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スペインがパリ五輪で優勝できた理由。フランスとの激闘に、金メダル獲得までの道筋。

森田泰史スポーツライター
決勝ゴールを決めたカメジョ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

開催国を撃破して、栄冠を手にした。

パリ五輪の決勝、フランス対スペインの一戦は、延長戦の末にスペインが5−3で勝利した。スペインにとって、32年ぶりの金メダル獲得だった。

■決勝の舞台

決勝は物凄い試合だった。77分まで、スペインが3−1でリード。だがフランスが怒涛の追い上げを見せ、78分に反撃の狼煙をあげると、アディショナルタイムにはPKをゲットしてスコアをタイにした。

優勝を果たしたスペイン
優勝を果たしたスペイン写真:森田直樹/アフロスポーツ

「拮抗した試合だった。フランスは素晴らしいチームで、我々を自陣に下がらせるくらいのプレーをしていた。ディテールの部分で、我々が勝てたのだと思う。選手たちは魂を込めて戦ってくれた。金メダルを最後まで信じていた」

「歴史的で、美しい出来事だ。我々は長い間、金メダルを獲得するために働いてきた。スペインのフットボール連盟とオリンピック委員会にとって重要だった。そして、もちろん、選手たちにとってね。彼らは一生、この出来事を忘れないだろう」

これはサンティ・デニア監督のコメントだ。

■ベストメンバーではなく

スペインは、五輪前のEURO2024で、A代表が優勝を果たしている。

当然、というべきか、A代表の主力は五輪に呼ばれなかった。ラミン・ヤマル(バルセロナ)、ニコ・ウィリアムス(アトレティック・クルブ)、ペドリ・ゴンサレス(バルセロナ)、本来であれば彼らがパリのピッチに立っていた。

EUROに出場して、五輪に参加したのはフェルミン・ロペスとアレックス・バエナだけだった。「フェルミンとバエナは信じられないくらいに労力を払ってくれた。簡単ではなかった。彼らに感謝している。そのプレーで、決定的な仕事をしてくれた。A代表からオリンピック代表に来て、チームの一員として振る舞ってくれた」とはデニア監督の弁だ。

■バエナとフェルミンの存在

フィジカルコンディションが厳しい状況で、フェルミンとバエナはパリに乗り込んだ。バエナは10番を背負い、スペインの攻撃を操った。決勝では、見事なFKを沈め、そのクオリティを見せ付けた。

そして、フェルミンは、今大会で6得点をマーク。2023−24シーズン、バルセロナでブレイクした新星は、大舞台で真価を発揮。2列目からの飛び出しとミドルシュートでゴールを量産して、金メダル獲得に大きく貢献した。

「幼い頃、僕にはパワーがなかった。ミドルシュートを打つことなんて、考えられなかった。でも、少しずつ力がついて、狙うようになった。すべてが変わったのは(22−23シーズンにレンタル加入した)リナレスで、だ」とフェルミンが回想する。

「あそこで自分のフィジカルベースが上がって、監督のアルベルト・ゴンサレスからは遠くからシュートを打つように言われていた。バルセロナでも、シャビから同じことを言われた。選手の特徴や監督の指示によるけど、僕は中盤の選手なので、そういうプレーでチームに貢献できたらと思っていた」

■指揮官の助力

S・デニア監督は、選手として、1996年のアトランタ五輪に出場している。奇しくも、1992年にスペインがメダルを獲得した次の大会で、つまり“暗黒期”に突入した最初の五輪だ。

また、S・デニア監督は、2021年の東京五輪で、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督(現A代表)の下、アシスタントコーチとしてベンチ入りしていた。その大会では、決勝でブラジルに敗れ、銀メダル獲得という結果だった。

スペイン語で“A la tercera fue la vencida”という言葉がある。ラ・テルセーラ・フエ・ラ・ベンシーダ。「3度目の正直」というニュアンスの表現だ。

S・デニア監督は、まさに3度目の正直で、オリンピックの金メダルを獲得した。

選手たちに指示を送るS・デニア監督
選手たちに指示を送るS・デニア監督写真:ロイター/アフロ

S・デニア監督とデ・ラ・フエンテ監督には共通項がある。それは、どちらも世代別代表で指揮を執ってきたことだ。

S・デニア監督は、U−17、U−19、U−21で監督を務めた後、パリ五輪に臨んでいる。昨年夏には、U−21のワールドカップで、決勝でイングランドに敗れて悔しい思いをした。だが、その時の中心メンバーが、今回の五輪の主力になった。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

スペインに金メダルをもたらす決勝ゴールを決めたセルヒオ・カメジョも、あの時、悔しい思いをした一人だった。

パリ五輪では、基本的にアベル・ルイスの控えはサム・オモロディンだった。だが、おそらくチェルシー移籍が控えているからだろう、コンディションを理由にサムが外され、カメジョがベンチ入りした。

元々、カメジョは五輪の18人の招集リストに入っていなかった。4人のリザーブメンバーに選ばれたが、大会中はサポートに回ることが多かった。「僕は、リザーブメンバーの4人のうちの1人だった。決勝で2ゴールを決められたのは、僕を信じてくれたチームメートのおかげだ」とはカメジョの言葉だ。

ボールをキープするバエナ
ボールをキープするバエナ写真:森田直樹/アフロスポーツ

過去、同じ年の夏に、EUROと五輪で優勝したのは、フランスのみだ。1984年に成し遂げられた偉業を、この度、スペインが繰り返した。

ラ・ロハとラ・ロヒータは、短期間で仕事を完遂した。文字通り、世界と欧州を「赤色」に染め上げている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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