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2017年の安倍政権は「忖度」と「排除」に助けられた

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(346)

極月某日

 2017年の日本政治を象徴する言葉と言えば「忖度」と「排除」につきると思う。「忖度」は安倍総理を直撃した「森友・加計疑惑」において頻繁に使用された。一連の疑惑は最高権力者が身内に有利になるよう「指示」したのではなく官僚が勝手に「忖度」した結果だというのである。

 「忖度」となれば責任の所在は曖昧になり安倍総理にとって致命的な打撃にならない。しかし「忖度」を言うために政府内の資料はことごとく廃棄され、また「総理のご意向」とするメモの存在を認めた前川前文科次官の告発もあって、国民世論は安倍総理を信用しなくなった。内閣支持率は危険水準と言われる3割程度にまで落ち込んだ。

 支持率が落ち込んだ安倍総理は臨時国会でそれ以上の追撃を避けるため、大義名分のない臨時国会冒頭解散に打って出た。その時、小池百合子東京都知事が希望の党を立ち上げ、それに民進党が合流すれば与党過半数割れになることが確実視された。安倍退陣の流れが現実になるかに見え安倍自民党は青ざめた。

 するとどこからか希望の党の「排除リスト」なるものがメディアに流れる。民進党の十数人が希望の党から排除されるというのである。それを質問された小池都知事は「全員を受け入れる気はさらさらない」と言い「排除」の言葉を使った。この「排除」の言葉を一斉にメディアが宣伝する。これで選挙は「保守のリベラル潰し」という構図になり、野党分裂選挙になったことで与党は3分の2の議席を維持することができた。

 2017年に安倍総理の窮地を救ったのは「忖度」と「排除」という二つの言葉である。安倍総理が臨時国会冒頭解散に打って出た時、憲法改正に必要な衆議院で与党3分の2は維持できないことを覚悟したはずである。憲法改正を犠牲にしてでも安倍総理は「森友・加計疑惑」追及を逃れる必要があった。

 それはトランプ大統領の初のアジア歴訪が迫っていたからである。予定通り臨時国会が開かれていれば野党から追及を受ける中でトランプ大統領を迎えなければならない。支持率が低迷したままで迎えることになる。多少議席を減らしても状況を一新する必要があった。

 トランプ政権の初のアジア歴訪にとって最重要の外交舞台は中国の習近平国家主席との会談である。10月18日に開かれた5年に一度の中国共産党大会で習近平体制が基盤を固め2期目のスタートを切った後の11月9日に会談は設定され、それに伴って日本と韓国訪問のスケジュールも決められた。その時に日本の政治が混迷し、安倍総理がレームダックだったり、他の人間に代わっているのはトランプ政権のシナリオにはない。

 メディアは「排除」の言葉に敏感に反応したが、フーテンはそれよりも小池百合子東京都知事が安倍総理打倒を掲げて希望の党を立ち上げたにもかかわらず、出馬をしないという選択の方に疑問を持った。安倍総理の解散宣言と同じ日に希望の党結成を表明し、「政権選択選挙」と銘打ったのは明らかな安倍政権打倒の表明だからである。

 小池百合子氏は第一次安倍政権の時に安倍総理の足を引っ張ったいわば「天敵」の一人である。そのため第二次政権では「イジメ」に遭い、政権の中枢から「排除」され続けてきた。その逆襲劇が自民党東京都連を悪役に仕立てて都知事選挙に打って出た昨年の動きである。

 小池氏は第一次安倍政権で2007年7月に防衛大臣に就任したが、就任するや「防衛省の天皇」と呼ばれた守屋武昌事務次官の交代を求めて安倍政権を揺さぶり、7月末の参議院選挙で自民党が惨敗すると8月の特別国会を欠席して訪米、チェイニー副大統領やライス国務長官と会談して自身を売り込み、帰国後はインド訪問の安倍総理と同時期に別にインドを訪問するという異例の外交を行い、8月末の内閣改造の前に自ら再任を拒否した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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