アスパスはリーガ1部で37試合に出場して12得点を記録した。デビューシーズンで2桁得点。上々の出来だった。

■心のクラブに

そのセルタが、2015年夏にアスパスの再獲得に動いた。リヴァプールで失敗を経験し、その後セビージャでも歯痒い日々を過ごしていたアスパスを、セルタが移籍金530万ユーロ(約6億円)を支払って復帰させた。

2017年の冬の移籍市場では、中国のクラブがアスパス獲得に動いていた。年俸800万ユーロ(約10億円)で2年契約という破格のオファーだったが、アスパスはそのオファーを断った。

また、リーガでは現在、各クラブに所属選手の総年俸額の上限があり、セルタのそれは5000万ユーロ(約62億円)だとされている。アスパスの年俸は200万ユーロ(2億5000万円)前後だ。

今季開幕前には、レアル・マドリーが獲得に関心を寄せていた。「9番の選手を探していた。関心はあった。だけど、正式なオファーや交渉はなかった。そして、彼らは最終的にはマリアーノ(・ディアス)を選んだ」とは、アスパスの弁だ。

■得点能力が開花

キャリアの終盤に入り、アスパスは得点能力を開花させた。過去2年で2016-17シーズン(19得点)、2017-18シーズン(22得点)とゴールを量産。この数字を上回るのは、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、クリスティアーノ・ロナウドのみだ。

先のビジャレアル戦後、涙を流すアスパスを、2歳の息子が不思議そうに眺めていた。

「息子は幼い。セルティスモ(セルタ主義)の何たるかを、まだ理解できていないんだ」

決して、エリートではない。だが、彼はピッチ上でセルティスモを体現する唯一無二の存在だ。

近年、大金に目が眩み移籍を決断する選手が増えている。無論、短いキャリアのなかで、プロとしてより良い条件と報酬を求めるのは当然だろう。しかし、だからこそアスパスのような選手の活躍は、忘れていたものを取り戻すきっかけを与えてくれるかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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