大関霧島は連続優勝なら横綱昇進か。12・13勝での優勝が当たり前の昨今の事情と囁かれる部屋閉鎖も勘案
昨年12月場所で優勝(13勝2敗)した大関霧島(陸奥部屋)の「綱取り場所」となる1月場所が14日から始まります。優勝すれば横綱昇進確実とみられている半面で勝利数によっては、さらに優勝を逃した場合でも物議を醸すかもしれない状況が発生するかも。
さらに所属する部屋の師匠である陸奥親方(元大関・初代霧島)が4月に定年(65歳)を迎えて部屋存続の危機にも立たされているのです。展開を予想してみましょう。
1月場所で優勝すれば新横綱誕生は確実
横綱昇進の最終決定権を持つ横綱審議委員会(横審)は条件として「大関で2場所連続優勝か、準ずる成績」と内規で記しています。 順番は、
1)日本相撲協会の審判部長が「条件を満たす」と判断したら理事長に昇進を審議する理事会召集を要請する
2)理事会の賛同を得て理事長が横審に推薦を諮問する
3)横審の審議で出席者の3分の2以上の賛成を得て決定
です。
最も堅いのが「大関で2場所連続優勝」。ゆえに霧島が1月場所で優勝すれば新横綱誕生は確実との見方が有力です。ただ優勝したとしても13勝2敗以下だと過去の例に照らして注文がつく可能性もあります。
3代目若乃花は14勝1敗で優勝した次場所で12勝3敗で連続優勝。協会内から「12勝では」と疑問符をつける声も上がったものの諮問され横審は出席者全員一致で賛成。武蔵丸は13勝2敗での連続優勝で最初のハードルである審判部の会議から反対意見が出たのです。横審は出席者全員一致で賛成。
直近だと昨年9月場所で優勝した貴景勝の星が11勝4敗と低く「綱取り」の11月場所で連続優勝したにしてもハイレベルでないと見送られる可能性を取り沙汰されました。
もっとも内規は「連続優勝は鉄板。準ずる成績は考慮」と一般に解せられているのです。言い換えると「準ずる」は認めて連続優勝達成者は見送るとなると訳がわからなくなるので。こうした基準は1987年末に発生した「横綱双羽黒廃業騒動」に起因します。
1989年以降、連続優勝しないとダメと厳格化へ
双羽黒は大関時代、12勝3敗(優勝次点)、14勝1敗(優勝同点)と優勝なしで横綱昇進。この頃は割と珍しくはなく、現理事長の北勝海も12勝3敗(優勝)、13勝2敗(優勝次点)と連続優勝していないのです。
ところが双羽黒は横綱昇進以降も優勝できないまま所属部屋の師匠らと悶着を起こして廃業する憂き目となりました。現役時代の幕内優勝もゼロ。懲りた協会は翌89年以降、連続優勝しないとダメと厳格化へと踏み切ったのです。
思い切り影響を受けたのが同年の大関旭富士(現在の伊勢ヶ浜親方)。14勝1敗(優勝同点)、13勝2敗(優勝次点)、13勝2敗(優勝同点)でも許されず、翌90年に14勝1敗での連続優勝でようやく綱を手にしました。
94年の貴乃花も5月場所14勝1敗、9月場所全勝優勝と圧巻の成績ながら間の7月場所が11勝4敗であったのを問題視されて見送り。11月場所で2場所連続全勝優勝を果たして「参ったか!」とばかりに昇進したのです。
直近3代は「準ずる成績」でも昇進
ところがこの「連続優勝でないとダメだ」基準は2014年昇進の鶴竜から崩れ出します。14勝1敗(優勝同点)、14勝1敗(優勝)で昇進。以後稀勢の里が12勝3敗(優勝の14勝と2差)、14勝1敗(優勝)、照ノ富士が12勝3敗(優勝)、14勝1敗(優勝次点)で綱が許されたのです。
言い換えると、直近3代は「準ずる成績」でもOKしている以上、格上の「連続優勝」での昇進を阻むのは理が通らない。ゆえに霧島がいかなる星勘定であったにせよ優勝すれば昇進確実とほぼ断言できます。
最大の要因は「横綱不足」
「断じて連続優勝」を崩した最大の要因は「横綱不足」です。長らく1強で独走していた白鵬も18年頃から衰えが目立ち、穴を埋めるような形であった鶴竜も翌19年あたりから休場を繰り返します。
待ってましたの稀勢の里も17年の横綱1場所目で優勝と引き換えに大けがを負って以後ほとんど休場状態。結局、稀勢の里が19年1月、鶴竜も21年3月に引退し、孤塁を守る白鵬もとうとう同年9月場所後に引退します。
この9月場所から綱を張ったのが照ノ富士。ただ彼の場合は元々ケガと病気でいったん大関から序二段まで転落した後の奇跡の大復活劇であったがゆえに22年以降の12場所で8場所も休場を余儀なくされる体調です。
「弱い大関」問題が出来
最高位が弱体化したならば大関にとって綱取りの絶好のチャンスのはずながら、今度は「弱い大関」問題も出来。白鵬が下り坂に差しかかった18年以降に大関昇進した6力士のうち栃ノ心、朝乃山、正代、御嶽海の4力士が大関での優勝すらかなわぬまま陥落しました。昨年になってやっと霧島が優勝、9月場所から昇進した豊昇龍の評価はまだこれからです。
例外が19年から大関を張る貴景勝で大関として3度も優勝しています。イコール綱取り場所も3回あったものの2度途中休場、3度目の先場所が9勝6敗と「準ずる成績」にすら遠く及ばないありさまです。
14勝以上が当たり前だった優勝ラインが近年「≒12勝3敗±1」
たまに出場する(この時は概ね強い)以外は休場の横綱と「弱い大関」が相まって近年の優勝ラインも下がり気味。17年までは14勝1敗以上での優勝が15年を除いて(※注1)6場所中4回以上で13勝2敗以下は稀でした。
これが18・19年が3回となり、20年1回(※注2)、21年は白鵬と照ノ富士が全勝優勝した2回、22年ゼロ、23年も1回と激減。反対に22年は12勝3敗での優勝4回、23年も同2回+11勝4敗1回と「優勝ライン≒12勝3敗±1」となっています。
となると霧島が優勝を逃したとしても12勝3敗以上であれば最近の星勘定だと上げていいのではという声と、さすがに難しいという反論が審判部で戦われそうです。注目は照ノ富士の動向。出場して14勝1敗以上で優勝したら同点以外だと「さすがに」と見送られるかも。
最近の興行は連日満員御礼
優勝ライン低下の背景としてどうしても考察したくなるのが11年に発覚した八百長問題です。クロ認定されて引退勧告された力士は前頭下位以下でしたが、では上位に絶対なかったかというと……。
いずれにせよ協会は以後、そうと疑われる行為を撲滅する方向で動いてきました。7勝7敗同士を千秋楽でぶつけるとか、幕内下位で好成績を上げている力士を中終盤で上位陣と当てる「割り返し」をためらわないなど。
いくら番付下位でも平均体重160キロ同士がほぼ裸で15日連続でぶつかり合う「毎日が交通事故」状態で真剣勝負を求められたら2・3敗はしそうだしケガも当然増えるはずです。
もはや「横綱は優勝して当たり前」「大関は常に優勝を狙う」という至上命令を課すのは酷かもしれません。優勝レベルが下がっても最近の興行は連日満員御礼でテレビ視聴率も好調。ファンは一足早く現状を織り込んでいます。
鶴竜の「音羽山」襲名と独立
さて焦点の霧島属する陸奥部屋の後継ぎ問題。師匠が4月に定年を迎えます。報道では部屋付きの浦風親方(元前頭筆頭敷島)が継承に難色を示しているとか。真偽はともかくあり得る話。いくら「現役時代の地位と指導者の能力は別」としても先代が元大関で部屋に横綱になろうとしている現役大関を抱えているのは荷が重い。
ここで昨年末、部屋付きの鶴竜親方が年寄「音羽山」を襲名して独立するという大ニュースが飛び込んできました。筆者は「音羽山」を同じ二所ノ関一門の阿武咲へ行くと推察していたので驚き。
角界の看板力士を一門のどこが引き取るか
閉鎖を防ぎたければ陸奥が属する時津風一門の部屋付き親方をスカウトする手もあるとはいえ、現師匠と再雇用者、借株(一時襲名)を除く6人(浦風を除く)のうち最高位は元関脇の2人(勢と土佐ノ海)。一門の総意は奈辺にありや。
音羽山親方が陸奥親方と名跡交換して部屋を継がなかった背景として鶴竜が元々井筒部屋出身で、親方の急逝で部屋閉鎖の結果、陸奥へ移ってきた経緯がありそう。まして自身の名跡をゆくゆくは愛弟子の現霧島に継がせたいであろう師匠の意向を斟酌したのかも。
閉鎖となったら大変。大関か横綱である角界の看板力士を一門のどこが引き取るか。新たな音羽山部屋なのか。現霧島は27歳と、あの大谷翔平より2つも若いバリバリだから要注目です。
※注1:15年は3回。すべて白鵬
※注2:20年は新型コロナウイルス感染の影響で年5場所