トランプ当選でますます勢いづくメディア「Breitbart」とスティーブン・バノン氏の危険度
トランプを徹底的に応援してきたニュースメディア「ブライトバート」(Breitbart News Network)が勢いづいていている。メディア分析会社「NewsWhip」が、大統領選の開票日(11月8日~9日)に、主要ニュースサイトを対象に選挙関連記事のエンゲージメント数をカウントしたところによると、なんと、「CNN」「NY Times」、「Fox News」を上回ったという。また、当選後はアクセス数がうなぎ上りだという。
http://www.breitbart.com
「ブライトバート」の運営・主導を行なってきたのは、スティーブン・バノン(Steven Bannon)。この8月から、トランプの選挙戦の参謀(選挙対策本部最高責任者)を務め、トランプに過激発言、差別発言を「控えるな!もっとやれ!」と煽った人物だ。
その結果、トランプは最後まで暴言を繰り返して、当選してしまった。この論功行賞で、なんとバノンは、政権移行チームに入り、「首席戦略官・上級顧問」という新設ポストに就くことにになった。
スティーブン・バノンは、ハーバードのビジネススクール卒で元ゴールドマンサックスの金融マンというピカピカの経歴の持ち主である。軍人も経験していて、海軍では将校を務め、ハリウッドではTVドラマにも出資してきたという。そして、メディア買収事業を立ち上げて、「ブライトバート」を買うと、これをもっとも過激な右翼メディアに変えてしまった。「ブライトバート」は、「オルタナ右翼」(alt-right)の巣窟と言われている。
「オルタナ右翼」というのは、白人至上主義者、レイシスト(人種差別主義者)、ミソジニスト(女性蔑視)であり、反フェミニズム、反ポリティカルコレクトネス、反ユダヤ主義、反多文化主義、反LGBTと、なんでもありの“差別主義”の塊だ。
私はアメリカ社会にいるわけではないから、彼らの主張を読んだり聞いたりはしても、その心情がどうなっているのかはよくわかない。ただ、単純に言い切ってしまうと、オルタナ右翼というのはアメリカという国自体を否定している。とういうのは、彼らは「民主政治」「自由と平等」などを認めないからだ。アメリカの建国の精神であり、独立宣言に書かれている「人は生まれながらにして平等である」ということを根本から覆そうとしている。
11 月 16 日 配信の「 JST」記事によると、《バノン氏は2014年、米ニュースサイト「デーリー・ビースト」の人物紹介記事で、「私はレーニン主義者だ」と述べた。「レーニンは国家を破壊したがっていたし、それが私の目標でもある。私は全てをたたきつぶしたい。今日のエスタブリッシュメント(主流派)を全て破壊したい」》というから、
日本にとっては本当に危険な人物だ。
実際のところ、スティーブン・バノンは、民主党はもとより、共和党からも徹底して嫌われている。多くの共和党支持者やリバタリアンというのは、とても保守的で素朴な田舎の人々であり、熱心なキリスト教信者(宗教保守)だからだ。
「オルタナ右翼」というのは、リベラルに対しての保守というような位置付けを超えて、保守でもなんでもない、差別主義の塊で、「この世界は、人種的にすぐれている白人が支配しなければならない」と考えている。だから、黒人はもとよりイエローである日本人などゴミとしか思っていないだろう。
トランプは首席補佐官に、ウィスコンシン州ケノーシャ出身の弁護士で、共和党全国委員会のランス・プリーバス(Reince Priebus)を選んだ。これは共和党の主流派との間にパイプを通すためとされる。実際、プリーバスはライアン下院議長ら党主流派とのパイプも太い。しかし、44歳と若い。しかも、首席補佐官なのに、発表された名簿ではバノンのほうが上になっている。
スティーブン・バノンはその経歴からいって非常に頭のいい人物だから、じつは「オルタナ右翼」は方便で、民衆支配の道具として活用しているだけかもしれない。
要するに、トランプを当選させるため、白人の貧困層や中流下層の不満を吸い上げようと、差別感情を利用しただけ。本質は「オルタナ右翼」でない可能性もある。
しかし、そうとしたら、政治は単なるゲームになってしまうから、もっと危険だ。
私はリベラルの夢想主義、理想主義より、保守の現実主義を信奉している。しかし、今回のトランプ政権は、共和党政権のようで、共和党政権ではない。戦後民主主義をアメリカによって植え付けられた日本とは、価値観が共有できる相手ではない。
現在、日本のメディアはトランプ当選でコロッと変わって「ご祝儀報道」を繰り返しているが、このような人物がアドバイザリーにいる限り、この政権は危ない。
現在、「ブライトバート」は、月間ユニークユーザー数が3700万人だという。今後は、トランプ勝利の追い風に乗ってさらにユニークユーザー数を伸ばすことを目指している。ロイターが編集長のアレックス・マーロウ(Alex Marlow)を取材した記事(11月9日)によると、すでに多くのジャーナリストを採用し始めていて、今後はポッドキャストや動画といったマルティメディアを強化していくという。また、テレビ番組を立ち上げるとも言っている。
「ブライトバート」が、トランプ大統領の広報メディアになるのは間違いないだろう。