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「Bリーグでプレーする唯一のチャンス」という思いで契約した秋田で見事な活躍をしているライスナー

青木崇Basketball Writer
加入直後から秋田の巻き返しに貢献しているライスナー (C)B.LEAGUE

 最初のバイウィークを迎える前のラストゲームとなった11月12日のアルバルク東京戦に敗れた秋田ノーザンハピネッツは、3勝11敗という厳しい状況に直面。元々外国籍選手の得点に頼らないチームでB1を戦ってきたが、新戦力として期待していたロバート・ベイカーとジェフリー・クロケットは、予想以上にオフェンスで貢献度が低かった。

 秋田のフロントはこの現状を打開するために新外国籍選手獲得に着手し、2019−20から2シーズン在籍するなど、チームのプレースタイルとBリーグを理解しているハビエル・カーターを獲得。もう一人はオールラウンドな能力を持つタナー・ライスナーである。

 NCAAディビジョン1、アメリカ・イースト・カンファレンス所属のニューハンプシャー大出身のライスナーは、4年生だった2017−18シーズンに平均18.7点、6.9リバウンドを記録。4年間通算1962点はチーム史上1位という実績の持ち主だ。

「選手としては常に一生懸命プレーしている。だれにも頼らない。自分のシュート力はドライブやすべてを生み出すのに役立っていると感じている。だから、ハードにプレーして、シュートやドライブのスキルを身につけることで、オールラウンドな選手になっていると思う」

 自身の強みをこう語るライスナーは、大学卒業後にドイツ、イスラエル、トルコ、リトアニア、スペインというヨーロッパでプロキャリアを積み重ねてきた。しかし、今季契約したスペインのトップリーグ、ACBに所属するスンデール・パレンシアではなかなか出場機会に恵まれない日々を過ごすことになる。ライスナーのバスケットボール人生において、最もつらい時期だった。1月20日に長崎ヴェルカに勝利した後、パレンシアにいた当時を次のように振り返る。

「スペインにいたとき、いろいろなものが見え始めたんだ。本当に憂鬱でつらかったし、自分のプレーができなかった」

 2016年の創設以来、Bリーグは、多くの外国籍選手にとって魅力的なリーグに発展している。ライスナーも日本でプレーするチャンスがないかと思う選手の一人であり、秋田からのオファーがあった時点で、エージェントに対してすぐに“YES”と返事するように伝えたという。

「1年半くらい前から日本に来たいと思っていたんだ。今日、妻にも話したんだけど、スペインにいたときにBリーグは毎週数試合YouTubeにアップされていた。確か長崎と渋谷の試合を見ていたのかな。スペインにいる間、Bリーグに入れたらいいなと思いながら試合を見ていたし、今長崎と対戦していることなんて想像すらできなかった。とても幸せだし、ここに来ることができて本当にうれしいんだ」

 筆者は12月6日に行われた秋田対宇都宮ブレックス戦の解説を担当していたため、ライスナーのB1デビューとなった信州ブレイブウォリアーズ戦のゲーム2を現地で取材。この試合で34点、4Qだけで18点を奪ってチームを勝利に導いたのをこの目で見たとき、秋田にとって素晴らしい補強になるという印象を持った。

 宇都宮戦は10点と少なかったものの、67対63というロースコアで勝利した試合の出場時間におけるプラスマイナスが+12。残り12秒に自身のミスショット後にオフェンシブ・リバウンドを奪って決勝点となるレイアップでフィニッシュするなど、肝心な局面で素晴らしい仕事をしている。

 初めて日本でプレーする多くの外国籍選手が順応に時間を要するものだが、ライスナーは秋田のスタイルに短時間でフィットできている。それは、加入後の秋田の成績が6連勝を含む14勝6敗ということでも明らか。ビッグゲームの経験が豊富な古川孝敏は、ライスナーが早くアジャストできた要因を次のように話す。

「すごくコミュニケーションをとってくれますし、流れの中で自分の良さを出すのがすごくいいところかなと思います。ボールを持ってのバックダウンとか、ただ1対1をさせるというのは僕らもしたくない。とてもスマートだし、僕らのバスケット・スタイルを理解した中で自分の良さをすごく出してくれているし、そのおかげで僕らも生かしてもらえる」

 フィジカル面に目を向けると、週末に2日連続で試合をやることはライスナーにとって未経験であり、ヨーロッパでプレーしていたときよりも基本的に試合数が多いことに慣れなければならない。それでも、Bリーグのスタイルに短時間でアジャストできた理由について聞かれると、ライスナーは“マインドセット”と答える。そして、秋田でプレーする機会を得たことは、自身のキャリアで非常に大きな意味を持つと実感しているのだ。

「このリーグでプレーできることを証明するたった一度のチャンスだと思っている。スティーブ(ザック)とはここに来る前に話したんだけど、“アグレッシブになってこのチャンスを生かすんだ”って言われたんだ。コーチはプレーする機会を与えてくれたし、自分らしいプレーをさせてくれることで自信を持たせてくれた。そのおかげで、移籍はとても簡単だったと思っている」

 対戦相手からより詳細なスカウティングをされた中でも、ライスナーが今後も質の高いプレーで勝利に貢献し続けることになれば、秋田はシーズン終盤にチャンピオンシップ進出争いに絡んだとしても、決して驚くべきことではない。Bリーグでのプレーを熱望していた中でやってきたワンチャンスをモノにしたライスナーは、秋田の熱いファンがもたらすエナジーをもらいながら、チームが勝つためにハードに戦い続けるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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