日米の検察当局が脛に傷を持つ最高権力者の周辺で動き始めた
フーテン老人世直し録(342)
極月某日
特別国会が閉幕した9日、東京地検特捜部が中央リニア新幹線の建設工事を巡り、偽計業務妨害容疑で大手ゼネコン大林組の家宅捜査に入ったとのニュースが流れた。国会が終わったその日に特捜部が動いたと聞くと事件は政治がらみかと思いたくなる。
またこれより4日前に東京地検特捜部は、スーパーコンピューター開発ベンチャーの社長ら2人を経済産業省が管轄する団体から補助金4億3千万円余りを騙し取った容疑で逮捕した。先月末でNHKの国会中継が終わったのを見計らい、国会審議に影響させない配慮を行った上での逮捕と言える。
しかしこの逮捕劇は永田町に衝撃を与えた。逮捕された斎藤元章社長が、安倍総理や麻生財務大臣と親しい山口敬之元TBS記者を顧問に雇い、官邸に近い「ザ・キャピトルレジデンス東急」内に豪華な事務所を提供していた人物だからである。そして逮捕の日は山口氏に強姦されたと訴える伊藤詩織さんが起こした民事訴訟の第一回公判の日だった。
一方、金を騙し取られたとされる経済産業省は安倍官邸を牛耳る今井尚哉総理首席秘書官の出身官庁で、事件に山口氏や今井氏の関与があったとすれば一大スキャンダルとなる。野党から見ると「森友・加計」に次ぐ「第三の疑惑」の誕生である。
そこに中央リニア新幹線の入札談合で大手ゼネコンに家宅捜索が入ったのである。これが政治がらみに発展すれば、「第四の疑惑」として年明けの政界を揺さぶることになる。しかし「森友・加計」とその後の2つの案件には決定的な違いがある。後の2つは官邸の指揮下にある東京地検特捜部によって明らかにされたのである。
ところが野党の中には「もりとかけはそばだがスパゲッティも出てきた」と軽口をたたき、疑惑を「もり、かけ、スパ」と総称し、通常国会での追及材料が増えたと喜ぶボンクラもいる。その程度の認識では足元をすくわれる危険性があるとフーテンは危惧する。
追及する側はなぜこのタイミングで特捜部が動いたのかを冷静に見極める必要がある。そして官邸と各官庁間の関係に変化は生じているか、権力者間の力関係はどうか、与党と官邸の関係はどうか、権力内部の状況を把握しながら追及の手を考えなければならない。
野党の仕事は権力を追及して国民の喝さいを浴びる事ではない。権力を追及してその手から権力を奪うことである。そのためにはやみくもに追及して権力内部の結束を固めさせるより、権力内部の矛盾が増大するように仕向けることが肝心である。すべてを一律に叩くのではなく強弱をつけた追及で矛盾を導き出すのである。
今年の国内政治は「森友・加計疑惑」に終始した。それを「些末な問題にこだわっている」と批判する人もいるが冗談ではない。安倍総理は「少子高齢化」と「北朝鮮危機」を「国難」と呼ぶが、それ以上の「国難」が「森友・加計疑惑」である。長く自民党政治を見てきたがこれほど統治機構の異常さを感じたのは初めてである。
「少子高齢化」も「北朝鮮危機」も確かに大問題ではある。しかしそんなことは何十年も前から分かっていた。人口減少社会にどう対応するか、少子高齢化をどうするかは三十年以上も議論され、様々なアイデアが出されてきた。
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