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「北朝鮮兵士500人戦死」の信憑性 ウクライナ戦場での熾烈な情報、心理、攪乱戦!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
重傷を負った北朝鮮兵士?(韓国「MBN」放送から)

 勝負事には心理戦、情報戦、攪乱戦は付き物。まして戦争となれば、過熱する。勝つか、負けるか、存亡がかかっているだけにありとあらゆる手を使うのは当然のことだ。

 問われるのはそれを報じる当事国以外のメディアの「眼力」だ。情報の真偽を見極めることができるかどうかだが、裏の取りようのない情報や伝聞を検証するのは容易ではない。ネタ元が「情報筋」や「消息筋」ならばなおさらである。

 筆者は11月6日付のこの欄で「ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の『虚実』 何が本当で何がフェイクか?10件の情報を検証する」との見出しを掲げ、北朝鮮派兵に関する様々な説を取り上げ、検証したが、偶然にも3日後に韓国の公共放送「KBS」TVが「裏北ニュース」というコーナーで「『北朝鮮の戦闘食糧は犬肉』を信じられるか?・・・SNSはもう一つの『戦場』」と題して」北朝鮮派兵関連情報の真偽を正面から検証していた。

(参考資料:ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の「虚実」 何が本当で何がフェイクか? 10件の情報を検証する!)

(参考資料:韓国「KBS」TVもウクライナ発の北朝鮮派兵情報を検証)

 

 そして、昨日(26日)も韓国のケーブルテレビ「MBN」が「オンラインでフェイク情報と戦争中」と題してネット上に流れている北朝鮮派兵情報について取り上げていた。

 番組冒頭で女性キャスターは「ウクライナとロシアは物理的な紛争だけでなく、オンラインでも戦争を繰り広げている。特に北朝鮮軍の派兵以降は敵陣を揺さぶる心理戦が熾烈に繰り広げられている。これには偽情報も含まれている」と述べ、続いて同局のレポーターが以下のように報告していた。

 「重傷を負って地面に横たわっている兵士の軍服には北朝鮮の国旗と金正恩(キム・ジョンウン)委員長の顔が縫い付けられています。この写真の出所は親ウクライナのソーシャルメディアアカウントです。親ロシア派のソーシャルメディアのアカウントには北朝鮮兵士と思われる部隊がロシア語で戦争に参加する意志を再確認している動画も見られます」

 「万歳!を叫んでいる彼らは北朝鮮兵士のように見えますが、どちらも実際の北朝鮮の兵士である可能性は低いです。北朝鮮の最高尊厳とされる金正恩の顔が服に縫い付けられている可能性は低く、北朝鮮軍がロシアの土着民に変装したというウクライナ軍の公式説明とも合いません」

 「ウクライナにとっては負傷者や戦士に対する否定的なイメージを作り出すことで敵の士気をくじくことができますし、ロシアにとってはその強さを誇示することで敵の士気をくじくことができます。たとえそれがフェイク情報であっても、実際の北朝鮮軍がこのような動画や写真を見れば、大きな影響を受けることでしょう」

 韓国のメディアは北朝鮮がロシアに派兵していることもあって連日、ウクライナ情勢を伝えているが、特に北朝鮮絡みとなると、なんでもかんでもニュースにしている。

 

 韓国の情報機関「国家情報院」(NSP)が10月18日に「北朝鮮兵士第1陣(約1500人)が10月8日から13日にかけてロシアに上陸した」と情報を公開してから約40日が経過した。

 ロシアにはすでに約1万~1万2千人の北朝鮮の軍人が駐留しており、このうち約8千人がロシアのクルスク州に配置されていることはウクライナ当局も、また米国防総省も確認しているが、それ以外は情報が錯綜し、正確な情報を把握できないでいる。

 例えば、ウクライナ戦線を支援するリトアニアの非政府組織(NGO)ブルー・イエローのジョナス・オーマン代表は10月28日に現地メディアとのインタビューで「25日にすでにクルクス州でウクライナ部隊と北朝鮮兵が含まれたロシア部隊との間で初の交戦が行われた。1人を除いて北朝鮮人を含む全員が死亡した」と明らかにし、その後、生き残った兵士の映像を公開していたが、ウクライナの国防情報本部「前線に投入されたという正確な情報はまだない」と、北朝鮮兵士との交戦を否定していた。

 また、11月4日にはウクライナ国家安全保障・国防委員会傘下の虚偽情報対策センターの責任者であるアンドリー・コバレンコ氏が「北朝鮮軍がクルスク州で初めて攻撃を受け、40人が死亡した」と伝えたが、米国防総省は北朝鮮の戦闘参加「現時点では裏付けられない」と、「40人死亡説」には同調しなかった。

 ウクライナ当局が交戦を認めたのはゼレンスキー大統領が11月5日夜のビデオ演説で「北朝鮮兵との初めての戦闘は、世界の不安定に新たなページを開くことになる」と発言してからである。ゼレンスキー大統領は2日後の7日には「交戦はウクライナが侵攻したクルスク州であり、北朝鮮側に死傷者が出た」と付け加えていた。

 しかし、米国防総省のサブリナ・シン副報道官は7日(現地時間)、この交戦情報について「まだ確認していない。注視しているところだ。そのうちわかるだろう」と、直ちに追認しなかった。米国は12日(現地時間)になって初めて「1万人以上の北朝鮮兵士らがロシア東部に移動し、その大半がロシア軍の戦闘作戦に関与し始めたことを確認した」と国務省が記者らにブリーフィングしていた。

 また、ウクライナが使用した英国の巡航ミサイル「ストームシャドー」でロシア領クルスクに配置されている北朝鮮兵士らが「500人死亡した」との23日に流れた情報についても米国防総省のシン副報道官は26日(現地時間)の記者会見で「我々は北朝鮮兵士らがクルスク州におり、ウクライナ軍と交戦する準備ができているとは言ったことはあるが、死亡者が出たとの報道は確認していていない」と説明していた。

 また、米CNN放送が11月22日(現地時間)伝えた「北朝鮮の兵士が北東部の激戦地、ハルキウや南東部の港湾都市、マリウボリに姿を現した」との「ウクライナの安保消息筋」の情報についてもシン副報道官は「ウクライナに北朝鮮軍がいるとのいかなるシグナルもない。彼らはクルスク州周辺に配置されているが、現時点でウクライナには移動していない」と、この情報を否認していた。

 議会が批准した「一方が武力侵攻を受けて戦争状態に瀕する場合、全ての手段で軍事的援助を提供する」ことを定めた「露朝包括的戦略パートナシップ条約」にプーチン大統領も金総書記も署名を終えたものの批准書が交換されていないため北朝鮮兵士らはクルスク州に配備されたままの状態で戦闘には本格的に加わっていない可能性も考えられる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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