前日まで台湾応援団に占拠されていたライトスタンドが侍ジャパン一色に変わったわけ【プレミア12】
「世界野球」プレミア12は昨日スーパーラウンドを終え、いよいよ最終順位決定の2試合を残すのみとなった。昨夜のスーパーラウンド最終戦となった日台戦は、デーゲームのアメリカ対ベネズエラ戦でアメリカが勝ち、日台両チームの決勝進出が決まったことにより「消化試合」となったが、満員札止めの中、大きな盛り上がりを見せた。
台湾では、代表チーム辞退者も出るなど、当初盛り上がりにかけていたが、いざトーナメントが開始されると次第にファンの熱気も高まり、スーパーラウンド進出が決まるやいなや、チケット争奪戦が始まった。その余波で日本への航空券の価格が急騰したという。実際、昨夜の試合でも、アウェイにもかかわらず、三塁・レフト側のスタンドからは、台湾チームに対する大きな声援が響き渡っていた。
それにしても不思議なのは、一日目、二日目と昼の試合では台湾応援団に占拠されていたライトスタンドが、ナイターになると侍ジャパン一色に染まったことだ。
この大会、東京でのスーパーラウンドでは各日すべて通しチケットが販売されている。つまり、昼と夜とで観客の入れ替えはない。しかし、初日と2日目の台湾戦では台湾チームが陣取る一塁側、ライトスタンドは台湾の大応援団に占拠されていた。ところが、ナイターで行われた侍ジャパン戦では、彼らの姿は消えてしまい、外野席はライト、レフトすべて侍ジャパンを応援するファンで埋め尽くされていた。彼らはどこへ行ってしまったのだろう?
台湾と言えば親日国として知られている。それもあって、代表チームは度々侍ジャパンのテストマッチの相手として来日し、その試合の風景も友好的な雰囲気に満ちている。となると、一昨日までは、デーゲームのスタンドを埋めていた台湾人ファンたちが夜は侍ジャパンに声援を送っていたのか、あるいは、日本人ファンが昼間の台湾戦で「友好声援」を送っていたのか?
実際デーゲームのライトスタンドに足を運んで見ると、自分が台湾の球場にいるかのような錯覚に襲われた。そこで飛び交っていたのは、紛れもなく台湾で話されている中国語で、スタンドの一角にはトランペット部隊を従えた応援団が陣取り、台湾球界自慢の「美人チア」たちの姿もあった。
関係者に尋ねるとこのからくりがわかった。
いわゆる応援団がスタンドでファンの声援をリードする文化をもつのはおおむね東アジアに限られる。ラテンアメリカにもないことはないが、「有志」が各自おもいおもい楽器を鳴らし声援を送るだけで、日本や台湾のように組織だったものではない。
SNSなどでは、スピーカーからの大音響の中、ベンチ上で美女揃いのチアが踊りながら応援をリードする台湾式応援が東京ドームで見られないことを嘆く声が多数発せられたという。それを楽しみにベンチ近くの座席のチケットを買った人も少なくないだろう。実際、台湾ではこのベンチ上周辺の席が最も人気のある席となっている。かつて行われていた各国の優勝チームが覇を争うアジアシリーズでは、同じような応援文化をもつ日本、台湾、韓国が集っていたこともあって、内野席に社会人野球都市対抗のような応援台が設けられ、台湾、韓国の応援リーダーがチアをたずさえて陣取っていた。そして日本もこれにならい、普段はイニング間にフィールドで活動するチアリーダーが、同じように応援台に上がっていた。
しかし、今大会は太平洋の向こうの西半球のチームもスーパーラウンドに進出する。今回はアメリカとベネズエラが東京ドームにやってきたのだが、確かに内野に応援台を設けたところで、両国にそれを利用する応援文化はないし、そもそもメジャーリーガーが基本出場しないこの大会で両国のファンが大挙して東京ドームに足を運ぶことは想定されない。実際、スタンドにいた両国ファンは、日本在住者と選手、スタッフの縁者で占められていた。
そのような事情も考慮して大会当局は、事前にスーパーラウンド進出各国の統括団体に「応援団」の有無を問い合わせたという。そして、内野席が応援の中心であるのが台湾だけということもあり、外野を応援エリアとし、侍ジャパンが陣取ることになるライトスタンドに応援リーダーの専用エリアを設ける一方、レフトスタンドにも応援リーダーエリアを設け、申し出のあったチームにはチケットを割り振ったという。アメリカ、ベネズエラからはその申し出がなかったため、これらの国相手の試合は、外野席が侍ジャパン一色に染まり、昨夜の台湾戦では、レフトスタンドの端に台湾応援エリアが出現したというわけだ。ここから発せられる鳴り物と応援リーダーの声に呼応して内野スタンドからも台湾ナインに対する声援が発せられていた。
つまり、初日と2日目のレフトスタンドにいた台湾ファンの一群は、内野の各席のチケットを持っていたファンが自然発生的に集まったもののようだ。この両日、台湾は一塁側ベンチをあてがわれていたために、ナイターでは侍ジャパンの応援リーダーたちが使うスペースを台湾応援団が使っていた。そこからの応援リーダーの声につられて、はるばる台湾からやってきたファンがレフトスタンドに吸い寄せられたのだ。本来、指定された席以外の場所での観戦はご法度なのだが、日本戦以外のスタンドは、とくに外野はスカスカ状態。価格的に上位の内野席から移動することまで取り締まるような野暮なことは、運営をつかさどったNPBもあえてしなかったようだ。
そのような事情は、台湾側も承知で、昨夜のジャパン戦に際しては、メディアなどを通じ、チケットで指定された席での観戦が呼びかけられていたという。その結果、レフトスタンドの一番の端の一角に台湾応援団が陣取り、そのリードに合わせて、三塁側スタンドの各所から台湾チームへの声援が送られる昨夜のような状況になった。昨夜の台湾へのあの声援の大きさは、それだけ多くのファンがこの大会のために日本にやってきたことを示している。
今日も昨夜と同じ光景が東京ドームで繰り広げられるだろう。日本としては実力ナンバーワンチームとして連覇は絶対ノルマ。しかし、昨夜の試合を見てもわかるように台湾も実力をつけてきている。海を越えてやってきたファンとともに金メダルをという気持ちは強いはずだ。
(写真は筆者撮影)