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あなたはなぜ「タバコ」を吸うのだろう

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

尊敬する医師とタバコ談義をしているとき、筆者はこう言われたことがある。

「タバコの恐ろしさはね、タバコが原因で深刻な病気になった患者本人か、そうした悲惨な患者をたくさん診てきた医師にしか、本当のところはわからないんじゃないかな」

いちいちリンクは張らないが、タバコが原因で深刻な病気になった方々の声は、例えばYouTubeで「COPD」とでも検索すればインタビュー動画がたくさんアップされている。喫煙者に対して最も有効で説得力のあるアドバイスができるのは、やはりこうした事例を間近でみてきた医師だ。

定期的な健康診断の際などで医師は、禁煙するつもりのない喫煙者にもアドバイスできる可能性がある。また、医師や薬剤師などの医療従事者のアドバイスがあるとなしでは、禁煙する割合がはっきり増えることはわかっている(※1)。

一方、喫煙者の家族の存在も重要だ。喫煙者の父親とタバコを吸わない母親、そして子どもがいる家庭では、母親からの禁煙支援 家族を含めたカウンセリングが有効だというランダム化比較試験(RCT)もある(※2)。

香港で行われたこの研究では、1158家族に対して対面式の「家族カウンセリングセッション(family counseling session、FCS)」などを用い、母親の支援といった介入群と比較した。すると7日間の禁煙で5.7%、6ヵ月間の禁煙で5.9%、それぞれ禁煙成功率が上がったという。また、家族カウンセリングセッションで父親の自発的な禁煙意欲が増加し、母親の支援や父親への禁煙サポートでもそれぞれ効果があったようだ。

喫煙者への4つの問いかけ

医師、家族や身近な存在、そのどちらも禁煙サポートには重要だろう。「リセット禁煙」という心理的なアプローチで禁煙サポートをしている磯村毅医師は、まず4つの質問をしつつ、喫煙者の持つ「禁煙したい」という気持ちを引き出していく、と言う。これは「なぜタバコを吸うのか」「自分の意志でタバコを吸っているのか」「タバコが美味しく感じるのはいつか」「タバコを吸うメリットは何か」という4つの問いかけからなる。

まず「なぜタバコを吸うのか」という問いに喫煙者は「なんとなく」とか「習慣になっている」などと答える。だが、喫煙はニコチンという薬物による依存症だ。タバコを吸うのは習慣のせいだけではないことを理解してもらうためには、「では、健康に害があることがわかれば、その習慣をやめることができるか」と問いかけてみる。

次に「自分の意志でタバコを吸っているか」という質問には、知らず知らずのうちに吸っている、という回答が多い。たとえば、トイレに行く行動と比べてみた場合、自分で「トイレに行こう」と思ってから行く。だが、喫煙は「何かのチカラ」によって自分の意志とは別の何か(ニコチン)のせいで吸っている、ということを自覚してもらう。

喫煙者は「タバコが美味しいときは」と聞かれると、食後や仕事の合間、朝起きたてすぐ、などと答える。食後のタバコのために食事をしている、というようなことはないか、タバコを吸う前はそうしたことはなかったのではないか、ということを話して見る。どうしてそういう状態になったのか、といえばニコチンの依存症になっているからだが、自分の状態についてかえりみてもらうのも重要だ。

さらに「タバコを吸うメリット」について質問する場合、メリットとデメリットも同時に答えてもらう。リラックスできるなどのメリットの多くは、ニコチンの作用によるものだ。デメリットは健康への害毒だが、医学的なエビデンスで知識を補ってみてもいい。

禁煙成功者の4タイプ

ところで最近、禁煙成功者へのインタビュー調査で禁煙者の類型を探る研究論文が出された(※3)。過去6ヶ月から24ヶ月以内に禁煙に成功した37人のオーストラリア人(24歳から68歳、男性15人、女性22人)を対象に、質的な統計調査(数で表せない非定量的疫学調査)を行ったと言う。

これで何を調べたかったのかというと、喫煙者が禁煙する際、衝動的、突発的にするのか、それとも準備周到に少しずつ実行に移していくのか、という傾向、禁煙の精神的な努力の有無、さらに禁煙するきっかけの影響についてだ。

禁煙サポート、禁煙治療では、患者の性格や症状、環境などによって治療計画を入念に施すのが良いとされてきたが、臨床の現場では禁煙者の半数以上が突然、何も準備せずに禁煙ができているのも事実だ。どちらがいいか探る意味合いもあるが、この論文の目的は禁煙成功者の事例から今後の禁煙サポートの知見にすることもある。また、インタビューには「グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach、GTA)」を使った(※4)。

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イラスト:いらすとや

調査の結果、禁煙者には大きく4つのタイプがいることがわかった(うち一つは類推)という。

まず「慎重型」。何度も禁煙にチャレンジした体験がある人が多い。周到に準備をしてから、おもむろに禁煙のとりかかり、行きつ戻りつしつつタバコを遠ざける。

次に「一気呵成型」。きっかけ次第で勢いで禁煙するタイプだ。禁煙を考えたり準備をしていても実行に移せなかったが、何かのチャンスを利用してタバコをやめることができた人たちになる。

それまでタバコをやめることは毛頭考えていなかったにもかかわらず、病気をするなど人生の一大転機でいきなり禁煙する人もいた。これは「突発型」であまり多くはない。

この論文の調査対象にはいなかったが、ほかの研究などから「自然消滅型」の可能性が示唆された。ごく少数派だが、いつの間にか吸わなくなっていた気楽なタイプということになるだろう。

いずれにせよ、禁煙の準備をまったくしなかった禁煙成功者はほとんどいかなった。やはり、何らかの準備が必要ということになるが、喫煙者によってその準備も多種多様だろう。

これまでの禁煙サポートモデルでは、禁煙希望者のほとんどは「慎重型」と考えられてきた。こうして類型分けすることで、4タイプのそれぞれの喫煙者に対するきめ細かいサポート方法が開発されるかもしれない。

さて、あなたはどのタイプだろうか。また、あなたの身近にいる喫煙者は慎重型だろうか。

※1:M C Fiore, et al., ”Treating Tobacco Use and Dependence.” Evidence-Based Practices for Substance Use Disorders, 2000(2008年に更新)

※2:S S C Chan, et al., "Family-Based Smoking Cessation Intervention for Smoking Fathers and Nonsmoking Mothers with a Child: A Randomized Controlled Trial." The Journal of Pediatrics, Vol.182, 2017

※3:Andrea L Smith, Stacy M Carter, Sally M Dunlop, Becky Freeman and Simon Chapman, "Measured, opportunistic, unexpected and naive quitting: a qualitative grounded theory study of the process of quitting from the ex-smokers’ perspective." BMC Public Health, 17:430, 2017

※4:GTAは質的研究でよく使われている手法だが、この研究者はキャシー・シャーマズ(K, Charmaz)の構成主義的GTAを用いたらしい。構成主義に対する客観主義的GTAというものがあるが、構成主義的GTAでは対象分析の解釈や意味づけの構築を目指す。データの取り扱いなどにも違いがあるが、インタビューの質問項目でも、より対象者の動機や内面に踏み込んだ問いかけをする手法だ。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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