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変わらない日本企業も、確実に変わってきている。

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
変わらないといわれる日本企業にも変化が起き始めている(写真:イメージマート)

 日本のマクロ経済は、この30年をみると、拙記事「「日本の名目GDPを1,000兆円に」の視点から、日本の経済や国力について考えてみよう!」「日本は「失われたX年」をいつまで続けるのか?」などでも書いたように、ほとんど成長してきていないといえるほどの惨憺たる成果にある。

 また筆者も、以前は企業の方々と話す機会等があっても、その動きは緩慢で、なかなか変化が起きていないと感じることがしばしばだった。その結果が、下図「世界の時価総額ランキング(1989年&2023年)」にも示されているように、国際的社会における日本企業の大きく低下してきているプレゼンスの状態にも顕著に表れているということができるであろう。

図「世界の時価総額ランキング(1989年&2023年)」
図「世界の時価総額ランキング(1989年&2023年)」

 それらのことは、個々の日本企業の中にも、革新的に成長しているものや新しい変化を起こしているものがほとんどないのではないかと、筆者に考えさせるに十分だった。

 そのようななか、筆者は、最近企業の仕事に関わる機会をいただいている。その関係で、さまざまな企業について知ったり、多くの企業関係者(特に、広い意味で組織変革等に関わっている方々)と話す機会を得てきている。

 それらの最近の経験を通して、筆者は、自身のこれまでの日本企業観は、ある一面の真実ではあっても、必ずしもすべてではなく、次のように考えるようになってきている。

 日本国内の外国人材は増えているように感じられるが、日本の企業も日本国内の事務所や工場などだけをみていると、それほど大きく変わっているようには見えない。だが、これは飽くまで筆者の肌感覚にすぎないが、日本の企業も、まだまだ一部の企業ではあろうが、猛烈に変わってきているようだ。

 日本でも、企業の社員や役員における女性を中心としたより多様な人材から構成されることが、日本企業や企業におけるイノベーションなどのために、必要であるという議論が高まってきている。他方で、日本の企業は、変化が叫ばれてもなかなか変わらないし、日本にある企業の事務所や工場をみる限りでは、女性社員の退職が減少してきていたり、管理職や幹部職の女性比率が高まってきていたり、外国出身人材が増えてきていたりしており、徐々にではあるが変化してきているが、飛躍的に変わったというにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 ところが、視点を変えて、グローバルな観点から、日本企業をそのグループ全体からみてみると大きな変貌が起きているようだ(注1)。

 日本企業は、その一部ではあろうが、この数十年で、M&Aなどで海外のさまざまな企業等を、自社のグループに取り込んできている。その結果、企業における社員や役員における人材構成が大きく変わってきているのだ。

 例えば、日立製作所は、従業員は、1999年には33.8万人でうち80%の27万人が日本、20%の6.8万人が海外にいたが、2023年には36.8万人でうち43%の15.7万人が日本、57%の21.1万人(その多くは非日本人)が海外勤務。なお、売上は、1999年国内5.7兆円、海外2.3兆円、2023年国内4.2兆円、海外6.1兆円であった。また2012年には、役員層に非日本人も女性もいなかったが、2022年には日本人以外は13名(全体に占める割合18%)、女性9名(同12%)となっている。

 同社では、このようにして非日本人や女性の人材の積極的な活用を試みてきているのである。

 またAGCは、2022年12月現在で、売上高2兆359億円、営業利益1,839億円、グループ従業員数約57,600名で、30を超える国と地域で事業を展開しており、海外売上高比率は約7割、海外子会社従業員比率は約8割(その多くは非日本人)となっている。

 そして、AGCは、同社の国際的で多様化したネットワークのなかで、同社グループ内のインナーブランディング(注3)を構築し、グループの内の一体感を構築するために、さまざまな工夫をしている。そのうちの一つとして象徴的な活動が、日本語、英語、簡体字(中国語)、タイ語、インドネシア語などの多言語(注2)による社内広報メディア(WEBがメインで、グループ報「We are AGC!」(四半期報)や壁紙(AGC WORLD DIGEST)のような紙媒体も活用)を発信している。

 上記の例は、筆者が知る事例のほんの一部に過ぎない。しかしながら、このような実例は、日本企業の一部に過ぎないが、組織の在り方や、グローバル経済における動きかたやビジネスを大きく変えてきているし、ひいては日本企業全体に影響を与え、日本国内にある事務所や工場などのあり方にも確実に変化を生んでいくと考えられる。

 それは、つまりなかなか変わらないといわれる日本企業も、やっと根本的な変化を起こしてきているのであり、確実に中長期的に変貌していくことを意味しているということができるだろう。

(注1)日本の企業のダイナミズムに関しては、次の資料なども参照のこと。

「DXは生産性と企業内の資源再配分に影響を与えるか?」(権赫旭&金 榮愨、経済産業研究所HP)

(注2)「インナーブランディングとは、『インナー』の言葉が意味する通り、会社の「内側」、つまり、主に従業員に対して行う、マネジメントとしてのブランディング活動のことです。外部に向けて発信されるブランドと従業員を結び付け、従業員にブランドが持つ意味を浸透させることで、実際の行動につなげてもらうことを目的にしています。」(出典:「インナーブランディングとは?事例やメリット、具体的な施策を解説」識学総研HP、2022年1月15日)

 またこれに対して、これとも関わるインターナルコミュニケーションとは、「社内向けに行う広報活動のことです。従来は、社内広報のような情報共有活動と捉えられていましたが、近年では社内コミュニケーションを活性化させる活動全般を指します。コミュニケーションの国際的なプロフェッショナル団体である米国IABCでは、『組織内の情報交換で理解と行動を生み出し、組織のビジョンや価値観を従業員間で強化しながら、従業員が外部に向けて発信すること』と、定義しています。つまり、企業への理解を深めて従業員をファン化し、従業員自身に自社の良さを広めてもらうことが最終的な目的と言えるでしょう。」(出典:「インターナルコミュニケーションとは? 目的やメリット、導入方法について解説」人事バンクHP、2022年3月3日)

(注3)AGCのグループメンバーの半分以上は、日英以外を母国語としている。そのための対応として、主要言語については機械翻訳「WOVN」を導入し、グローバルにニュースを発信するページを制作している。また、2022年1月には、従来の日英掲載に加えて、中国語(簡体字)とタイ語での情報表示を開始している。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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