倒産する有名子供服ブランドが“タダ働き”を強要? 会社の倒産に対処する方法を考える
「昨日まで普通に営業していたのに突然LINEで解雇の連絡。今月の給料も払えない。スタッフ任せでやれる店舗だけ営業してってどんな会社だよ!!!!」
アパレル店員を名乗るアカウントがtwitterに投稿したこのようなツイートがインターネット上で話題になっている。
ツイートでは社名は伏せられているが、全国に約100店舗を展開する子供服ブランド「motherways」を運営するマザウェイズ・ジャパンの破産申請に関係するものだと推測されている。
このユーザーによれば、会社が倒産するため解雇する旨を突然LINEで通知され、解雇日まではシフト通り出勤し、閉店セールに従事することを求められたという。しかも、その間の給与は支払えないとまで言われているようだ。
閉店セールが実施された店舗には、割引された商品を求めて客が殺到し、レジには長い行列ができた。店員たちは今後の生活に不安を抱えながらも、休憩も取れない辛い状況のなか、客への応対に徹しなければならなかったのだ。
インターネット上には店員に同情する声が溢れる一方で、「給料もらえないと分かっているのに、なんで働いているの?」、「働いていないで次の仕事を探した方がいい」といったコメントも多く寄せられた。
このような状況でも労働者は働かなければならないのだろうか。
また、会社が倒産する場合には、労働者の給与や退職金がきちんと支払われないことも多い。そのような時にはどうしたらよいのだろうか。
今回は、会社が倒産しそうな時に労働者が取るべき対応について整理したい。
出勤を求められても応じる必要はない
上の例のように会社が賃金を支払わないことを明言しているようなケースは、当然ながら出勤する必要はない。
労働契約は、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」について両者が合意することによって成立する(労働契約法第6条)。
会社が賃金を支払えないと言っているような場合は労働契約自体が成り立たないから、出勤要請に応じる必要はないのだ。
会社が賃金を支払うと言っている場合はどうだろうか。経営状態が悪く、倒産しそうになっているような状況ではきちんと支払われる保証がない。もし支払われなかった場合は“タダ働き”になってしまうが、このような場合でも働かなければならないのだろうか。
労働基準法第15条第2項には、労働契約締結時に労働者に対して明示された労働条件が実態と相違する場合には、労働者は「即時に労働契約を解除することができる」と定められている。
すでに賃金の支払いが遅れていたり、賃金が減額されていたりする場合はこれに該当するため、すぐに退職することができる。残業代がきちんと支払われていない場合も同様だ。
ただし、有給休暇が残っている場合には、それを消化してから辞めた方がよい。後述する「未払賃金の立替払制度」により、その分も含めて賃金を取り戻せる可能性があるからだ。有給休暇を取得する旨を記載した書面を会社に送り、有休を請求した記録を残しておいたほうがよい。
一方で、会社が賃金を支払わないと言っていたとしても、会社の求めに応じて出勤した場合にはその分の賃金を請求することができるので、働いた時間をきっちり記録しておくとよいだろう(会社が支払わない場合には、「未払賃金の立替払」の請求が可能)。
倒産時に賃金を確保する方法
次に、働いた分の賃金を確保する方法について説明したい。
倒産時には、賃金の支払いに必要な財産が会社に残っていないことが多く、また、他の債権者とも取り合いになるため、専門家に相談した上で適切に対処する必要がある。
特に、会社が法律上の倒産の手続を開始しておらず、倒産が疑われる段階であれば、すぐに専門家に相談することが重要だ。
というのも、例えば、会社が裁判所に破産を申し立てると、債権者の個別的な取立てはできなくなり、破産法に定められた手続によってしか支払いを求められなくなってしまう。
賃金債権には先取特権が認められており優先的に弁済を受ける権利があるが、残っている財産が少なければ賃金を回収できなくなってしまうこともある。
そこで、法律上の倒産手続が開始される前に手を打っておくことが重要なのだ。早期に適切に動くことで支払いの原資となりうる財産を確保できる可能性がある(この際、労働組合を活用するのが有効であるが、それについては後述したい。)。
もし、すでに会社が倒産手続を始めてしまい、支払が不可能になっているような場合でも諦める必要はない。
会社が倒産したことによって賃金や退職金の支払いが受けられない労働者を救済するために、その一定範囲について国が事業主に代わって支払いを行う制度がある。「未払賃金の立替払制度」だ。
この制度は、裁判所に対する破産等の申立日の6か月前の日から2年の間に退職した者などを対象としている。
退職日の6か月前の日以降に支払期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払となっている金額の100分の80の立替払を受けることができる(上限額あり)。全額とはいかないが、かなりの部分を回収することができるのだ。
立替払の請求にあたっては、未払賃金の額について破産管財人等による証明を受けた上で、独立行政法人労働者健康安全機構に請求を行う。この制度を利用するためにも、働いた時間の記録を残しておくことが重要になるというわけだ。
会社の経営状況に目を向けておこう
これまで倒産が現実化したケースを想定して説明してきた。ここからは、そこまでの状況になっていなくても近い将来に倒産することが疑われる状況での対応策についても考えていきたい。
突然の倒産に関連する労働相談は、私が代表を務めるNPO法人POSSEの相談窓口にも一定数寄せられている。
例えば、昨年、相談窓口に電話をくれた20代の男性は、働いている人材サービス会社から、ミーティングの席で事業所の閉鎖と解雇を突然言い渡された。「明日から出勤するな」と言われ、その場でオフィスの鍵の返却を求められたという。「給与や退職金が支払われるのかも分からない」と非常に困った様子が電話口からも伝わってきた。
経営が破綻しそうな会社は、取引への影響などを恐れ、できるだけその状況を隠そうとする。だから、働いている労働者がそれを見抜くのは難しい。上の事例のように、倒産直前に告げられるケースがほとんどなのだ。
しかし、倒産するほどまでに経営が悪化している場合、注意していれば、その兆候を察知することもできる。
例えば、給与の減額、手当や賞与の廃止、希望退職者の募集が行われている場合などは経営状態が悪い可能性が高い。賃金の支払いが遅れたら、かなり危険な状況だと思った方がよい。
設備投資を控えていたり、資産を売却したりしているような場合も注意が必要だ。また、過剰な経費削減を求められる、督促状が届く、借入審査のためにメインバンク以外の銀行の視察が来る、社内の恒例行事が中止になるといった兆候も危険信号だといえる。
危険信号が出たら、すぐに専門家に相談
危険信号が現れたら、労働問題に強い弁護士や労働組合にすぐに相談に行くべきだ。
法律上の倒産手続が開始される前であれば、労働組合で賃金の確保について会社と交渉するのが最も有効である。会社に労働組合がない場合でも、個人加盟の労働組合(ユニオン)に加入して会社と交渉することができる。
労働組合による団体交渉では、経営状況を確認するために資料や説明を求めることができる。倒産した場合に賃金を確実に支払わせるために、使用者に対して未払債権額に関する証明書の作成を求めることも可能だ。
倒産が現実味を帯びてきた場合には、隠し財団がないかを調査することや、支払いの原資となる財産の処分に労働組合の同意を要することとする協定を締結しておくこともできる。
このように、労働組合の団体交渉によって財産の散逸を防ぐことができ、倒産する前に不法に財産を奪われることを抑止することができるのだ。
労働組合が経営の再建を図った事例
会社が倒産した場合に、労働組合が事業の経営権の譲渡を受けて自主営業した事例や、別の経営者を見つけて会社を再建した事例もある。
インドカレー料理店「シャンティ」の5つの店舗では、インドとバングラデシュの労働者16名が働いていた。ところが、2016年5月、社長から「店舗を閉店するので全員クビ」、「給料を支払う余裕はない」などと告げられたのだ。
外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士に相談した結果、彼らは労働組合を結成し、会社との団体交渉を開始した。この時点で、彼らの賃金は約2年間支払われていなかった。
会社が破産手続を裁判所に申し立ててしまったために団体交渉は困難を極めたが、ツイッターを通しての支援呼びかけは全国的に広がり、寄付金が多く寄せられた。
支援の輪が広がった結果、最終的には、経営をやってもよいという新しいオーナーを見つけることができ、経営権の譲渡を受けて営業を再開することができたのだという(なお、シャンティの労働争議の経緯については雑誌『POSSE Vol.32』に詳しい)。
このように、会社の倒産という厳しい状況でも、労働組合を活用することにより困難を克服したり、最低限の収入を確保したりすることができる。
突然の倒産には混乱する方がほとんどだと思うが、そのような時こそ周りの仲間と協力し、集団的に解決する方法を模索することが大切なのである。
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