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韓国野球レポート:巨大財閥の統べる野球の都・大邱(テグ)

阿佐智ベースボールジャーナリスト
熱狂的なサムソン・ライオンズのファン

 韓国プロ野球・KBO10球団の中で、リーグ創設の1982年から親会社、チーム名、本拠地とも変わっていない球団は2つだけである。釜山(プサン)に本拠を置くロッテジャイアンツと、今や世界を代表する電子メーカーを中核とする企業グループ傘下にあるサムソン・ライオンズである(近年は「サムスン」の表記が一般的だが、従来野球に関しては「サムソン」の表記が多かったのでここでそれに従う)。このチームは半島南東部の慶尚北道に囲まれた韓国第3の広域市である大邱(テグ)を球団発足以来本拠としている。

サムソン・ライオンズ・パーク
サムソン・ライオンズ・パーク

巨大財閥発祥の地、大邱に本拠を置く名門球団

 韓国南東部、慶尚北道に囲まれた大邱特別市はサムスン財閥発祥の地だ。日本の統治下にあった1938年この地で発足した「三星商会」がのちの大財閥の始まりである。このグループ発足の地に、プロ野球発足時からフランチャイズを置いているのがサムソン・ライオンズである。ここ数年は低迷しているが、韓国シリーズ出場17回は、最多の11回の優勝を誇るキア・タイガースのそれをしのいでいる。かつて行われていたアジアシリーズにも最多となる5回の出場を誇り、2011年大会では史上初めて日本シリーズ優勝チームを破ってアジアチャンピオンの勲章を手に入れている。

ベッドタウンにある二軍施設

慶山にあるファーム施設
慶山にあるファーム施設

 ライオンズは大邱近郊の慶山(キョンサン)という町に練習場兼二軍本拠を置いている。現在KBO球団の多くは、自前の練習施設を造り、そこを二軍の本拠としているが、一軍本拠とかなり離れていることがほとんどだ。その点、ライオンズの場合、一、二軍の運用が比較的一体化していると言える。

 大邱自慢の地下鉄の終点駅からバスに乗り、さらに歩くこと15分。正直、観客を呼び入れることは想定に入っていないだろう。それでも1000人収容のスタンドをもつメインフィールドと内野のみのサブフィールド、ブルペンに室内練習場、そして選手寮を完備した施設は、日本のそれ以上だ。

 1990年建設というから、設備的にはかなり年季が入っているが、それは、この球団がいち早くファームの強化に乗り出した証と言うべきだろう。

ファーム施設の選手寮
ファーム施設の選手寮

様々な工夫が凝らされた最新鋭のボールパーク

地下鉄駅から球場への通路
地下鉄駅から球場への通路

 二軍の本拠から一軍の本拠まではさほど離れてはいない。距離にして十数キロだ。市の中心からは地下鉄で30分ほどのところにある運動公園の中に2016年開場の新スタジアム、サムソン・ライオンズ・パークがある。駅の改札を出て球場へと続くエスカレーターの壁にはライオンズの主力選手がペイントされている。そのエスカレーターを上がると満開の桜とともに巨大スタンドが視界に飛び込んでくる。その威容は旧本拠、大邱市民球場とは全く違う。まさに「ボールパーク」の名がふさわしい。

満開の桜とサムソン・ライオンズ・パーク
満開の桜とサムソン・ライオンズ・パーク

 独立間もない1948年に建造された大邱市民球場は、旧市街の端、大邱駅近くにあった。名門チームのホームには不似合いなスタンドは何度か改築されたが、収容1万人とKBO球団でも最低で、年々高まるプロ野球人気に追いついていなかった。そこで市とサムスングループが共同出資して郊外に新球場を造ることを決定、3年余りの年月をかけて2016年シーズンを前にして収容2万9000人のボールパークが誕生した。

市街地にある旧本拠、大邱市民球場
市街地にある旧本拠、大邱市民球場

 この新球場は丘陵を削って造られている。建設に当たっては、メジャーリーグ、フィラデルフィアフィリーズのホーム、シチズンズバンクパークを参考にしたという。上空から見ると八角形にデザインされているスタンドは、どの席も内野フィールド方向を向いており、非常に観戦しやすい印象だ。

サムソン・ライオンズ・パークのモデルとなったフィラデルフィアのシチズンズバンク・パーク
サムソン・ライオンズ・パークのモデルとなったフィラデルフィアのシチズンズバンク・パーク

 

 巨大な内野スタンドに比して外野スタンドが小さいのは光州、昌原などの他のボールパーク様式のスタジアム同様であるが、このスタジアムには、丘陵を切り開いたという特徴を生かした内野芝生席がライトポール近くにある。1塁側上層スタンドに続くエリア、下層スタンドの上部にある世界でも類を見ないこの内野芝生席は、いわゆるピクニックエリアになっているのであるが、春先はまだ寒い大邱という町にあって、あるファンはテントを張って、また別のグループはビニルシートを敷いてまるで日本の花見のような感じで野球観戦に興じていた。

1塁内野席の端、上段にある芝生エリア
1塁内野席の端、上段にある芝生エリア

 そしてこの芝生席から外野スタンドに向かう階段を降りると、サムソン・ライオンズが生んだ韓国球界のレジェンド、イ・スンヨプを描いた大きな壁画がある。その壁画の前には、彼が韓国と日本球界で記録した626本塁打を顕彰したモニュメントが建てられている。

ライオンズが生んだレジェンド、イ・スンヨプ
ライオンズが生んだレジェンド、イ・スンヨプ

ライト側からレフト側へ回る。このボールパークは、外野コンコースの上にも上層スタンドがある。レフト側の上段席は、大きなテーブルを備えたピクニックエリアになっており、大邱のマイクロブリュワリーのクラフトビールを味わうことができる。

ここでは地元産のクラフトビールも味わえる
ここでは地元産のクラフトビールも味わえる

 

 3塁側内野スタンドコンコースへの階段を上がらずにそのままいくと、内野スタンド下のフードコートの入り口がある。この中からはフィールドは見ることはできず、見た目はショッピングセンターのフードコートそのものである。

スタンド内にあるフードコート
スタンド内にあるフードコート

 品揃え豊富なグッズショップを含め、見て歩くだけでも楽しいボールパーク。訪れるファンの多くは、開場とともに入場し、まずはここで腹ごしらえをして試合に臨むようだ。ちなみに韓国の野球ファンが、フィールドに集中するのは試合中のみ、試合前練習に注目するファンは多くなく、試合が終われば、すぐに撤収する。あのチアリーダーに先導される熱狂的な応援風景を見ているとそれもうなずける。

 チームへの情熱はすべて試合にぶつける、それが韓国の野球ファン気質のようだ。

韓国野球観戦に欠かせない応援団
韓国野球観戦に欠かせない応援団

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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