外国人労働者受け入れ世論調査でわかった、きわめて残念な企業の実態
朝日新聞社の世論調査で浮かび上がる実態
12月8日に入管法が改正され、来春から外国人労働者の受け入れが拡大されます。これを受けて朝日新聞社が世論調査したところ、外国人労働者を受け入れる態勢については86%が「整っていない」と答えたという。
この結果に誰も驚かないことでしょう。なぜなら外国人労働者受け入れ以前から「急務」と叫ばれていることすら、遅々として進んでいない実態が、この調査で明らかになったからです。
この世論調査は、「人口減社会」をテーマに朝日新聞社が実施したものです。外国人労働者受け入れ態勢のみならず、「女性の働く環境」についてや、「高齢化が進む中での人口減少」についても調査しています。
驚くのは、「今の日本が女性にとって働きやすいか」の質問に対して、35%しか「働きやすい」とこたえていないことです。「子どもを産み育てにくい社会だ」と答えた人にいたっては72%にものぼっており、第2次安倍政権下における最重要施策であるはずの「女性活躍推進」が、まるで進んでいないことが浮き彫りになったと言えるでしょう。
企業の現場はどうなのか?
私は企業の現場に入って支援するコンサルタントです。大企業から中小企業にいたるまで、ニュースに取り上げられるような先進的な企業や、特殊な業界を除くと、いまだに現場は男性社会であることを肌で感じています。
10年以上前から、企業の規模、業界問わず、経営者や管理者向けにオープンな講演を繰り返し実施してきました。年間1000人以上の前で話してきましたが、参加者の90%以上が男性であることに違和感を覚え、6年ほど前から女性活躍の場をつくる草の根活動を続けています。
女性活躍促進法などが整備され、環境変化に期待しましたが、いまだ現場で目にする風景はほとんど変わりません。これは私の講演のみに限りません。経営者や中間管理職を対象とする研修では、おおむね参加者の属性に変化がないのです。(メガバンクや地銀などが主催する研修機関の調べ)
女性に教育の機会が増えていないという実態を、多くの人に知ってもらいたいと私は考えています。これは企業体質の問題です。
それ以外にも、例を上げましょう。
働き方改革関連法が成立し、来年4月から新たな残業の上限規制ルールが適用されます。労使合意による「特別条項」がなければ、年360時間が新しい上限。月間30時間の残業が基本路線になるわけですが、現場では「そんなことできるはずがない」と鼻で笑う経営者も少なくありません。
特別条項がある場合でも月60時間が上限(それでも残業45時間を超える月が6ヵ月を超えてはならない)です。このケースでも「難しい」「そんなことしたら仕事にならない」と、意に介さないマネジャーも多い。
上限を超えたら違法となるいう、新しい社会のルールが来年4月からスタートします。にもかかわらず企業における当事者意識は、恐ろしいほどに低いのが現実です。
根本的な企業の問題
女性活躍促進も長時間労働の是正も、働き方改革の骨子。働き方改革を進めることに反対する人は、経営層から現場層にいたるまで少ないことは誰もが認めるところです。(帝国データバンクの「働き方改革に対する企業の意識調査2018」では、63.1%の企業が働き方改革を前向きに捉えていると答えた)
あらゆる調査結果を見ても、日本企業に働き方改革は必要であり、自社にとっても前向きに取り組むべきだという意見が多数であるとわかります。
ところが思惑通りに進まない。
この矛盾に、日本企業の根本的な問題が隠されていると言えます。
それは、日本企業の「変化耐性の低さ」です。働き方改革といったテーマにかかわらず、どのようなテーマであれ、表面的には賛同するが、具体的な話になると及び腰になる。このような日本人の気質に起因している。
これを「総論賛成各論反対」という価値観と呼びます。
この価値観は、人を思考停止にします。社会で決まったこと、経営者が言うことに賛成するが、実際に手を動かそうとする前に反対の態度をとります。ですから「考えるチカラ」が養われていきません。
このような価値観の人が集まり、組織を形成すると「集団的無能」という状態になります。金縛りにあったかのように、組織そのものが硬直化します。
「総論賛成各論反対」が人や組織に根付いているかぎり、外国人労働者の受け入れどころか、女性活躍促進も、長時間労働の是正も、なかなか進まないことでしょう。
急激なスピードで少子高齢化が進む日本において、現場におけるこの変化スピードの遅さは致命的です。
残業が減らなくても、女性の社会進出が進まなくても、企業の現場を知らない人にとっては、しょせん他人事。対岸の火事。しかしながら外国人労働者の受け入れに関しては、企業に従事していない方にも直接的に関わることです。
法改正は来年の4月。「各論反対」と言ってはいられない状況で、企業の現場はどのように対応をしていくのか。思考停止していた組織の潜在力が試されます。